俺の毒牙に掛かれば
「俺は吃驚だよ。お前に連絡貰って病院に駆けつけたら、お前が突然今塚にディープキスしてる場面にぶち当たったんだからな。」
早朝七時過ぎの病室で楊が騒ぐ。
今塚の尋問はすっかり終わり、今塚は簡単に自供したのだそうだ。
彼は玄人を殺す気は無く、山口の気が惹きたいだけだったという。
それでふくらはぎ、だ。
彼は大学時代に射撃部にて大会に参加し、現在はスモールボアと呼ばれる実弾の方のライフル射撃選手だった。
それも、検察の。
彼は将来を嘱望された若きエリートでもあったのだ。
そんな人間を壊すとは、馬鹿の破壊力とは凄まじいものである。
「かわちゃん、煩いよ。」
楊と一緒になって肩を震わせて笑っている玄人の頭を、俺はぽんぽんと犬にするようにして撫でた。
手のひらに笑う玄人の生きている感触を感じて、俺は今まで緊張していた力が抜けて行く自分をも感じながら、これが安堵かと気持ちが落ち着いていった。
まだ彼を死なせてはいけない。
「それでちびはいいのか?あの今塚の罪状をさ、病室に襲撃に来たことも無しで、狙撃したことも銃の暴発の事故で片付けてさ。」
楊は玄人の肩をぽんっと軽く叩いて微笑んでいる。
楊は玄人の優しさだと思い喜んでいるのだろう。
「これで銃の免許は失うでしょうし、裁判とか面倒臭いからいいです。」
「そっちか。」
楊は玄人の返答にガクッとするが、玄人は俺よりも人非人なのだ。
「山口はどうした?また僕のせいですって、馬鹿をほざいて落ち込んでいるのか。」
「馬鹿ですいませんね。」
戸口に馬鹿がいた。
彼は長い足をさっと動かして玄人の傍に行き、玄人の頬を撫でて玄人の安全を確かめると、ホッとした表情を浮かべた。
次にその顔を何かを覚悟したせつなそうな表情に変えた。
「それでも、やっぱり俺のせいです。俺が傍にいたら、またいつか今塚が玄人を襲うかもしれない。」
本当に馬鹿な奴だな。
「阿呆。お前がいなくても今塚は玄人を襲うさ。何しろ、あの男は俺に堕とされたからね、俺を求めて玄人を襲うさ。お前よりもキスが上手いからな、俺は。」
山口は「え?」という顔で固まった。
楊がブっと吹き出して、椅子から転がり落ちた。
床の上で転がって大笑いしている。
「かわちゃん、騒がしいって。早起きでナチュラルハイって、お前は幼稚園児かよ。」
「うるせぇよ。この色欲魔人。お前は歩くカーマスートラかよ。」
楊は転がったままヒーヒー笑っている。
やはりただのナチュラルハイだ。
袖を引く感触に玄人を見たら、彼は眉根を寄せた顔で俺をじっと見ていた。
「どうした?」
彼はほんの少し逡巡してから、しなくてもいい自分の馬鹿を告白した。
「お尻って気持ちがいいものなのですか。」
楊はギャーと叫び声までもあげてから、さらに大声で笑い出したので、爪先で軽く煩い彼を蹴った。
「知るかよ。俺は経験した事ないからな!いいからかわちゃんはさっさと起きろよ。」
楊を引っ張って、ふざける彼を椅子に座らせ、そしてベッドに目を戻して、俺はしまった、と舌打をして天井を仰ぎ見た。
子供から目を放してしまったせいで、いつの間にか山口が玄人の片手を両手で握り締めて口説きはじめていたのである。
「興味あるならしてみようか。大丈夫、痛くしないよ。」
「ふざけんな。淳!てめぇはやっぱりちょっと責任感じて反省してろ!」
俺の怒声にびくりと玄人から手を放し、そのまま自分の胸を押さえた山口は涙目だ。
「酷い、百目鬼、酷い!」
病室に楊のけたたましい笑い声が響き渡ったせいで、俺達は八時前にもかかわらず、玄人もろとも病院を追い出されることになった。




