008 特別訓練
昨日のショッピングは楽しかった。
未だに一人だけ合う教室が見付からない現実に落ち込みながらも学校に向かう準備を始めた。
いつものルーティンの後に、再度皆で集まってバスの時刻を待った。
学校。
そう考えたら、マイナスな気分になってしまうが皆に心配を掛けるような顔をしたらいけない。
「ねえ、七瀬」
「んっ?」
「今日は魔力の部屋に籠ろうと、一緒にどう?」
そう提案してくれたのは、望。
魔法少女に変身する時に使った魔力の部屋。
あそこの薄暗い雰囲気が好きじゃ無い為、一人で行く事は無かった。
しかし、あそこなら私の魔法が開花する可能性も無いとは言い切れない。
「い、行くっ!」
「良かった。良ければ一緒に行きましょうね」
「うん!ありがとう!!」
今の私は皆に遅れを取っている状態だから、頑張らないといけないのに保健室に逃げる事が多くなっていた。
学校に着くと、青の教室に荷物を置いて魔力の部屋に向かう。
魔法学校はうっとりするほど神秘的な雰囲気の学校なのに、ここだけは不気味だ。
しかし、新しい魔法を引き出せるかも知れないという、淡い期待に胸が騒ぐ。
ここでは何かに捕らわれる事無く、様々な魔法をイメージできる。
いわば、特別訓練みたいなものだろう。
私に合う魔法が見つかりますように__
軽く願いをお祈りすると地面に座り込み、色んな魔法を想像する。
雷の魔法に風の魔法。
イメージできる魔法を片っ端から想像するが、どれもしっくりこないまま時間だけが過ぎ去った。
次の日。
落ち込んでいる私を魔力の部屋に誘ってくれたのは華。
華も、自分に合う教室が見つかっているからそこで学んだ方が効率が良いのに付き合ってくれる。
正直嬉しい。
ただ、迷惑を掛けているような気がして、気が引ける。
「迷惑掛けちゃってごめんね……」
「僕達に迷惑掛けてるなんて思うなよ。友達だろ?」
友達__
「う、うん!ありがとう……」
「七瀬が悩んでる時に一緒に居てあげる事くらいしか出来ない……。それがもどかしいよ……」
目を伏せてそう言葉にする、華。
まつ毛の影が綺麗で見惚れてしまう。
こんなに私の事を考えてくれる人が居る事を誇りに思うから、凹んでばっかりは以来れない。
お願いだから、まともなレベルの魔法を使えるようになりたい。
そう願った瞬間、魔力の部屋の扉が開きこのみとまなかが入ってきた。
「もう、休み時間だよー!」
「そうなの。休み時間だから、ダラダラする事にをオススメするの!」
休み時間になっても休もうと思えないのは、皆に置いていかれている事実に恐怖を感じるから。
なにより、付き合って貰っているからこそ期待に応えたい。
「もう少し頑張ってみる……」
「七瀬は頑張り屋さんなの!!」
「頑張るしか出来ないから……」
「七瀬……。よーし! 明日は私が魔力の部屋に付き合うからね!!」
そう言ってくれたのは、まなか。
まなかの魔法は様々な空想した動物を召喚する事だから、忙しいはずなのに付き合ってくれるだなんて。
「あ、ありがとう……」
「その次は、私が付き合うのです!!」
ニコニコしながら、そう言うこのみ。
正直、皆に救われている。
魔法を覚える事の無いまま、魔力の部屋の付き添いがかわってゆく。
今日はまなかだ。
魔法の部屋に入ると瞳を閉じて、何かを意識している。
私も、イメージしょう!
そう考えて、瞳を閉じた瞬間に犬の声が聞こえて目を開ける。
なぜか、目の前にはゴールデンレトリバーがいる。
「召喚するなら、可愛いのも有りだよねー!」
「うんうん!」
「こうやって、可愛い動物を召喚するだけで癒されるーぅ!」
「確かに!」
「七瀬はなんの動物が好きですかぁー?」
「ウサギかな」
「よーしっ!」
まなかがそう言ったかと思うと、白いフワフワしたウサギが現れてぴょんぴょん跳ねている。
ウサギの後ろに移動すると、抱っこした。
「可愛いっ!!」
「七瀬が笑顔になってよかったぁー!!」
動物の癒しの能力は凄い。
今まで心の中で自分に対してガックリしていたのに、そんな感情すら忘れてしまう。
「もっともっと! 七瀬に笑顔になって欲しいーっ!」
まなかはそう言うと、瞼を閉じる。
すると、様々な色をしたウサギがぽんぽんと現れた。
やばい。
癒される。
「か、可愛いー!!」
「ありがとう!」
「なんで、まなかがありがとうって言うの!?」
そう言うと、幸せそうな表情を浮かべるまなか。
「私の魔法で、幸せな気分になって貰える瞬間が嬉しいのー!! 幸せな表情を見せてくれてありがとー!!」
人を幸せにする魔法かぁ。
瞳を閉じて幸せな瞬間をイメージする。
「わぁぁぁぁ!!」
まなかの感動の声が聞こえて、瞳を開くと沢山の可愛いらしいお菓子がテーブルね上に並んでいる。
「七瀬。凄いー!! これは、かなりの幸せの魔法だよー!!」
なんだか、新しい魔法を覚えたかのような達成感を感じて笑顔になってしまう。
心がワクワクする。
皆も呼ぼう。
そう思った瞬間、ドアが開く。
その先にはこのみが立っており、お菓子を見てヨダレを垂らしている。
「これ、食べていいのか知りたいの!」
「いいよ! 皆の為に出したんだ!」
「ありがとうなの!」
お礼を言うと、お菓子が並べられたテーブルに走り出す、このみ。
視線がお菓子しか見てなかったのだろう。
何も無い場所で体勢を崩した。
「危ないっ!!」
そう叫んだ瞬間、あり得ない事態に見舞われ目を見開いてしまう。
このみが派手に体勢を崩した瞬間に、懐中時計が周りの空間にいくつも現れ、ピタリと時間が止まってしまっているのだ。
まなかもウサギと戯れている状態で、ピタリと停止している。
慌ててこのみの場所まで向かい、体勢を崩した体を支えた。
懐中時計が消えたと同時に、時間が動き出す。
このみの体を受け止めた。
「えっ!? なんで七瀬が!?」
このみからしたら、七瀬がワープして来たように見えたのかも知れない。
不思議そうな表情でお礼を言っている。
「このみっ。お礼を言うのは、わたし!! このみのおかげで新しい魔法を覚える事が出来たよ!!」
不思議そうな表情のくるみ。
首を小さく傾げたままキョトンとしている。
「私のお陰なの?」
「そう。くるみが転けた瞬間、助けたいと願ったら時間が止まったの!」
「なるほどうなのです! それで、七瀬がワープしたように見えたのですね!!」
この魔法。
使いこなす事が出来たら、かなり役に立たないか?
そんな事を考えていたら、はしゃぎ出すこのみとまなか。
新しい魔法を使えるようになった事を、自分の事のように喜んでくれて嬉しい。
✤✤✤
新しい魔法を覚えた瞬間。
凄く嬉しくて、時間が許す限り練習した。
この魔法は、長く使えば使う程体が疲れてくる。
最初は五秒しか持たなかった時間も、三十秒耐えれるようになった。
アレンジでは、止まった時間の中特定の人物だけ動かす事も出来るようになるかも。
ただ、問題は一日一回しか使えない。
負担が凄いのだ。
そう考えたら、決して使いやすい魔法では無いが、心に満足感が出来た気がする。