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己の存在を侵すものがあれば、すなわち攻撃すべし(馬10)  作者: 蔵前
十二 せめて騒々しく鐘を鳴らそう
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悪辣な三頭の蛇、いや、三頭の怪獣か?

 俺は百目鬼に騙されて身売りされたのだ。

 この悪魔の三兄弟に。


 始めに玄人を抱いて本館の客間に案内された時は、新婚旅行の新郎の気分であった。

 案内された部屋は女性誌で紹介されている五つ星ホテルのスィートの室内のように、煌びやかで広々として、置かれている備品もアンティークか高級品である。

 バスルームの石鹸でさえ嗅いだ事の無い香りだ。


 俺は今夜ここで、動けない玄人と一晩過ごすのだ。

 それも、玄人は「性」に興味を持ち始めたフシがある。

 ここは攻め時だ!


 だが、玄人が過ごしやすいように部屋に玄人の着替えを置き、玄人の車椅子も用意して、さぁこれから、の時に俺は時間切れとなったのである。


「山口、ちょっとお前はコッチに来い。それで、やっぱり百目鬼はちびと一緒でな。」


 百目鬼の手下となり、凶悪白波アミーゴズの仲間入りした楊という上司によって終了の宣告を受けて、俺は連行されたのだ。

 この、悪魔の巣へ。


 白波アミーゴズが使用している別宅は、別宅と言っても本館に繋がっている建物で本館の東南に位置している。

 駐車場もヘリコプターの発着場も近く、位置的に煩い白波兄弟を追いやったかのように見えなくは無い。


「ユキちゃんさ、この家の客人をヘリで送り迎えする仕事でお小遣い稼ぎしているからね、彼の別宅なんだってさ。辰爺がわざわざユキちゃんの為に増設してくれたんだって。家の天辺に大きなアンテナを設置してあるからか、パソコンが物凄く早いの。スマートフォンもこっちだと感度がいいよ。」


 なぜか家の説明を楊がしている。

 仲良くなりすぎですよ。


 普通に高級住宅の玄関で、そこを入ると広い二階建ての空間が広がる。

 一階が広々としたワンフロアだが、リビングダイニングに書斎にと区分けされており、上階には一部屋十畳はある三寝室があった。


「俺はどこで寝るのですか?」


 俺の問いに楊はポンと肩を叩き、「阿呆。」と笑顔で罵倒してきた。


「ここにちび狙う奴がいるんでしょ。ユキとクミに協力してもらって百目鬼に大体のホシの目星をつけてもらっていたのね。ちびと百目鬼が辰爺さんと邂逅している間に、俺達はユキのヘリでホシを強襲しようかなってね。坂ちゃんにホシの在宅も確認させて準備は万端。いざ突撃だよ。」


 以前俺が百目鬼の口車に乗った時に叱った人とは思えない提案だ。


「強襲って、何をするんですか?」


「パーティ。」


 楽しそうに久美が答えた。


「パーティって何ですか。」


「えー。かわちゃん。この人固くてつまんなくない?オコジョの恋人だから、考え方がカチカチなのかな。」


 由貴が失礼な事をほざいた。


「えー、オコジョはノリ良いよ。花火大会で迷子センターに置き去りにした時は、マユユの子供の振りしてマユユを呼び出したねっかさ。」


「あー。あったね。」


 久美と由貴は楽しそうにごちゃごちゃ話し始めて喜び始めた。


「すいません。マユユって誰ですか?」


 アミーゴズは顔を見合わせてからにやっと笑う。

 動きが双子みたいだ、悪魔的な。


「マユユって俺の兄貴。麻に友達の友でまさともって読めなくても読むの。あいつキャリアでさ、今は新潟県警に配属されて偉そうにしているけどね。学生の頃は長岡の花火大会の警備にもスポンサー協賛の縛りで祖父ちゃん達に狩り出されて使われていたのよ。」


 由貴の説明に久美がヒヒヒと笑う。


「俺らが玄人を連れて花火大会に行ったは良いけど、友達に会ったら邪魔らねっかさ。それで俺達、あいつを迷子センターに捨てていったの。会場にマユユいるしいいかなって。」


 二人はブーと吹き出して笑い出した。

 なんて子供のころから無責任で悪辣な人達だったんだ!


「で、凄いの。迷子センターに放り込んで逃げた俺達の背にね、「マユユー」って玄人の悲鳴のような声が響いてさ。たーすーけーてーまーゆーゆーだぜ。もう、俺ら、夏休み明けの仲間の非難もどうでも良くなって、彼らを捨てて迷子センターに走ったね。マユユがどうするか見たくてさ。」


「俺らが言った、何かあったらマユユに頼れ、をあいつが本気で実行するとは思わなかったれ。素直すぎらて。」


 久美が目に涙を浮かべて、なんて可愛いと、玄人の思い出を語ると、ずいっと由貴が身を乗り出した。


「でもさ、あれ玄人の策略だろ。俺達が戻ったところで、俺達を指差して嘘つきお兄ちゃんが僕を捨てたーって。そんで俺達捕まえられて、後から駆けつけたマユユやらじいちゃんにがっつりやられたじゃない。」


「やられた、やられた。その後は一週間毎日たこ焼き買ってやる刑に処せられてさぁ、近所のたこ焼き屋までママチャリに玄人乗っけて買いに走ったよねぇ。」


「そうそう。でも自分で食べたい時にたこ焼き買ってって言ったくせに、ママチャリに乗せようとすれば逃げるし、捕まえて乗せれば、すてられるーて叫んで恥ずかしいやら。」


「まぁ、奴は俺達が買ってきてあげることを想定していたっけね。」


「バカだよねぇ。甘い契約は火傷の元なのにさぁ。」


 アッハッハとロクデナシ従兄達は思い出話に大笑いしている。


「ちびもそんな大声をあげていた頃があったんだ。あいつ、あんまり声を出せないじゃん。」


「かわちゃん、言うなよ。」


 楊が由貴に肩を突かれた。


「そうられ、これからまた声が出せるように遊んでやればいいんだからさ。」


 久美の言葉に、この人達は本気で玄人を大事にしている人達だと俺は絆された。


「それで、計画を教えてくださいませんか?」


 俺の思いつめた声とは違い、由貴の俺に答えた声は軽いものであった。


「簡単だよ。これから早坂義英はやさかよしひでの家に突撃して、その名のとおりお祭り騒ぎをするだけ。騒ぎの間にかわちゃんか君が警察の目で何か証拠になるものを見つけてくれたらいいかなってね。ヤバイのを見つけたらその場で逮捕ってね。」


「身内から犯罪者を出す事もタブーだけど、身内を殺そうと企む事はもっとタブーらねっかさ。お灸は据えないとね。」


 悪そうな笑顔で久美があとを継いだ。

 計画があるようでないって奴か。

 玄人のためならば。

 良いよ、大丈夫。

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