005 戦闘モードON
老女の後を着いて行きどれくらいの時間が過ぎただろう。
魔法少女に変身しているから足取りは軽いし、走ったくらいじゃ疲れない。
しかし、1時間以上ダッシュしている老女は魔法少女でもは無いのは確かな事実。
「あの。生身の体でそんなに走って疲れないんですか……?」
「魔法少女ていうのは、生身の時の強さも重要ですから」
「はあ……」
この老女も魔法少女なのだろうか。
それにしては年齢を食い過ぎているような感じがする事は、胸の内に秘めておこう。
「もうすぐ着きますよ」
そう言って、数分が過ぎた頃馬鹿でかいドームが見えて来た。
何をする気なのか予想も付かない。
「戦うには武器が必要です!先に中に入って、自分の持つ武器をイメージしておいて下さい」
そう言われ中に入ると、何も無いだだっ広い空間が広がっている。
「こんな場所に呼び出して、何をするんだろうね……」
「何かと戦うんじゃ無いかしら……,?
とにかく、各自武器のイメージをはじめましょうか?」
そう言うと瞳を閉じた望。
天から細い光が降って来た。
望の右手には銀色の細剣。左手にはブルーの細工が美しい大きな盾が握られている。
「出来ました。皆さんも、武器の準備をお願いします!」
「そんなぁ!!可愛い服ならまだしも。武器なんてイメージ出来ないよ!」
そう喚いているうちに、まなかの後ろに白い空間が現れ、そこから羽根の生えたライオンが現れた。
「えっ!えーっ!」
「どうやら、まなかは召喚魔法を使うようですね……」
「私も出来たよ!」
そう言った華の手には二刀流の短剣が握られている。
皆、武器がバラバラ過ぎないか。
「武器なんて身近に無かったので、イメージなんて出来ないです」
そう呟きいたこのみは今にも泣き出しそうだ。
「イメージ出来ないのはこのみだけじゃないよ!私も武器なんて無理!!」
「自分以外に仲間が居るのは心強いのです!!」
そんな話をしていると、足音が近付いてくる。
遠くから見た感じフードを被った老女だと思う。
近くまで来たかと思うと、いきなり走って来てパンチを繰り広げ、砂煙が立った。
しかし、それに気付いた望が前に移動して老女の拳を食い止めた。
魔法少女になっているから、老女の拳が見える。
しかし、普通の人間の動体視力じゃ何をしているかさえ分からないまま負けてしまうだろう。
望の盾が有れば、老女の拳を受ける事は無いと思った瞬間に、老女が何かを溜めるような仕草をして拳を放った。
完璧だと思っていた望の防御が崩れ、後ろに倒れ込む。
「この格好じゃぁ、動きにくいねえ……」
そう言うと、白のフード付きローブを脱ぎ捨て姿が露わになった。
薄紫色の足首まであるロングヘアーの、小学生低学年くらいの女の子。
柔道着に黒帯のシンプルなスタイルで、腕には黒い腕輪。足には黒いアンクルが着いている。
体を暖めているのか無表情のまま、ピョンピョン跳ねているが、一瞬足りとも私達から目を離さない。
「フー」
それは、少し多めの息を吐いた瞬間だった。
凄まじいスピードでこちらに走って来たかと思うと、拳で顔面を狙われる。
ギリギリで避けたものの、風圧で髪が切れてハラリと床に落ちた。
頼りにしていた望はボロボロだから、私が守らないといけない。だから、この場所は退けない。
そんな思いを胸に、幼女を睨みつける。
その間、涙目でオロオロとしながら望に近付いていったこのみは小さな口を開いた。
「私に、回復の魔法が使えればいいのに……」
性格的に戦闘向きでは無いこのみが下した、ひとつの決断だった。
その思いが届いたのか、このみの周辺が緑色の光で包まれ金色の木の杖が現れる。
木の杖を持ったこのみは涙を流しながら、望の回復を祈った。
望の体が緑の光に包まれたかと思うと、スーッと傷が消えていく。
望からしたら体の痛みが一瞬で消え去ったかのような、不思議な感覚だ。
「このみ!ありがとう!」
首を横にぷるぷると振ったこのみは涙を拭い、幼女を睨み付ける。
「あんまり好き勝手して、僕を怒らせるなよ!」
そう叫ぶと、両手に短剣を構えて幼女に近付いた華。
ジャンプして幼女に斬りかかったが、避けられてしまう。
私達の中では華は段違いのスピードを持っていると思うのに、全ての攻撃を無表情で交わされる。
しまいには、カウンターを食らった華の体も遠くに吹き飛んだ。
「いけえーっっ!!」
華の落ちた場所を指差した、まなか。
その合図に合わせて、羽根の生えたライオンが移動して華を背中に乗せた。
皆んな武器が有り、戦っている。
なのに、未だに武器を出す事すら出来ない、無力な存在だ__
「そろそろ終わりにしようかね」
そう呟いたと、思ったら凄まじい勢いでまなかの元にワープした幼女。
それと同時に、前に倒れ込むまなか。
同じ見えない攻撃でこのみ、望の順番で倒れてしまう。
おかしい。
いったいどういう事なんだ。
今は皆んな魔法少女になっているから、人間より何倍も強化された動体視力を持っているはずだ。
この、幼女はなんだ。
倒れた望のポニーテールを掴み起こした幼女が、正拳突きのポーズを取った。
技が出るのに時間は掛かるが、威力抜群の攻撃で有る事は確かだ。
そんな攻撃を喰らったら、望がどうなるか分からない。
気が付いたら、望の場所に走っていた。
望はさっき私を守ってくれた。
いわば、仲間だから命に変えても守って見せる。
気が付けば透明の光が降り注ぎ、目の前に現れたのは身長程有る銀のロッドで宙に浮いている。
先が丸くなっており、中心で光り輝く真紅の宝石が美しい。
ロッドの周りには、光の壁。
ロッドを手に取り、望を守ったと同時に拳が光の壁に当たる。
バリアは一瞬で砕け散った。
幼女は首を傾け、何か不服そうな表情を浮かべている。
「まあ。仕方がないかねぇ……。これで終了じゃ!!」
そう口にした瞬間、ドームの扉が開き老女が入ってきた。
「み、皆さん無事でしょうか?」
「わしの、心は痛い……」
幼女と老女が話をしている間に、よろよろした足取りで起き上がったこのみ。
杖を握り締めると祈りを捧げ始めた。
一人づつ。
でも、確実に傷が治り回復してゆく。
回復して起き上がった、華が幼女の元に移動すると首根っこを掴んだ。
「お前、何するんだよ!!」
「わしは皆の力を見ただけじゃ……」
「大体、ガキの癖になんなんだよ!!」
「ケツの青いガキにガキ扱いされたく無いわ……」
ガキ扱いされたくないって、どう見ても子供じゃないか。
「校長先生……。落ち着いて下さい……」
今、老女の口から出たのは校長先生という単語。
そして、幼女に向かって喋っている。
「へっ?校長先生!?」
「そうじゃ……。わしがこの学校の責任者じゃが、文句でもあるのか?」
「子供が、責任者!?」
ケラケラ笑う華を見て、老女が呟いた。
「校長先生は私より年上です……」
皆んなが「えーっ!?」と騒ぐ。
「わしは、先に帰るとしようかねえ……」
そう呟くと、校長は走ってどっかに行ってしまった。
✤✤✤
その後の校長には、納得行かない事が一つだけあった。
校長とのバトルをした者は、全て一回は戦いに敗れる。
しかし、光の壁はもしかして……
過去に一人だけ私の攻撃を防げるバリアを張れる奴がいた。
だが、あいつは死んでいるはずだ。
それに、あのバリアはアイツしかこの世に使える奴はいなかったはずだ。
なのに、何故この子が。
ちょっとこの子を調べてみるか。