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己の存在を侵すものがあれば、すなわち攻撃すべし(馬10)  作者: 蔵前
九 お前は親になったんだろう?
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緊急事態により

「玄人が狙われているなら、俺の自宅の方が安全だと考えなかったか?」


 これは何度目だろう?

 最初は、楊が「玄人が狙われている。」からと、玄人を俺の自宅ではなく楊の家に連れ込んだ時で、玄人は楊の家のリビングでトラックに轢かれた。


 それ以後も、楊は玄人が危ないからと俺や玄人を引き止め、その度に彼は襲撃されている。


 今回は俺達を帰さないから何かと思えば、玄人が銃撃されたのだ。

 銃撃?ここは日本ではなかったのか?


 だが、玄人が銃撃されたのは二度目なのだ。

 一度目は右足の膝が完全に砕ける酷いものであったが、ふざけた白波家の加護によるものか、俺の機転の利いた呪い返しに便乗したのか、彼の膝は完全に完治している。


 あの時は死ぬか生きるかの瀬戸際であったが、有難い事に今回は傷は大したことがない。

 ふくらはぎに小さな鉛玉が刺さっただけだ。

 怪我自体は、弾の摘出に外科手術もされて暫くは歩けないが、入院も不要の十日もあれば治る傷である。

 けれども、撃たれた衝撃で玄人は転んで頭を打って気絶したのだ。

 そこで、頭を打っている事への経過観察のための一泊の入院だ。


 こいつは毎月入院しているなぁ、と、入院費を思って悲しくなり、今迄の入院のあれやこれやを考え直してみれば、完治に十日も掛かる外科手術した怪我など、一般的には大怪我の部類であったのだとも気が付いた。


 俺は玄人のせいで常識が壊れかけているのかもしれない。

 ちなみに、玄人に抱きかかえられたまま一緒に転んだ鼠も一応動物病院に診てもらったが、怪我一つなく健康そのものだった。

 チッ。


「いや、ちびが狙われているって、そんな情報ないって。」


 楊は両手のひらを前にして、大きく振って否定している。


「本当か?それならどうして俺達を帰さないんだ?」


「だって髙がお前の山口の扱い方が面白いって言うからさ。俺も見たいなって。」


「それだけ?山口も引き止めただろ。」


「山口はゴンタをちびに任せられるから、かなぁ。結局お前達は葉子さんとこ行っちゃったけどさ、あいつ犬を毎日葉子さん家に置いちゃっているだろ。」


「それだけ?」


 楊はウーンと考えこんでいたが、「やっぱ、それだけ。」と軽く答えた。

 玄人の山口への扱いがぞんざいで山口が可哀相だと思ったこともあるが、山口も大概だった。

 ベストカップルじゃねぇか、こいつら。


「玄人が退院したら帰るからな。」


「ちょ、ちょっと待って。帰っちゃ駄目だって。銃撃されちゃったんだから、駄目。葉子ん所から暫くちびは出さないで。」


「その葉子の家の庭で銃撃を受けたんじゃねぇか。俺の家に閉じ込めていた方が安全だと思うぞ。玄人の幽霊犬が確実にパトロールするしな。俺達は明日帰るからな。」


「えぇー。」


 楊が情けない声を出すが仕方がない。

 今回は足でよかったが、額に風穴を開けられたら堪らない。

 楊は「何かあったら警察だからね!」と捨て台詞を吐いて署に戻っていった。

 俺はその後姿を見送りながら覚悟を決めた。

 とても嫌だが仕方がない。


「ダイゴ、必死で守れよ。お前は今日から室内犬だ!。」


 ワン!


 きゃあ。ガシャン。きゃあ。

 突然現れた大型犬に、廊下を歩く患者は倒れ、看護師は右往左往し始め、騒動に気づいたか廊下の先で楊が驚いた顔で振り返っていた。


 姿をワザワザ現すなよ、このバター犬が。

 俺はダイゴを知らないフリをして、玄人の病室に逃げた。

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