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ワンワンは骨を齧る生き物

 発見時の被害者の遺体は、公園の中心にある子供用トンネル、そのすぐ手前に転がっていた。

 恐らくバッドを振り回す加害者から逃げるために彼女はトンネル内に逃げ込もうとしたが、加害者のバッドの攻撃の方が被害者がトンネル内に逃げ込むよりも早かったのであろう。


「殺害に至る攻撃は一撃だ。本来だったら綺麗な仏さんだったはずなのによ。」


 一撃で殺された程度の損傷だったはずの遺体の顔は、発見時には骨が剥き出しになるほどに犬に完全に食い尽くされており、身元など判別できない程の酷い有様であったらしい。


「造顔すりゃいいだろ?」


「造顔は専門の方に出すから金と時間がかかると却下。おまけによ、死体発見の目撃者達によって、現場の汚染も執拗に行われてしまったからな。ハハハ、自殺で締めくくりたくなるよ。」


 つまり、死体に驚いた目撃者達は、愛犬達のリードを一斉に手放してしまったという事なのだそうだ。


「もう、犬まっしぐらって奴よ。遺体に残ってただろう証拠は台無しだね。」


「それでも凶器から指紋ぐらい出るだろ。」


 楊は大きな目をぐるっとさせてみせた。


「だから、パニックだって。」


 愛犬達を遺体から遠ざけるために、凶器を振り回した者あり、飲んでいたペットボトルの水を犬にかけた者ありと、愛犬の行為にパニック状態に陥った愛犬家達が各々様々な余計な行動を取ったということだ。

 よって、死体にも死体周辺にも残っていただろう証拠が、何もかも全て破壊されたとそういう訳だ。


「凶器のバットは警察が来る前に綺麗に洗われちゃっててね。自分の指紋が付いていたら捜査の邪魔になるだろうからってさ。それで面倒臭くなった隣の所轄からうちの特対課とくたいかに回ってきた事件なの、これ。」


「それで、犬達はどうした?」


「被害者の犬以外全頭、保健所で始末されたさ。死体を食べた犬は気味が悪いって、ぜーんぶ処分。何が愛犬家だよ。」


 動物好きの楊はやりきれなそうに言い捨てた。


「山口も過去に人肉でも食べたのか?それで被害者の犬を引き取ったと。」


「お前は馬鹿か?食うわけ無いじゃん。被害者の犬は公園で愛犬家にあっさりと撲殺だよ。こいつのせいだってね。お前も山口を撲殺したいのかよ。」


「もって、お前が山口を撲殺したい気持ちなのかよ。それに、もともとお前が山口が犬に自分の身の上を重ねたって言っていただろ。」


 楊は大きく嫌味たらしく溜息をついて、俺に聞こえるように呟きやがった。


「そういえばこいつは、自分は言葉通りしか理解できないとか、ふざけたことをぬかしていたよな。」


「お前、俺も冗談ぐらい言うと思わないのか?」


「冗談って言うのはな、タイミングと落ち、そして重要な他者による突込みを考えた上で発せられるものなんだよ。まず、笑えないのは冗談じゃないよ。」


 お前はどこの芸人だよ、と、安物ぺらぺら刑事スーツで偉そうにしている男を睨みつけた。


「すまないね。俺はお前のようにお笑い道場に入門した覚えはないのでね。」


 こいつのいる相模原東署は、神奈川県警の島流し署だ。

 ハッお笑いだぜ。


「誰がお笑いだよ、貴様、ふざけやがって。」


 バンっとデスクを叩いて楊は立ち上がり、鼻に皺を寄せて俺を睨みつける。

 俺も楊に呼応するように、しかしゆっくりと優位性を持って立ち上がり、楊を見下すよう睨み返した。


「お前だよ。お前。糞くだらない話で警察にいちいち一般人を簡単に呼びつけるんじゃねぇよ。真っ当に生きている人間に対して嫌がらせか?コラ。」


 俺が百八十をゆうに超える長身に対して、彼は自称百七十五センチでも実際は五センチは低い標準身長程度ではないのかと時々突っ込みたくなる中背である。

 身長差によって楊は冷静さを取り戻したか、チッと大きく舌打をして椅子に座りなおした。


「いいから、黙って続きを聞けよ。ほら座って。」


 このまま怒ったふりで逃げようと思っていたのに、楊は課長をやるだけあって俺の思惑を読んでいたようだ、畜生。

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