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第7話 聖獣族の謎・転生移転の謎


 ビリーから入室許可を得たムネタカ、シオン、レナの3名は、森の集会所となっているその広大な屋敷に案内される事に。


 行く先々で様々な聖獣族とすれ違うものの、彼等は人間に対して身構えたり、不穏な表情を浮かべたりはしていない。

 最初は緊張していたシオンとレナも、やがて彼等の敬意を読み取ったのか、本来の落ち着きを取り戻していた。


 ムネタカの言う通り、この森の聖獣族は人間に好意的な様子である。


 【ムネタカは私の娘、ジニーの命の恩人だ。聖獣族の中でも争いごとを好まない者は、人間族との戦いを和解に持ち込んだ彼の人間性を称賛している。もっとも、こいつは話してみれば欠点も多く、偉大な英雄とは言いがたいがね】


 ビリーはムネタカと会話が出来る様に、自分の話が同伴の女性達にも通じると思っているのだろう。

 ムネタカは彼の言葉を、自分に都合の良い形に脚色してシオンとレナに伝えていた。


 【……ムネタカ様!】


 ビリーの書斎らしき部屋の前に立つ、美しい毛並みの聖獣族の雌。

 彼女こそビリーの娘、ジニーである。


 「ジニー、またデカくなったな。もうすぐ俺も追い抜かれるよ」


 ムネタカとしては、親戚の子どもを見る様な目でジニーを可愛がっていたのだろう。

 しかし、いくら聖獣族とはいえ、これは年頃の女性に言う台詞ではない。

 

 この時ばかりは、ムネタカを敬愛しているシオンも落胆の表情を浮かべていた。


 【ムネタカ様も、少々小じわが増えましたね。この度の件で、私達がお力になれると良いのですが……】


 ジニーもなかなかの切り返しで応戦する。


 基本的に、ネコ科の動物から進化したと考えられる聖獣族。

 人間より長い寿命を持つという彼等を、同じ価値観で評価する事は出来ない。

 

 とは言うものの、先入観に囚われがちな人間の視点からでも、ジニーが美しい女性である事は十分に伝わってくる。

 年齢的にはもう伴侶と子孫を得ていてもいい頃なのだが、未だに父親と同居している背景には、やはりかつて同族の雄から暴力を受けた事が影響しているのかも知れない。


 【……ムネタカ、娘はやらんぞ!】


 ムネタカが独身である事を知っているビリーからの、強烈な牽制。

 どうやら彼の親バカぶりも晩婚の要因らしい。


 「……ビリー、本題に入らせてくれ。お前も知っているだろうが、このレナ姫は王都を北上したジョーラの森に近づいて、偶然出会った聖獣族の子どもに襲われると早合点し、危害を加えてしまった。その結果獣化の呪いをかけられ、現在は2割程獣化している。本人は反省している様だし、俺達も謝罪する。レナ姫の呪いを解く方法はないか?」


 ジニーの用意した椅子に座る事なく、正面からビリーと向き合うムネタカ。

 人間に好意的なエルパンの森の聖獣族から良い返事を貰えなければ、この事件の解決はあり得ないのだ。


 【…………】


 ビリーが暫く考え込んでいる様子は、シオンとレナにも空気感で伝わっている。

 当事者のレナは、「にっぱち姫」状態に於いてはネガティブな感情を余り表に出さないが、本来の彼女は不安に押し潰されそうな心境に違いない。


 【……ムネタカ、ジョーラの森の子どもの怪我はかすり傷程度で、種族間の戦いになる程の問題ではない。それに、俺がお前の為に助け船を出すのはたやすい事だ。だが、俺だけがレナ姫を許した所で呪いは解けない。どんな種族の親であろうとも、我が子が何者かに襲われる恐怖は簡単に許容する事は出来ないだろう。少なくとも、3つの森の代表のうち2人の許しを得なければ】


 ビリーの言葉を重く受け止めるムネタカ、そしてジニー。

 両者の表情からシオンとレナも困惑し、その瞳を曇らせる。


 【……しかし、人間には俺達聖獣族にはない能力がある事も確かだ。最近、俺達の周りで不可解な現象やトラブルが頻発している。その解決に協力してくれたら、聖獣族は人間を認め、レナ姫を本来の姿に戻すだろう】


 「……何だ!? そのトラブルってのは?」


 話も終わらぬうちから、その身を乗り出すムネタカ。

 

 両種族関係に冷静な判断が下せるビリーを悩ませるトラブルとは、恐らく食糧や領地の問題ではないはず。

 全く新たな脅威の出現……ムネタカはそう予感していたのだ。


 【……お前はいつも言っていた。お前が最初の人生を送った地球とやらと、この地を繋ぐ何かがあると。次元を繋ぐトンネルの様なものが、最近マヤーミの森に出没している事が分かったんだ】


 「何だと!?」


 血相を変えてビリーに詰め寄るムネタカ。

 

 彼が前世で自ら命を絶った瞬間の記憶は、42年後の現在ではやや曖昧になっているものの、彼は薄れゆく意識の中で何かを見てこの地に転生している。

 また、生きたまま地球からヒューイット王国に移転したランドールやマーカスも、何かに吸い込まれる様にしてこの地に降り立っている。


 自分達がここに来た謎を解く鍵が、マヤーミの森にあると言うのだ。


 【そのトンネルの様なものは、周期的に出没場所を変えているらしいのだが、何故かマヤーミの聖獣族は自らそのトンネルに飛び込み、知力と体力を強化して帰ってくるんだ。最近では、奴等は自らの腕試しをせんとばかりにこの森やジョーラの森で悪行を重ねている。俺達だけでは手に負えないのが実情だよ】


 「マヤーミの聖獣は、そのトンネルの意味を知っているという事か……。奴等、最後まで人間との和解に反対していたよな。単なる荒くれ聖獣族の溜まり場だと思っていたが、もっと大きな野望がありそうだ。このまま放置すれば、いずれ王国にも攻め込んで来るかも知れない」


 「……ムネタカ様、一体何が……!?」


 ムネタカの言葉から不穏な動きを確信したシオンは、遂に自ら声を上げる。

 しかし、その声はビリーやジニーに届く事はない。


 「……シオン、残念だが、話し合いだけでは姫様を元には戻せそうにない。マヤーミの森にいる聖獣族と戦わない限り、王国の平和も危ないな」


 ムネタカは真っ直ぐ前を見つめ、遂に20年前の闘志を取り戻そうとしている。

 

 だが今回は、種族の和解や自身の栄光の為の戦いではない。

 王国の平和の為、レナの為、そして何より、元地球人としての真実を取り戻す為の戦いに挑もうとしているのだ。


 「ビリー、俺達は腕利きの剣士を仲間に加える予定だ。パーティーが揃ったら、また詳しい話を聞きに来る」


 【すまんな、ムネタカ。俺はジョーラの森の代表にレナ姫への理解と、お前達との共同戦線を呼びかける。この森の泉や建物は、使いたい時に使ってくれ】


 

 ムネタカ、シオン、レナの3名はエルパンの森を後にし、昼食の為に宿へ帰る事に。


 「……シオン、やはり姫様を午後からダランの街に預けよう。慣れるまでは街もひと騒ぎあるかも知れないが、戦いに連れて行く訳にはいかない」


 「……はい、仕方ありませんね……」


 レナの為、王国の平和の為に、自らも戦う覚悟が求められるシオン。

 

 国王夫妻やレナに近づく不審者、或いは王宮への侵入者と対峙した経験は無数にある彼女だが、自身を上回る可能性のある相手との実戦経験はほぼ皆無。

 ジェフリーの農場でアニコーンを撃退した様な経験を更に積んでおく為にも、ダランの街で本格的にムネタカに「弟子入り」する必要があるだろう。


 

 【……ムネタカ、人間族の祖先は猿なんだろ? 俺達聖獣族の祖先もネコ科の野性動物だ。ならば俺達の祖先が次元のトンネルに飛び込み、ムネタカの言う地球の様な「異世界」で進化を遂げてここに戻って来たと考えられないか?】


 「……ビリー、何が言いたい?」


 【つまり、人間族の世界でも新しい何かが必要な時、転生者や移転者が異世界から呼び出されると考えたんだよ。聖獣族と人間族の争いが激化する中、お前達がこの地に呼ばれた理由さ。マヤーミの森の奴等は欲に任せて暴れているだけかも知れないが、この地は今、全ての聖獣族に進化しろと合図しているのかも知れない……】


 別れ際に呟いたビリーの言葉を思い出していたムネタカは、マヤーミの森の聖獣族との戦いが近づく中、彼等とも対話する使命が自らにあると考えていた。


 

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