第21話 友の元 向かう覚悟す 伊南川
体調不調が長引いております……今回も短くなりますが、ご了承ください。
南会津町南郷の伊南川沿いの通りを走っていたランドクルーザーは速度を緩め、通りに面したスーパーマーケットの前に停車した。
玄草と天照は慌ただしく車を降り、スマートフォンの画面に出ている情報を交換する。
「終くんにも動きがあったみたい……多分、只見駅」
天照が開いているのは地図のようだ。
地図の中心点はJR只見駅と示されている建造物内にあり、時折駅舎やその周辺の建物を突き抜けてふらふらと移動している。
―――こんな移動……戦闘結界内でもなければ起こりえないな。
天照の顔には焦りの色が浮かんでいる。
玄草が開いている緊急召集指示にある集結地点からは8kmも離れたポイントである。
「藤塚君が?」
「うん、昨日の朝……あれだけで終わらない気がしたから、彼に発信機着けておいたの」
そう言いながら、銀色の小さな発信機を見せた。
「これと同じ型のをね」
天照が少し舌を出しながら、悪戯っ子のように肩を竦めた。
「あの短時間に、良くそんな事が出来ましたね」
玄草が苦笑いしている。
「あの子、ファッションとか興味なさそうだから、同じ服を着ると思ったし」
天照がにこやかに答えた。
しかし、玄草の質問は無視している……営業秘密なのだろう。
「とりあえず、この件は他言無用でお願いね」
天照が笑いながら玄草に釘を刺した。
「緊急の呼び出しか?」
スーパーマーケットから出て来た翠閠が尋ねて来る。
手に下げられたポリエチレンの袋から、空色の背景に映えるトマトの絵が透けて見える。
その絵が描かれている缶が数本。
この辺りの名物の"南郷トマトジュース"だ。
翠閠は袋を持つ手とは逆の手に持っていたトマトジュースの缶を玄草の頬に押し付ける。
その冷たさに驚いた玄草はその缶を受け取る……その手に翠閠は更に2本の缶を載せる。
「会津田島に先行しておくから、とっとと片付けて来い」
「判りました」
「くれぐれも……怪我せんようにな」
茶目っ気のある行動をしつつも、翠閠の表情は笑っていない。
玄草がこれから向かう現場を知っているかのようだった。
「お兄ちゃん……藤塚くんの事、お願いね」
玄草に声をかける鮎美が助手席に乗り込みドアを閉めると、蒼のランドクルーザーは会津田島方面へと走り去る。
スマートフォンでの通話を終えた天照がスーパーマーケット前に戻ると、玄草が呆然とした顔で車止めの石に座り込んでいた。
「あっちゃー……置き去りなのね……」
「ええ、緊急召集に応じないって選択肢はなくなりました」
苦笑いしながら玄草は天照の言葉に応じる。
「玄くん、私たちは召集組とは別行動で、現場に先行する事になったわ」
「承知です」
玄草は首肯すると、視界の中で小さくなっていく蒼い車を見送る。
「天照さん……俺、藤塚君のこと鮎美に話しましたっけ……」
「話してないよ?」
「ですよねぇ……鮎美に『藤塚くんの事、お願いね』って言われたんですが」
天照はその言葉を聞いて、遠い目をする。
「終くんを無事に帰らせないと、呪われそうね……」
「凄まじいですね。外とは打って変わって瓦礫の山が続いてますよ」
「結界内で良かったわ」
玄草は防御結界を張りながら戦闘結界内を移動していた。
凄まじい光景が広がっている。
建物という建物が崩れ落ち、あちらこちらに火災も起きている。
しかし、この結界内は誰も居ないから消火を行う人もいない。
玄草と天照は呆然とした。
どうすれば、ここまで破壊できるのだろうかと。
突然、周囲に煙が立ち込めたかと思うと不意に声が聞こえた。
「何奴! 新たに我が主に仇為す者達か?」
お読みいただきありがとうございます(=^・^=)
次話公開は、11月22日火曜日、0時を予定しております。
お楽しみいただければ幸いです。