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第20話 敗者のままでは終われない


 シオンが入手した情報を元に、王宮近くの高齢者施設を探し当てたパーティー。


 王都の一等地という立地から推測出来る通り、ここはただの農家や漁師では入居出来ない高級施設。

 しかし、ここに一介の発掘作業員が入居しているという事実が、長年隠蔽されてきたという。


 「問題の棟梁はジョージ・ヤマグチ、現在75歳。半身不随と若干の被害妄想癖があるらしいのですが、この施設が建設された15年前に、入居費用を全額一括で支払う程の財産があったそうです」


 シオンの説明に最初に反応したのは、やはりムネタカだった。

 この名前を真面目に語っているのであれば、どう考えてもジョージは地球からの移転者である。


 「……棟梁というからには、恐らく建築技術もあるな。地球で蓄えた鉱物の知識で王国民をリードしながら、建築業界にも顔が利く発掘作業のリーダーとして、巨万の富を築いた……いや、築くはずだったんだろう」


 突然、言葉尻を修正したムネタカ。

 

 実際、かなりの富を築かなければこの施設に15年も入居は出来ない。

 にも関わらず、彼が敢えて言葉尻を修正する背景には、聖獣族との争いの引き金になった発掘作業のリーダーとして仕事を受けた代償が、余りにも大き過ぎたという認識があったからだ。


 

 「もう夕方です。申し訳ありませんが、ご家族の方以外の面会はお断りさせていただきます……」


 施設の職員に門前払いを喰らうパーティー。

 高額所得の利用者が集う施設だけに、家族以外に信用の置ける人間がいないケースもままあるだろう。

 

 だが、こちらにはシオンがいる。


 「王宮専属魔導士のシオンです。23年前、聖獣族との争いの原因と言われている発掘調査について、ジョージ様にお話を(うかが)いたいのです。姫様と王国の未来に関わる問題なのです……」


 シオンに立ち会ったベテランの女性職員は、23年前の王国を熟知している様子で、パーティーの説得を諦めて目を伏せた。


 「……わかりました。精神的に不安定なジョージさんを狙って、怪しい儲け話を持ちかける方が余りにも多かったので、彼の存在は施設内の秘密事項になっていたのです。15分だけですよ?」


 「ありがとうございます!」


 シオンを先頭にパーティーは職員に頭を下げ、静かに施設の奥へと進んで行く。


 ジョージの部屋は施設の一番奥にあり、半身不随でありながら被害妄想で部屋から這い出る可能性のある彼の為に、深夜には施錠がなされているらしい。


 「ジョージさん? お客様です。王宮の方だそうで、申し訳ありませんが、少しだけお話に付き合って欲しいそうですよ」


 「……何だぁ〜、うわわわっ!?」


 眠そうな(まぶた)を開けて見る、馴染みの職員の背後から現れたシオンやムネタカの姿を目の当たりにし、ジョージは半身不随にも関わらず上半身の力だけで身体を起こし、ベッドの端へと必死に後退りする。


 「……来るな、来るな! 何度来てもダメだ! 俺は2度と、森には行かないからな!」



 どうやらランドールの剣を見て、自身が聖獣に襲われた記憶がフラッシュバックしてしまったらしいジョージ。

 背中に重傷を負い、23年前に命からがらマヤーミの森から救出された彼の元には、森の鉱物の在処(ありか)を求めて、剣士の護衛を条件とした非合法の発掘依頼が今も途絶えなかったのだ。


 「俺は……信じちゃ貰えないだろうが、この世界じゃない場所で生まれ育った。ウチの家系は小さな建設会社で、俺も技術と知識には自信があった。だが、大手の下請けでこき使われ、社長だった兄貴は過労死、俺も都合よく切り捨てられたよ。ヤケになって酔っ払い、現場から転げ落ちたら何故か死んでいなかった。この世界に来ていたんだ」


 彼はもう、何度この話をしたか覚えてはいないだろう。

 だが、右も左も分からないこの世界で生き延びる為には、地球での知識を活かせる仕事にすがり付くしかなかったのである。


 「……ジョージさん、ここのシオンを除いて、俺達は皆違う世界を知っている。俺の名はムネタカ、日本人だった記憶がある。こいつはデンマークから来たランドール、あいつはアメリカから来たマーカスだ」


 23年前の発掘現場で全滅したと思っていた、地球を知る同族が他にもいると分かり、思わず涙が溢れ出るジョージ。


 「……すまねえ……すまねえ。俺達のした事が、まさかあんな戦争になるなんて思わなかったんだよ! 俺はただ、違う世界に来ても金持ちにならねえと、また地獄を見ると思ったんだよ。敗者のままで終わりたくなかったんだよ!」


 「ジョージとか言ったな。発掘調査に行ったのは、皆地球を知る人間だったのか?」


 腕を組んで仁王立ちするランドールの問いかけに、ジョージは首を縦に振って即答した。


 「ああ、まるでこの世界が俺達を呼んだみたいに、地球から沢山の人間が移転していたよ。この世界の人間は聖獣に怖じ気づいて動かねえから、高額報酬を条件にあちこち掘りまくったぜ」


 まるで武勇伝を語る様に、自らの悪行を明かすジョージ。

 シオンはそんな彼を戒める為、その後の事実を淡々と読み上げる。


 「……発掘調査の指示を出していた建設商社の黒幕は、聖獣族との和解後に1級戦犯として逮捕されています。ですが、実行犯の発掘作業員に関しては、近年まで聖獣族に全滅させられたとされていて、責任を問われる事はありませんでした」


 「ま、待ってくれ! 俺は反省してるよ! もうこの歳だし、施設のベッドで死なせてくれよ!」


 ジョージは顔面蒼白で恩赦を訴える。

 しかしながら、ランドールやマーカスが王国に移転したのはこの事件の1年後であり、ムネタカは自分の魔力の使い道を模索していた頃。シオンに至っては、まだ1歳だった。


 「ジョージさん、あんたのした事は許し難いが、俺達はそこを責めに来た訳じゃない。あんたを襲った聖獣や、鉱物と環境について正直に話してくれたらそれでいい」


 ムネタカに諭され、ようやく落ち着きを取り戻したジョージは、ベッドの脇に置かれた車椅子をぼんやりと見つめながら、パーティーの質問に答える。



 「……俺達がマヤーミの森のあちこちで発掘調査と作業をやったのは、計6回だ。信じられない程稼いだぜ。だが、発掘5回目に聖獣が現れた。目が真っ赤で、デカい奴だったよ。俺達が恐怖で腰を抜かしていると、奴は発掘した鉱物を噛み砕き、自分の身体に取り込んだんだ。今思うと、恐らく次は許さないって警告だったんだろうな……」


 「イジーだな」


 「ああ」


 ジョージの告白の間に、ムネタカとランドールのやり取りが挟まれた。


 「……だが、俺達も稼げる仕事は止められねえ。場所を変えれば奴は来ないと思って、6回目の発掘に挑んだよ。その時はもう手遅れ、奴等は5〜6体の仲間を連れて来て、全員あっという間にやられちまった。背中をやられて立てない俺は、仲間の死体に隠れて何とかやり過ごし、気絶するまで這いつくばって森を脱出したんだ……」


 「……なるほどな。人間よりイジーの方が理性的で我慢強い事が分かったよ」


 マーカス皮肉な笑みを浮かべ、疼く右足を引きずりながらジョージに詰め寄り、自らが最も気になる点に質問を集中させる。


 「あんたも地球からの移転者なら、ふたつの世界を繋ぐ次元のトンネルを知っているはずだ。黒い穴みたいなやつだよ。そいつを見た事はあるか?」


 「……ん? ああ……。俺がこの世界に来た時と、発掘作業中に何度か見た。一番近くに現れたのは、6回目の発掘で仲間が聖獣に殺された時だよ。その穴に飛び込んで逃げようと試みた奴もいたが、そこに行く前にやられた……すまない、もう勘弁してくれ……」


 悲惨な経験を回想する苦痛に耐えかねたジョージは、そのままベッドに倒れ込んでしまった。


 「すみません、いくら王宮からの要請でも、これ以上はご遠慮下さい!」


 自らの矜持(きょうじ)を懸ける職員に面会を打ち切られたパーティーは、ジョージと職員に深く謝罪し、これ以上の詮索を行わない事を約束して施設を去る事に。


 

 「イジーが次元のトンネルに緊密なのは、鉱物を身体に取り込んでいるからだな。やはり、次元のトンネルを出現させる為には鉱物の磁力が必要か……」


 ひとり淡々と地球への帰還計画を試算するマーカスを横目に、パーティーは王国と転生者、移転者との関連を改めて洗い出していた。


 「この世界が俺達を呼んだみたいだと言っていたジョージ様……気になりますね。ムネタカ様やランドール様、マーカス様が王国に来たのも、いずれ起こり得る人間と聖獣族との争いを予見していた、何か大きな意思の力が働いた可能性が……私、読書をし過ぎたのでしょうか……?」


 自身の言葉を伝えた後で、慌てて首を左右に振るシオン。

 そんなスケールの話に、ムネタカ達の人生が巻き込まれた事を認めてはいけない。


 (ランドールはクルーズ船の事故で船が燃えて溶けていたはず。マーカスも戦車から地中に落ちて地下の鉱物を通過しただろう……ここまでは次元のトンネルと鉱物の関係に辻褄が合う。だが、俺の自殺は……?)


 ムネタカは己の苦しみの記憶と格闘しながらも、その現場を今一度回想する。


 自殺志願。

 ビルの屋上。

 自身が飛び降りた時の騒音対策。

 そのカムフラージュ……。


 隣は工事現場だった。

 

 (くそっ、間違いない……)

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