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親は子供を監督するもの

 楊が俺を責める玄人の「恋人」に関して説明すると、玄人が小学校時代のいじめが元で同年代の同性の友人を作れない可哀相な奴だった前提がある。

 そんな彼に、常に「好きだ。」と囁き、何があっても「守る」と決意した同性愛者に「友人」になってもらえば、彼がその同性愛者に好意以上の執着を持つのは当たり前だ。


 異性愛者だった奴がそのまま絆されて恋人になるとは、本当に馬鹿な奴だろ。


 しかし俺は親として、馬鹿な子だからこそ尚更に、異性愛者だった彼が流されてプラトニックな関係が破綻して嘆くことの無いように、息子の恋愛も管理してやらねばならない義務があるとわきまえている。


 寿命が短すぎた玄人には、余命なんて残っていないのだ。

 それなのに彼が生き長らえているのは、武本家の当主五十歳ルールである。


 短命であることを嘆く大昔の武本家の誰かが、「当主が五十歳まで死にませんように」と神仏に祈った。それが、昨今の八十歳以上は生きられる時代において「当主が五十歳までしか生きられない」呪いに変わったのは間抜な武本家らしいと言えるが、本当に寿命が無かった玄人にとっては、それは福音でしかない。


 けれども不幸に塗れて気力が萎えれば、そんな福音があろうが無かろうが、誰しも生きてはいけないだろう。

 だからこそ、彼が常に幸せであるように、俺が彼を管理して環境整備をしてやらねばならないのだ。


「お前が山口をもうちょっと可愛がってやれば、あいつはこんな馬鹿な事をしでかさなかったじゃんかよ。」


 そう、山口淳平。

 二十八歳の巡査長にして元公安の人間兵器だった男が玄人の恋人であり、玄人に違わず馬鹿である馬鹿二号である。


「家主はお前だろうが。お前が嫌なら追い出せばいいだろう。」


 山口は楊の自宅にルームシェアという名の居候をしている。


 山口の天涯孤独の身の上を哀れんだ楊の相棒によって彼は楊宅に連れ込まれ、だが、当の相棒は再婚して楊宅の隣の家に引っ越して、山口を楊に捨てたっきりで新婚生活を始めてしまった。

 その非道な行為を見るにつけ、楊の相棒で「可哀相好き」のたか悠介ゆうすけは、楊を可哀相にしてもっと楊を好きになろうとしているのではないかと俺が邪推するほどだ。


「可哀相じゃん。そうやって、お前が山口を苛めるから山口が犬の身の上に自分を重ねて連れて来ちゃったんじゃないか。」


 楊の憂える山口愛犬事案とは、楊が語りだした所によると凄惨な殺人事件が発端らしい。


「また、殺人事件かよ。お前のところって治安が悪すぎじゃあないか?」


「煩いな。その事件の幾つかはお前が関係してるじゃねぇかよ。で、その事件はうちの管轄じゃねえよ!」


「ああ、流され案件か。」


 俺の声に哀れみが含まれてしまったのは仕方がないであろう。

 俺は情け深い僧侶でもある。


 楊が勤務する相模原東署は、規模が意外と大きいが、それは神奈川県警中の難ありな警察官が流されてくる島流し署でもあるからだ。


 そして新設された楊の特定犯罪対策課は、相模原東署管轄内のみでなく神奈川県内のオカルトめいた事件という特定犯罪を管轄を超えて捜査する課であるが、最近では担当者が「だるい。かったるい。」と投げたい殺人事件を持ち込む課だと思われているらしい。


 何て、可哀相な奴。


「ま、まぁ、とにかく、聞け。発端は死体が見つかった九月三日の早朝の六時半だ。愛犬家のオバサマ達がわが子を見せびらかしに公園に集まったその会合場所に、見るも無残な死体が落ちていたのさ。」


 被害者の殺害は深夜に行われ、殺害方法は野球バットにての撲殺である。

 犯人不明ではあるが、殺害方法も単純で凶器も遺体の側にあれば、犯人も直ぐに見つかるはずの単純な衝動殺人でしかなかったはずだった。


 それを凄惨で複雑な現場に変えた要素とは、被害者の愛犬が飼い主である被害者の遺体を食べていたせいである。

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