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第14話 次元を超えた代償


 【ムネタカさん、先程エルパンであった貴方達とマヤーミの聖獣との戦いを見せていただきました。知力・体力・経験値と、組織されたばかりのパーティーとは思えない見事な戦いぶりでしたね】


 若く実直なジョーラの森の聖獣族代表、コリーは何故か人間の戦いぶりを称賛し、ムネタカはその真意を理解出来ずにいる。

 

 マヤーミの聖獣が、同族にとっても厄介な存在になりつつあるという事情はあるだろう。

 だが、如何に急襲されたとは言え、ムネタカは彼自身の決断で彼等との和解を諦め、そして殺害したのだ。


 「……言い訳がましいだろうが、俺も奴等と話し合いはしたかった。しかし、対話出来なかった。説明しにくいんだが、感情が感じられなかったんだ。人間への怒りに満ちている様子はなく、破壊を楽しんでいる雰囲気もない。まるで何かに操られているみたいな……」


 苦渋の決断が理解されたと思いたいムネタカの告白を耳にして、コリーは何やら確信を得たらしい。鼻から息を吐き、軽く喉を鳴らしてすかさず言葉を続ける。


 【ムネタカさん、それが次元のトンネルを超えた者の特徴ですよ。私やビリーが彼等を初めて見た時も対話を試みましたが、無駄でした。もしイジーに洗脳されているのであれば、私達には彼の意思が見えるはずなんですけどね】


 聖獣族であるコリーの言葉には一定の説得力がある。

 

 だが、ムネタカ自身も次元のトンネルを超えて転生しているはず。彼は考える。

 自分には感情がある。

 自分は他者の話を聞かない様な傲慢な人間ではない。

 

 【……つまり、次元のトンネルを超えた者は何らかの要因により、環境の変化に戸惑う事なく、自らの目的の為に邪魔なものを躊躇なく排除出来る様になるのです】


 「コリー、ちょっと待て! 俺やランドールが奴等と同じだと言うのか!?」


 流石に看過出来なくなったか、ムネタカはコリーの話を遮って反論を始めた。


 適切な言葉を選べないもどかしさを感じているのは、コリーも同じらしく、一度目を閉じて頷いた後、再び口を開く。


 【……すみません。貴方達をさっきの聖獣と同列に扱うつもりはありません。ですが、前世のムネタカさんと、次元のトンネルを超えて転生した現在のムネタカさんは、明らかに違うはずです】


 「……どういう事だ?」


 記憶と能力を引き継いで2度目の人生を送っているムネタカに、現在の自分を客観視する事は難しいだろう。


 【前世のムネタカさんは、自分の才能を信じて世に出る為、家系の伝統を無視して家出したり、権力者からの要請で聖獣族との争いを解決する側に立ったり、聖獣との戦いに恐れをなして逃げ出さないだけの、覚悟や行動力を持っていましたか?】


 「……! そ、そんな事は……考えた事もない」


 転生してからというもの、物心着いた頃から当たり前に突き進んでいた人生を検証され、動揺を隠せないムネタカ。

 しかしながら、彼は地球での最初の人生で、特殊能力を持つが故の孤独に耐えられず、自殺という道を選んでいる。


 【ムネタカさんが聖獣に対して理解を示しているのは、ひとえに私達の気持ちが分かるからです。ですが、他の移転者である貴方のお仲間は、私達と戦う事を躊躇しませんよね】


 「ランドールとマーカスは、元々格闘家と軍人だ! 自分の前に立ち塞がる奴は人間だって容赦しない価値観があって当然だろ?」


 ムネタカは心に若干の迷いを抱えながらも、(かたく)なにコリーの見解を否定した。

 互いに引かない両者を見かねたビリーは、両手を広げてやむを得ず仲裁に入る。


 【……分かった、もういいだろう。つまり次元のトンネルを通過して異世界を経験すると、何かしらの能力と引き換えに失うものがあるって事だ】


 ビリーの的確な分析に落ち着きを取り戻した両者は、改めて今後の共闘について話を進める事となった。


 【……つまり、私達にとって次元のトンネルを通過したマヤーミの聖獣が脅威である様に、彼等もムネタカさんや貴方のお仲間を恐れているんです。レナ姫に獣化の呪いをかければ、彼女を救う為に、必ず貴方達をおびき寄せる事が出来ると考えているんでしょう】


 コリーの言葉を聞いて、ようやくムネタカは全てを理解する。

 

 マヤーミの聖獣にとっての目的は、王国の混乱やレナ個人への制裁ではない。

 代表のイジーにとっても目の上のたん瘤であり、人間との和解を支持する聖獣とコミュニケーションも取れる自分の命こそが、彼等の狙いであると。


 【これから私とビリーさんは緊密に連絡を取り合います。そして緊急時にはムネタカさん、貴方にテレパシーを送る事になるでしょう。私達も全力は尽くしますが、万一レナ姫を救えなかった時、もう一度人間と聖獣の争いが起こる事だけは避けたいですね……】


 聖獣族であるコリーに、ある意味当然の報いを受けたレナの現状に関して、実の娘の様に心配しろと言うのは無理な話。

 ムネタカは神妙な面持ちでコリーに背を向ける。

 

 自身の生き様にひと区切りを着け、新たな出発のきっかけにする決意で引き受けた仕事ではあったものの、最終的には自らの存在意義をかけた戦いになってしまった。


 【……ムネタカさん、でしたね。コリーの妻のレニーです。私は人間に過度の期待は持ちません。ですが、獣化を経験したレナ姫が改心すれば、彼女こそがこれから両者を繋ぐ最後の希望となる事は間違いないでしょう。彼女を守ってあげて下さい】


 背後から聞こえる声に、突然呼び止められたムネタカ。

 

 わがまま姫の為に、自分と仲間の命を危険に晒すなんて馬鹿馬鹿しい……そう考える事も出来たが、そうは思わなかった。

 レナが完全に獣化してしまえば、彼女はイジーの手下として、いずれ自分達に襲いかかって来る事が目に見えていたからである。



 エルパンの森への帰り道。

 ビリーの高速移動は、もう2回目で慣れていた。


 時間にして僅か5分間の旅だが、まるで永遠の様な長い思考を巡らせるムネタカ。


 

 思い返せば20年前の戦いは、途中離脱したマーカスを含めた5人で殆ど全てをやり遂げていた。

 生粋の王国人であるデラップとミシェールは、エリートのプライドと愛国心に支えられて戦い続けたが、足の負傷で離脱したマーカスの穴埋めを要請しても、王国から更なる志願者は現れなかったのだ。


 転生や移転で次元を超えた自分やランドールは、やはり躊躇せず戦いに参加し、邪魔物を排除出来る異常者なのだろうか?


 英雄と讃えられても、栄光の美酒に酔う事なく堅実な人生を選んだデラップとミシェール。

 一方で堕落するまで栄光に溺れ、今も農家の為に野性動物と戦う自分や、傭兵剣士で戦い続けるランドールはやはり、次元を超えた異常者なのだろうか?


 イジーが人間との和解を拒む理由も、居住区にまで侵攻する配慮のない人間達が、揃って転生や移転者ばかりだった過去があるからなのだろうか?



 【……ムネタカ、もうすぐ到着だ。余り悩むなよ。俺はいつでもお前の味方だし、娘のジニーも今日、人間の文字でシオンと交流したらしい。お前達が生き続けてくれなければ、俺がエルパンの代表になった意味もないんだからな】


 ムネタカはビリーの友情に感謝しながらも、この戦いが終わった後、転生者や移転者はこの地に留まるべきなのか、それとも次元のトンネルから地球へと帰還する道を模索すべきなのか、密かに悩み始めていた。

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