006 魔法不適合!
魔法少女になって数日が経過した。
あの日__
共に戦った私達はお互いに気を許し、なんでも話し合える関係になった。
あの後、このみの回復魔法により皆ピンピンしていた。
しかし、それは体だけの話。
仲間が殺されるかも知れないという状態に身を置かれ、恐怖心を感じた。
心に恐怖心を植え付けられたのだ。
あんな事をしてまで、魔法を引き出した意味は有るのだろうか。
「あー!考えても分からないっ!!」
そう叫びながら、制服に着替える。
制服はあの戦いが終わった後で一人二枚ずつ支給された。
白を基調とした制服はブラウス、金色の線が入ったプリーツスカートに真っ白なマントのセットで高級感が凄い。
これを着ると、背筋がピシッと伸びる。
学校に行く前の食事はいつも五人一緒。
食事を済ますと一旦部屋に戻り、通学カバンを持って、七瀬の部屋に集合する事になっている。
ドアをノックする音が聞こえ、バックを持つと玄関に急いだ。
ドアを開けるといつものメンバー。
たわいない会話をしながら、寮を出るとスクールバスに乗り込んだ。
「ねえ、今日はどの教室に行く?」
「私は回復魔法を少しでも使いこなせるようになりたいので、緑の部屋に行くの……」
基本好きな教室に行って、勉強をしたら良い。
しかし、余りに自分の色と合わない教室に行き続けて駄目だと判断されたら、適正チェックをされて通う教室を決められる場合も有るそうだ。
「僕は更にスピードを求めたいから、赤の部屋だね……」
「私は、攻撃と防御を学びたいから青ですね!」
「私は、黄色!!」
あの日、皆が力を合わせるまで口数が少なかった、まなか。
きっと、色々我慢してたんだと思う。
今となっては、1番元気で明るいキャラだ。
「で!七瀬はどこの教室に行くのー?」
まなかが心配そうにそう切り出したのは、理由があった。
あの日、バリアの魔法をつかった七瀬。
魔法を使う事は確かなのだが、回復魔法は回復力が少ない。
ハッキリ言ってかすり傷程度しか治らない。
かと言って、特殊な魔法が使える訳じゃなさそうだ。
どこの教室に行っても、並以下の結果しか出せない。
「んー!ハッキリ行ってどこに行くべきか分からないの……。私、魔法少女向いてないのかな……?」
「大丈夫!まだ、魔法少女になったばかりだし!すぐに目的とする物が見付からない場合は多いよ!自分に合う事なんて分からない人の方が多いんだよ……」
そう言いながら、七瀬の頭を撫でた。
「そうだよぬ……」
「ええ。自分に合う事なんて見つからない場合が多いのですから、余り気にしないで良いと思います。ゆっくり探して行きましょう」
望も励ましてくれる。
だから、暗い顔なんて見せたくない。
現実的に考えたら、皆は自分に合う職業を見付けて日々精神している。
自分だけ取り残されたかのような不安感と焦りにジワジワと追い詰められて行く。
学校の前に止まったバスから降りて、教室に向かい歩く。
授業は魔法に関する授業だけじゃない。
最低限の授業を行った後に、魔法の訓練を受ける。
最近まで魔法とは関係なかった。
と、いうか魔法が存在する事さえ知らなかったのだ。
だからなのかも知れない。
皆んな、魔法の授業を楽しみにしている。
今まで使えたら良いななんて思う程度の物だった、魔法。
それが使える事が嬉しいのだ。
だから、皆キラキラしながら魔法の練習に励んでいる。
教室の近くまで移動すると、旗がユラユラと揺れている。
「じゃあ、これで!また休憩時間になったら話そ!」
全員が返事をして自分に合う教室に向かった。
合う魔法がある事が羨ましい。
「私は、どこの教室に行こうかな……」
せっかく魔法少女になれたのだから、華やかな学園生活が待っていると思っていたのに__
これじゃ、前と何ら変わりない。
魔法にすら、特徴が無い。
なにも無い。
溜息を漏らし、向かった先は青の教室。
自分は魔法を操る型だとは思うけど、どこに行っても駄目。
青の教室は、攻撃から皆んなを守る物理派の教室だ。
唯一使えた魔法がバリアみたいな物だったから、ここが私に合う可能性だって有ると考え足を踏み入れた。
「七瀬……」
私の名前を呼んだのは望。
金色の髪を揺らしながら、こちらに近付いて来た。
「どうしたの?」
「今日は青の教室にしてみようかな?なんて……」
「でも、七瀬は魔法を使うタイプですよね?」
それくらい分かっている__
でも、どこも合わないのだから仕方がないじゃない!!
今にもそう叫びたい。唇をギュッと噛み締める。
「あは!魔法はどこも合わないから、実はここなんじゃ無いかなぁ。なんて思ったんだけど、やっぱり違うよね……」
何処にも居場所が見付からない__
気が付けば教室から走り出していた。
望が「七瀬!」と叫んだ声が聞こえたが、気付かないふりをして逃げる。
自分に合う教室を見付けた望が羨ましくて仕方がなかった。
それは、妬み。
ここに来てまで、そんな感情に振り回されるだなんて。
気が付けば保健室の前に辿り着いていた。
ドアをノックすると、扉を開けるとまるでホテルのような空間が現れる。
いかにも大人って感じの先生は、真っ白な白衣に腰まである軽いウェーブの掛かった赤髪。
「どうしたのしら?」
「具合が悪くて……」
そう返事を返すと、ギュッと抱き締めてくれた。
「何か、悩みでも?」
思い掛けない言葉が帰って来て、目を見開く。
「なんかあるのなら、話すだけでも楽になるわ!心に溜め込む事が一番貴方を苦しめるのよ。私は誰にも貴方の悩みを口にしたりしないから、話してくれたらうれしいわ……」
なんだろう。
ここでなら、何を言っても大丈夫な気がする。
気が付けば、自分の悩みを吐き出すように言葉にしていた。
「大丈夫よ。貴方は悩み、迷った分だけ素敵な何かを手に入れられるから……」
素敵な言葉だが、今はピンと来ない。
とにかく、話した事で自分の中に溜め込んでいた汚い気持ちがスーッと消え去ったのは確かだ。
「スッキリしました!」
「貴方の力になれたなら、先生もスッキリしました」
「えっ?」
悲しそうな表情を浮かべる、先生。
「だって、ここは魔法学園。体調不良くらいならヒーラーが直せるの……。
だから、ここに来るのは心の体調不良を抱えた子だけで余り保健室としての役割は果たして無いのよ」
「そうなんですね」
「だから先生も自分の仕事に意味が有るのかを悩んでいたのよ……。
でも、貴方の頑張る姿を見たからにはもう少し頑張ってみるわね……」
もしかして、私は先生の役に立てたのだろうか。
自分はだれの役に立つ事も無い。なんて、思っていたから涙が溢れる。
誰かの役人立てる事がこんなに嬉しいだなんて、思いもしなかった。
「ねえ、貴方?」
「は、はい!」
「貴方と喋っていたら勇気を貰えるの。だから、またここ(保健室)にいらっしゃいな」
「はい……」
誰かに必要とされている感覚に安心する。
こんな私でも誰かの力になれるならそれで良い。
人は孤独な生き物。
だからこそ誰かに必要とされたいのかも知れない。