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第9話 新たなるパーティー


 合流したハミンの食堂で夕食を取り、オースティの街の傭兵酒場へと進路を切るムネタカ、シオン、そしてレナ。


 まだ18歳のレナは王国のルールにより酒は飲めないが、自分の為に命を懸けて戦ってくれるランドールとキルメスに礼のひとつも言わなくては、彼等のプライドを傷つけてしまうだろう。

 落武者ヘアーのマスターに事情を話し、シオンとレナは剣士達の興味を引かない地味な格好という条件で入店を許可して貰う事となった。


 「いらっしゃいませ〜!」


 今日は世間的には休日という事もあり、傭兵剣士や農家、漁師以外にも、営業のチャンスを探す商人や工業関係者の姿が見える。

 そんな中、汗と泥にまみれて野性動物と格闘し続けたムネタカとシオン、そしてアルバイトと子ども達の相手ですっかり疲れ果てたレナはいい感じにくたびれており、ジェフリーから借りた作業着に着替えていた事もあって、入店しても特に周囲の注目を浴びる事はない。


 「……まだ少し早かったか」


 待ち合わせの時間に合わせて酒場に現れたムネタカ達だったが、まだ仕事が終わっていないのか、ランドールとキルメスの姿は店内には見当たらない。

 ムネタカはやむ無く、昨夜と同じ出入口近くの空席を探して水の一杯でも注文しようと、シオンとレナに同意を求めようとした。


 その瞬間……。


 「……おい、アンディ! アンディだろ? 10年ぶりだな。英雄様は農家に転職したのか?」


 突然、ムネタカを呼ぶ声が聞こえてくる。


 ムネタカの本名である「アンディ」を知る者は、元来商人の家系であるホリフィールド家の人間か、幼少時のムネタカを知る、ホリフィールド家の古い商売仲間しかいない。

 ムネタカは声の主を振り返り、やがて所在なさげに瞳を逸らす。


 「……ムネタカ様、あの方は……?」


 不自然なムネタカのリアクションを疑問に感じたシオンは、視線だけを彼に向けて問いかけた。

 

 「……俺の兄貴だよ、ロジャー・ホリフィールドだ」


 

 ホリフィールド家はオースティの街の南部に拠点を置き、更に南下したテキスの街の木工職人と手を組んだ、歴史のある家具商人。

 ムネタカの兄ロジャーは、その銀髪とグレーの瞳こそ血縁を感じさせるものの、ずんぐりした体格といい、愛想の良い表情といい、弟のムネタカとは対照的なキャラクターである。

 

 「こいつはガキの頃から魔法ばっかりで愛想も悪く、とてもじゃないが商売は無理なタイプだった。挙げ句の果てに魔導士になると言って家出しやがって……」


 多少酒が入っているのだろう。

 テーブルに駆け寄り、恨みがましく愚痴をこぼす兄の姿が耳と胸に痛いムネタカは、苦味走った表情でうつむいていた。


 「……ま、お前が今こうして伝説の英雄にまで出世してくれたから、ウチの顧客も王都にまで拡大した。そこは感謝しているし、俺も両親も怒っちゃいねえ。もう少し頻繁に顔を出せよ。親父はともかく、おふくろは寂しがってるぞ」


 家族が自分に悪い感情を持っていない事は、ムネタカ本人も理解している。

 

 隠居中も親族の冠婚葬祭には最低限顔を出してはいるのだが、彼の持つ他人への後ろめたさは、前世から継承し続けている根の深い問題。

 そして更に、その前世の記憶が鮮明であるが故、彼はホリフィールド一族を本当の家族と認める事に戸惑いを感じているのだ。


 「……ああ、このヤマが片づいたらおふくろに会いに行くさ。一応警告しておくが、木材が足りなくなっても、聖獣の森には近づくなよ。今、色々とヤバいからな」


 最低限の挨拶を交わして兄を突き放しすムネタカ。

 そんな変わらない弟らしさに安堵したのか、ロジャーは微笑みを浮かべて席を立ち、暫しの間待たせていた商談相手を振り返って頭を下げる。


 「何処の農家のお嬢さんか知らないが、弟には勿体無い美人だよ。こいつは無愛想だが、悪い奴じゃない。大目に見てやって下さいな」


 作業着にくたびれた雰囲気のレナとシオンがまさか王女と王宮魔導士とは夢にも思わないロジャーは、何気に千載一遇の営業チャンスを逃していた。


 

 「おう! 来たぞムネタカ! 交渉はどうなった!?」


 いつもの様に荒々しく入店するランドール。

 

 彼は野太く大きな声を持っている為、話し相手が自身の正面に来るまで我慢が出来ない。

 しかしながら、隣のキルメスともども、今夜はまだ酒を飲んでいない様子である。


 「……おやおや、随分と街に馴染んだ格好だな! 意図は分かるから黙っててやる」


 昨夜のシオンに加え、今夜はレナの姿もある。

 ランドールはその格好を確認すると、キルメスの肩を叩いて合図を送った。


 「……えっ!? まさか姫様? これ全然普通じゃん!」


 周囲を考慮して大声こそ上げなかったものの、キルメスは耳を帽子で隠したレナが獣化の呪いをかけられている事に全く気づかない様子である。


 「……まあ、細かく見れば色々違うけどな……。とにかく姫様、デカい方がランドール、若い方がキルメスだ。キルメスは昔、姫様に挨拶したが無視されたそうだぞ。謝罪なされた方がよろしいかと思いますよ」


 怪しい敬語でムネタカに諭され、ゆっくりと顔を上げたレナは、当時は全く眼中にもなかった貧民のキルメスが実はイケメンだった事と、いかにも強面で傍若無人に見えるランドールが自身の事情を理解してくれている事に、素直に心を動かされていた。


 「……私が失礼な振る舞いをしたのであれば、謝罪します。すみませんでした……」


 すっかり庶民的な格好と、ハミンに揉まれた経験もあって大人しく見える現在のレナは、その生まれ持った美貌が逆に際立ち、若いキルメスに相当のプラスイメージを与えている。


 「……姫様、貴女が元の姿に戻る為なら何でもやりますよ! ご心配は無用です!」


 若さ故の直情か、キルメスはレナの耳元で早くも彼女に献身を誓っていた。


 「……で、どうだったんだ? 何だか疲れたツラしてるから、まあ見当はつくがな」


 3人をひと通り眺めて、ランドールは神妙な表情を浮かべている。


 「……交渉だけじゃダメだった。だが、解決策は単純だ。聖獣族の中にも、同族に迷惑をかける困った奴等がいるらしく、そいつらを懲らしめれば呪いを解いてくれるみたいだぜ」


 ムネタカが状況を説明すると、ランドールの眉間にしわが寄る。

 これは剣士の勘という奴が発する、つまりは危険信号。


 「聖獣族同士では解決出来ないトラブルか……。まさかそいつら……?」


 「……ああ、マヤーミの聖獣だ」


 20年前の戦いに於いても、聖獣族のプライドを守る為、最後の最後まで人間との和解に抵抗を続けたマヤーミの森の聖獣族。

 その抵抗が災いし、聖獣族の中で人間に奪われた命が一番多かったのもこの地であった。


 「相手によっちゃ、キルメスに任せるつもりだったが……俺も出ないとダメだな。積年の怨みや怒りは、力だけじゃ打ち倒せない」


 ランドールも覚悟を決め、魔導士2名、剣士2名のパーティー結成が決まる。

 20年前と同じ様に……。


 「シオンさんよ、俺達の参加は決まったぜ。王都からの依頼だ、半端な報酬じゃ納得しねえからな」


 これまでは見られなかったランドールの真剣な表情は、物心着いた頃から戦いの連続だった、まさに歴戦の強者だけが持つオーラに満ちていた。


 「……はい! 宜しくお願いします!」


 「ありがとうございます。宜しくお願いします」


 ムネタカとともに行動する事で、元来の才能と実力に加えた経験値を高めているシオンは、毅然とした表情を崩さず彼等に感謝の意を示す。


 一方、鼻っ柱は折られたものの、王女としての自分を取り戻す意志に揺らぎのないレナは、今、改めて自身の置かれた環境での戦いに挑む覚悟を決めていた。


 



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