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第24話 聖獣進化最終形?


 王都を出発し、マヤーミの森へ向かって走り続ける馬車。

 

 前回の戦闘時とは対照的な、雲ひとつない晴天。

 たったこれだけの事が、パーティーに根拠のない希望と勇気を与えている。


 「イジーの浄化? そんな事が出来るなら、20年前に思いつけよ! 失敗したら魔力は丸損なんだろ? どう戦うんだよ!」


 馬車の中でムネタカの秘策を聞かされたランドールは、自身が魔法に無知な事もあってか、イジーの浄化案を即刻否定した。

 

 現在のパーティーの中で、全力で動ける剣士はランドールだけ。

 最悪の場合には回復魔法を未熟なアランに任せ、ムネタカとシオンの魔法は攻撃に専念しなければならないだろう。


 デラップとミシェールの耳にも自分達の出発は入っているはずだが、今はまだ入学試験中。

 彼等は戦いに参加するのか、参加したくても間に合うのか、確証が得られない以上、リスクは最終局面まで避ける必要があるのだ。


 「ムネタカ、イジー自身は次元のトンネルには入っていないんだろ? 肉体的な進化はしていないと考えれば、奴も20年歳を取っている。まずは奴の仲間を倒して焦らせようぜ」


 イジーに右足を喰われ、その後の人生を狂わされたマーカスにとっては、例え歴史的に人間側の非があろうと、イジーに同情の余地はない。

 彼は自分の後ろの座席を振り返り、ともにレナと馬車の護衛をするであろうアランと頻繁に会話しながら、何やら対策を練っている様子である。


 「……まあ見てな。例え自由に走れなくても、俺の間合いに奴等を呼び込めば戦える」


 

 「……ムネタカ様、あれは……!?」


 馬車の運転に集中していたシオンが、マヤーミの森の入口の前に立つ、聖獣と思われる3つの影を発見する。


 「……奴等、先回りしやがったのか!?」


 イジーの仲間が偵察に来た可能性を警戒し、ランドールは慌てて自らの剣に手をかけた。


 【……ムネタカ……】


 「待て! 敵じゃない、ビリー達だ!」


 テレパシーを察知したムネタカは血気はやるランドールを制止し、シオンに馬車のスピードを落とす様に要請する。


 「どう、ど〜う……!」


 聖獣達の前で馬車を停めたシオンの目には、何度か見た聖獣の顔が判別出来る様になっていた。

 この3体はビリー、コリー、そしてビリーの娘ジニーだ。


 「ジニー、何故ここに来た? 危ないだろ!」


 ムネタカは開口一番、自身の目に映ったジニーに警告を発する。

 幼い頃、イジーとその仲間達に命を狙われたジニーがわざわざマヤーミの森にやって来た理由を、ムネタカは理解出来ずにいる。


 【ムネタカ様、ごめんなさい。これをどうしても、シオン様に渡したくて……】


 「……シオンに?」


 ジニーが抱えていたものは、誰の目にも薄汚れた1枚の木の板にしか見えない。

 だが、そこにはジニー自らが爪で掘ったと思わしき文字が記されていた。

 

 しかも、人間の言葉で。


 『みなさんがんばってください でもあまりざんこくなことはしないで』


 以前、出会いの印に人間の言葉をジニーに教えたシオン。

 彼女は見よう見まねから始まり、父親の力も借りながら、遂に自分の一番伝えたいメッセージを言葉にしたのである。


 「……ジニー……ありがとう……」


 目頭に熱いものが込み上げるシオン。

 驚きと感動を隠せない周囲の様子をよそに、ビリーは鼻高々にムネタカの背中を小突いていた。


 【ムネタカ、歴史的瞬間だろ】


 「……お前、俺達の歴史どれだけ知ってんだよ!?」


 戦いを目の前にした安らぎの時間。

 その終焉は、間に割り込んだコリーの言葉によってもたらされる。


 【ムネタカさん、我々がここに来たのは、戦いの影響がこの森の外に出ないよう、結界を張る為です。これ以上戦いを長引かせても犠牲者が増えるだけですし、聖獣と人間の関係も冷えるだけでしょう。貴方達に介入が必要と判断した時は介入します。ですから、今日こそイジーの怨念と、レナ姫の呪いを解きましょう!】


 ムネタカやシオン以外のメンバーにも伝わる、聖獣族の決意の表情。

 

 見慣れてくると、皆いい顔をしていると感じる。

 互いの因縁にケリを着け、明日から未来に挑まなければ。


 【……よし】


 ビリーの呟きとほぼ時を同じくして、マヤーミの森の入口付近が結界の霧に包まれる。

 

 ここから先は戦場。

 ここまで戻れば安全地帯だ。


 「皆、いよいよ戦いだ。覚悟は出来ているか?」


 「おう!」


 ムネタカの気合いに応えるパーティー。

 シオンは馬車馬に鞭を入れ、再びゆっくりと車は走り出していく。


 「……あと2人、人間が来る予定です! ジニー、お願い! 私達の居場所を教えてあげて!」


 シオンとムネタカは後ろを振り返ってジニーに最後の願いを託し、レナとアランは緊張高まる中、互いに身を寄せてパーティーの無事を祈っていた。



 「……!? 川です! 行き止まりです!」


 マヤーミの森を真っ直ぐ北上して行くと、突如として川が大地をふたつに隔てている。

 川辺に降りて調査した所、馬車で渡ると馬が溺れてしまい、例え泳ぎが得意だとしても、小柄なレナにリスクを背負わす事も出来ない。


 「この川幅なら、イジー達もジャンプ1回で軽々飛び越える訳には行かないだろう。チャンスかもな……」


 ムネタカに新たな戦術が浮かんだか、彼の不適な笑みに皆が期待を寄せる。


 【ムネタカ! イジー達がそっちに急接近中だ! このまま行けば川を挟んで戦闘開始だぞ!】


 ビリーからのテレパシーを受け、ムネタカは急いでシオンとランドールを呼び寄せた。


 「聖獣の基本攻撃は爪と牙だ。魔法による遠距離攻撃が使えるハイレベルな聖獣もいるが、恐らく今の相手ではイジーだけだろう。川を挟んで魔法による遠距離攻撃なら、俺達に分があるはずだ」


 この森をホームグラウンドにしているイジーが、川の存在を知らないはずがない。

 そこにムネタカとシオンの不安がある事実は否めないが、ランドール以外に剣での先制攻撃が出来ない現状であれば、むしろここ以上の舞台はそうそうないだろう。


 「……ッキイィー!」


 川辺に面した茂みから聞こえる、動物のものらしき鳴き声。

 その声は地球出身者には耳馴染みがあり、どこか親近感すら覚えるものだった。


 「この声、まさか進化したイジーの仲間なのか……?」


 ムネタカとランドール、そしてマーカスはお互いに顔を見合わせ、気の抜けた薄ら笑いさえ浮かべそうになり、慌てて気を引き締める。


 「ウッキイィー! ウッキイィー!」


 「ガアアアァッ……!」


 風格を漂わせるイジーを取り囲む様に、10体の聖獣がムネタカ達のいる川辺に近づいてきた。

 

 見た目はイジーを始め、まさしくネコ科の動物を思わせる聖獣なのだが、イジー以外の聖獣の鳴き声はまるで猿である。


 「こいつは傑作だぜ! 次元のトンネルはそろそろ終わりなんだろ? 聖獣進化の最終形が猿とはな!」


 ランドールは猿の様な大口を開け、イジー達に豪快な笑いを見せつけた。

 

 猿が高い知能と高度な社会性を持った動物であるという事は、地球出身者であれば誰もが知る所。

 だが、彼等にとって猿は余りにも身近な存在になり過ぎていて、誰も本来の恐ろしさを理解しようとはしないのである。


 【……どうやら、お互いに考えている事は同じ様だな、ムネタカ】


 両陣営がジャストなタイミングで臨戦態勢を整えてきた事に、流石のイジーも少々苦笑いを浮かべていた。


 「イジー、今日こそはケリを着けて、姫様の呪いを解いて貰うぞ。まあ、勿論ただでとは言わない。お前らが人間に何か要求があるなら、今言ってみろ」


 【……何だと……?】

 

 ムネタカの堂々たる啖呵に首を傾げるイジー。

 その理由は、まるで両者とも生きたままの決着を前提としている様に思えたからである。


 「聖獣族の中に、人間の言葉で俺以外ともコミュニケーションが取れる新世代が現れたんだ。お前が望む事が、お前以外の聖獣から人間に伝えられる時代になったって事さ」


 ムネタカが語る新世代とは、勿論ジニーの事。

 イジーがかつて殺そうとしたビリー、ジニー、そしてムネタカは、20年の歳月を費やして、今現在も彼を苦しめていた。


 【フッ……まあ、人間達への要求はまた後にさせていただくぜ。まずはムネタカ、貴様に死んで貰うか、このトンネルに入って王国から姿を消して貰わなければな】


 イジーは含み笑いを浮かべながら自らの腹を勢い良く叩き、その腹の底にある、かつて飲み込んだ鉱物との反応から、人間がひとり通るのがやっとの大きさまで縮小した、漆黒な次元のトンネルが顔を覗かせる。


 「……あれが、次元のトンネル……。あれに入れば地球に帰れるのか……?」


 マーカスは誰よりも深くトンネルを凝視し、徐々にその役目を終えようとしているトンネルを繋ぎ止める為に、あらゆる手立てを必死に考えていた。


 「俺達もお前達も、出会った場所が悪かったな。この川を挟んじまったら、お互い剣や爪じゃ戦えないだろう? これ以上の犠牲者は出したく無いものだからな」


 ムネタカはあくまで平静を装いながら、イジー以外は使えない魔法による遠距離攻撃に自信を覗かせている。


 だが、その時彼等はまだ気がついていなかった。


 猿からの影響を受けて進化した聖獣は、魔法がなくても遠距離攻撃を可能にする道具を作り、それを使いこなす能力を既に持っていた事を……。


 

 


 

 

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