003 魔法少女になりました!
激しく鳴り響くベルの音で目を覚ます。
時計を確認するとAM7:00で、本来ならば起きて学校に行く準備をしている時間だ。
しかし、集合時間はきまっていない為にベットに横になり至福のダラダラモードに入ろうと考え、ベッドにダイブした瞬間、部屋のドアを数回ノックされた。
頭に浮かんだのはこのみの優しい笑顔。
昨日喋った時の楽しさを思い出し、期待しながら扉を開く。
開けたドアの先に立っていたのは、望。
「ごめんなさい!朝の集合時間伝えるの忘れていました!8時にはお迎えが来るので準備お願いします!朝食は、一階に有るからよろしくお願いしますね!」
それだけ伝えると、急いで隣の部屋に移動してドアをノックする望。
全員に待ち合わせ時間を伝えなきゃいけない上に、昨日言い争いをした華の所にも行かないとならない。
気まずいだろうに、堂々とした立ち振る舞う、望は綺麗だ。
そんな、望に迷惑を掛けなくない為に朝の準備を始める。
必要最低限の日用品は部屋に全て揃っており生活出来ない事は無い。
全ての支度を終えると1階に移動して、食堂を探す。
実際に辿り着くと食堂と言うより、オシャレなレストランの雰囲気が溢れ出た空間になっている。
「あ、七瀬さん。貴方で皆無事に集まりました!!」
望にそう言われ、テーブルを見ると皆が準備を済ませ、席に座っている。
「へっ? 私が一番遅かった?」
「はい。七瀬さん以外の皆さんは、部屋を訪ねたら朝の準備終わってましたから」
えーっ……。
なんだか、私だけだらしないみたいだ。
「ちなみに朝食は軽いバイキングですから、好きなメニューを皿に盛って下さいな。席で待ってますね……」
皆んなを待たせたら悪い。
そう考えて、メニューの並べられた長いテーブルの元に走ると思わず歓声の声が漏れてしまう。
「わぁお!!」
この歓声の声は仕方ない。
お金持ちの食事の風景に出てきそうな長テーブルに白いテーブルクロス。その上には銀色の皿が大量に並べられており、その上では様々なオカズがキラキラと輝いて『食べて!』とアピールしてくる。
しかし、今は遅刻した身。
銀色のプレートを二つ手に持つと高速スピードでオカズをプレートに乗せてゆく。
可愛い黄色のオムレツに、カリカリのベーコンは大好物。
このプレートは洋食セットを意識して、コーンスープに、焼きたてパンを組合わしていく。
皆んな大好き和食は、艶々のお米に胃を刺激する味噌煮。
漬け物にお味噌汁と定番中の定番だ。
皆の席に向かい、二つのプレートをテーブルに並べると唖然とした表情でこちらを見ている。
「七瀬……」
「うん?」
「何で二人分……?」
「朝はしっかりと食べなきゃ駄目なんだよ!頂きまーす!!」
ポカンとした顔でこちらを見ている皆の視線に気付きもせずに、プレートに乗った食材を口に運んでゆく。
朝にピッタリなメーニューが舌を刺激して、食事が進むから気付かないうちに笑顔になった。
「うーん。幸せ!!」
食事に夢中の為、皆の驚いた顔には気付かない。やがて、胃は満足して満腹感に酔いしれる。
しかし、その時間は直ぐに終わった。
「時間無いから急ぎましょう!」
望がそう言うと、皆足早に食堂を出た。
バタバタと忙しいが、昨日みたいにギスギスとした雰囲気が無いのは助かる。
寮から外に出ると昨日の車が泊まっており、学校に向かう。
これなら、遅刻しないだろう。万が一遅刻しても一人じゃないから心強い。
無事に学校に辿り着くと、とある部屋に移動に移動させられる。
今まで、綺麗な壁や床にうっとりしながら歩いていた。
しかし、今私達がいる部屋はボンヤリとした紫色の光を放っていて薄暗い。
イメージするなら魔女が住む洞窟の中。
恐怖感を感じていると、昨日も話した老女がロウソクの火を頼りにゆっくりとこちらに歩いてくる。
不気味な場所だが、やたらと神々しく見える老女は聖女を思い出させ不思議な雰囲気すら醸し出している。
「今から何をするの?」
「魔力を高めます」
魔力を高めるなんて馬鹿らしい話なのに、心の何処かで期待しているのかも知れない。
魔法少女になった自分を想像してしまう。
そうしているうちに、妄想にも飽きて、無駄に時間を過ごしている事がバカらしく思えてしまう。
この空間に篭って1時間近くが過ぎた頃、薄暗い空間に居ると安心感を感じるようになった。
「いつになったら、僕は魔法少女になれるんですかねー?」
少し馬鹿にするような口調でそう呟いた、華。
「魔法少女になれるならなってみたいの……」
静かにそう呟くこのみに笑いかけた望が
「なれるわよ!」
と、呟いた。
まなかに関しては全く興味が無いのかおやすみモードに突入している。
「そろそろ、魔法少女になれるはずです。誰か、変身してみて下さい」
老女のセリフに一番に反応したのは、華だった。
呆れきった表情を浮かべると、溜息を吐いた後言葉を発した。
華の瞳は何一つ信用してない冷めた目をしている。
「はーい。僕から変身してみるね」
「変身する時は、目を軽く閉じて理想の自分を思い描いてくださいね」
「はいはい……。本気で想像するよ……」
愛想のない返事をすると、軽く瞳を閉じた華。
その瞬間、炎が消える時のような音がした気がした。
「華さん。凄く良いですよ。貴方のイメージは情熱です。息を深く吸いながら、火を意識してみたらより早く上手く行きますよ」
魔法少女なんて有り得ない。
なのに、華から目が離せない。
これは夢。
もしくは、何か仕掛けが有るのだろう。
華の周りたまに火花が散ったようなエフェクトが見えるような気がする。
「もっと、炎をイメージして下さい」
あんなに魔法少女の存在を信じて無かった華が、額を湿らせ苦しそうな表情を浮かべた瞬間だった。
華の周りに人魂を連想させるような、鬼火が浮かび上がる。
「変身するなら、今です」
老女がそう呟いた瞬間、華の身体をオレンジ色の眩しい光が包み込んだかと思うと、有り得ない事態が発生した。
変わっている……
華の着ている服装が変わっているのだ。
黒と赤のくのいちの衣装は、露出度が高く艶っぽい印象を受ける。
その印象を変えてくれたのは、首に巻いた黒色のフカフカしたマフラー。
足には黒い網目のガーターを履いており、セクシーさを感じる。
なぜか、頭に付いたキツネ耳の存在が可愛い。
右耳には夕暮れみたいな色の紅葉の葉っぱの髪飾りが華やかさを演出している。
「は、華ちゃん?」
髪型は変わらないが、目が燃えるような赤く光っている。
「えっ……」
呆気に取られたような、表情を浮かべてジーッと足元を見ている華。
「え?どういう事?私、なんでこんな露出の高い格好してるの?」
「魔法少女になったからですよ!ほら、魔法少女になれたでしょ!おめでとう!次は、誰が魔法少女に変身します?」
嬉しそうな顔で、そう言った老女が拍手をしている。
目をキラキラさせながら、華を見ていたこのみが顔を赤らめ右手を上げた。
「わ、私も……。変身して見たいの……」
まるで、童心を取り戻したかのような夢が詰まった表情。
そりゃぁそのはずだ。本当に変身するなんて、嘘のようなワクワクする話。
「このみさん!素敵な事ですよ!!是非変身してみて下さい!」
「は、はい!わ、私に変身なんて出来るか不安だけど頑張るの……」
そう呟くと、瞳を閉じたこのみ。
胸の前で手と手を合わせ祈りを込めると緑色の優しい光が天から差し込む。
やがて、光はこのみを包み込み眩しいくらいの光を放つと、このみも変身する事が出来た。
その姿は森の妖精のように見えて、ドキドキが止まらない。
深緑のロリータカチューシャには左右対称の大きめのリボンが二つ。
リボンの中心部分には四葉のクローバーがぴよこんと存在を主張している。
カチューシャの周りには、ふんだんな量のフリルがつかわれており、乙女心をくすぐった。
ロリータカチューシャと同じ色のロングゴシックにふんだんに使われた真っ白のフリルが使われており、胸元には細い紐で編み込まれたリボン。
茶色のロリータブーツは靴紐の部分が光沢のある、リボンになっている。
腰より長くなった髪は、緩やかなウェーブがコロネみたいで可愛い。
なにより、いつもメガネ姿のこのみがメガネを掛けていない事が新鮮だ。
「か、か、可愛い!!」
「本当に変身できるなんて、嬉しいの……」
「このみ可愛い……」
ずっと無言だったまなかがこのみ頭を撫でて、拍手を送る。
「まなかも変身してみてなの!きっと、可愛い魔法少女になれるはずなの!!」
「そう!やって見る……」
昨日まで不安感に包まれていた皆の表情がパッと明るくなる。
まなかが言葉の通りに、瞳を閉じて、祈りを更に捧げ始めたら黄色の光が体を包み始めた。
眩しい光が放たれたかと思うと変身しているから、不思議で堪らない。
しかし、まなかは変身前と変身後のイメージが大分違う。
金髪の髪をお団子にしており、少し残された髪の毛がサイドでくるりんと巻かれ可愛さを演出している。
それを、引き立てるように頭に付いている、ヒマワリの花。
目も、黄色で元気な女の子のイメージた。
白のショートローブは制服のようなデザインで、襟に黄色の線が一本。
黄色のプリーツスカートがチラチラと見え隠れしていて、とてもキュート。
「まなかったら可愛いの!!」
「このみも可愛いよ!!」
「皆可愛いの。あー、あと二人の変身が楽しみなの!」
「次わ、望!!」
そう言うと、望に視線が集中する。
やばい。楽し過ぎてワクワクが止まらない。
皆が可愛すぎてモフモフしたくなる。
「私の番ですか……。良いですよ……」
望が一瞬だけ瞳を閉じると、青い光に包まれる。
あっという間に変身した。
その姿は凛としており、戦場に存在する一輪の花みたいに見える。
銀色の軽鎧で身を守っているから、女騎士でもイメージしたのだろうか。
鎧の隙間から見える真っ白な布と青のスカートが美しい。
金色のポニーテールが綺麗で、その周りを縁取るようにオリーブの葉があしらわれている。
「あとは、七瀬さんですね!」
「えっ!私!?私も変身出来るのかな。自信ないなぁ……」
「そんな事言わずに変身しちゃってよ!」
女の子は可愛い物が大好き。
皆、変身すると可愛らしい服を身に付けているから、その場が盛り上がってしまっている。
「じゃあ、可愛いく変身するね!!」
それだけ言うと瞼を閉じて、なりたい自分をイメージする。
私がなりたいのは砂糖菓子みたいにフワフワした可愛らしい女の子。
そう願った瞬間体の中心部に心地良い熱を感じた。
おそるおそる瞼を開くと、巨大な感動に襲われ、悶えた。
「うわぁ!可愛いーっ!!」
「凄い!七瀬の服魔法少女って感じ!」
「本当だぁ!」
白とピンクの服に胸と腰に大きなピンクのリボン。
リボンの中心にはホワイトローズがあしらわれといる。
なによりフリルが半端ない。
密かに露出が有る胸元、二の腕にはそれを誤魔化すようにフリル。
一番凄いのはスカートで、フリルがパニエ代わりになっているのだろう。
少しポーズを変えるとスカートの中に大量の白いフリルが見えて、歩く度に揺れていた。
何より可愛いのは髪の毛が淡い桜色になっている事。
「皆さん。無事に魔法少女になれましたね。と、言う事は皆さはうちの学校ね生徒になってくれますよね?」
老婆が笑顔で問い掛ける。
何の理由で、この学園が魔法少女を集めているのかなんて考える余裕もない。
ただ、忘れていたドキドキ感を感じるのが楽しくて魔法少女として生きていきたくなったのだ__
皆、理由はそれぞれ違うのかも知れない。
ただ、魔法少女に魅力を感じたのは確かだろう。
誰一人して首を横に振る人はいない。
「私、白水七瀬は魔法少女になりますーー!!」