015 生意気くろたん
あの後、左之助達が当分の間暮らす事になった家に向かいクルマが走る。
茂は疲れてしまったのか静かな寝息を立てて眠ってしまったようだ。
まだ小さいから無理はない。
薄手のタオルケットを掛ける。
着いた場所は学校から割と近い場所に有るホテル。
いつもなら、人気すら少ないホテルの前に黒のスーツを着た見張りが沢山並んでいる。
左之助は歴史上の人物。
それと、この量の見張りは関係性が有るのだろうか。
眠ってしまった茂を肩に担いだ左之助は、鼻歌を歌いながら車から降りると頭を下げた。
「お嬢ちゃん達。ありがとよ!」
大量に買った荷物やお土産を持ったスーツの男達に、ホテルに連れて行かれた左之助一家。
さっきまで、騒がしかった車の中が急に静かになったかと思いきや、まなかとこのみが騒ぎ始めた。
「生の左之助様凄くかっこよかったぁー!」
「確かに、現代の男とは違うのです!!」
「左之助様に明日も会いたいーっ!」
確かにカッコ良かった。
でも。
「左之助さんには、嫁さんが……」
「あんな感じなのに、嫁さん思いな所にきゅんとしちゃうー!」
なるほど!
好きというよりは、憧れに似た感情なんだ。
「確かに、筋肉凄くてThe男って感じ!」
「やっぱり男は筋肉ー!!」
左之助の話題で盛り上がっているうちに、寮に着いて車から降りる。
「ああああ!」
「このみどうしたの?」
急に悶えて、ちょっと怖い。
「私、まだまだ皆とお喋りしたいのです」
お喋りって新選組の話だよね。
それに気付いた華が体調が悪そうに、咳をする。
「僕、体調が悪いのでお先に!!」
「私も調べ物があるので、またお誘い下さい!」
そう言い残し、自分の部屋に入ってしまった望。
「七瀬は大丈夫なの?」
そう言った、このみの目はダンボールに入れられて
捨てられた子犬のようだ。
「だ、大丈夫!」
「嬉しいの。じゃあ、着替え次第七瀬の部屋に集合なの!!」
「ラジャー!」
部屋に帰ると、服を着替えてこのみとまなかがやって来るのを待つ。
数分後。
無事に部屋で合流した。
このみの手には、新選組の児童書。
「七瀬。新選組で分からない事が有るならこれを読むの!」
「は、はい!」
確かに、知る事は良い事だ。
「でー! 本題に入るの!!」
このみの話をキラキラした目で見つめるまなか。
「本題とは、あれの事ー?」
「ふむふむ。そうなの!」
どうやら、二人の間で話は通じているらしい。
「本題って?」
「ふふふ!」
「ちょっと気になるから、教えてよ!!」
「今回、保護したのは左之助様だったでしょ?」
「うん」
「なんと! 次に保護する新選組の隊士は沖田総司様だと睨んでいるの!!」
沖田総司は名前を聞いた事が有る。
確か、めっちゃ強くてイケメン。
「カッコ良いのですよね……」
「そうなのです! イケメンで儚い、謎だらけの人物なのです!」
「謎なんだ?」
「ええ、謎だらけ! そんな沖田様の秘密のベールが明らかになると思ったら嬉しくて堪らないの!」
そんな物なのか。
歴史を語るこのみの姿を見ていたら、外からカリカリと柱を削るような音が聞こえてきた。
「な、なんの音?」
「ちょっと、見て来ますの!」
そう言ったこのみが帰ってきたと思ったら、その腕には忌々しき黒猫が抱かれている。
「おい、お前ら!」
「黒猫ちゃん……。
そんな、喋り方はよくないの……」
黒猫のお腹をくすぐりながら、注意するこのみ。
ナイスと叫びそうになってしまう。
「これが、俺の喋り方なんだよ!」
「そんな事ないの。だって、左之助様や校長先生にはしっかりと喋っていたの!」
「あれは、敬意を示した時の話し方なんだよ!」
ふーん。
私達には、敬意を示す必要が無いという事かぁ。
黒猫のやつー!!
このみの腕から逃げるように床に飛んだ黒猫を捕獲したまなか。
何か、悩んだ表情を浮かべながら黒猫を凝視している。
なんも考えて無さそうなまなかだが、黒猫の態度に怒っているのかも知れない。
「おい、離せ!!」
「離さないー!」
「俺は、人間風情に抱かれるのが嫌いなんだよ!」
「分かったよー。離してあげる。その代わり、君の名前はくろたんに決定してもいーい?」
そう言えば、名前が無いから黒猫と呼んでいた。
黒猫と呼ぶより、【くろたん】の方が呼びやすいのは、確かな事実。
しかし、不服そうな目付きの黒猫。
「おい、てめえ! くろたんなんて、ふざけ過ぎだろ!!」
「可愛いじゃないー?」
そう言うと、黒猫のお腹をくすぐりだす。
悶えてるくろたんに、容赦ないまなか。
「ね、くろたんでいいよね?」
数分後。
白旗を上げた猫の名前はくろたんになった。
少し可哀想だが、スッキリ感。
ところで、くろたんはなんの為にここまで来たのだろう。
「くろたん、なんか用事があったんじゃないの!」
「そうそう!
俺がここに来たのは、次の保護のターゲットについて話に来たんだよ!」
このみの目がキラリと光る。
「沖田様の事?」
「お、お前の頭で良く分かったな!」
「沖田様の事ならなんでも分かるの!」
「その沖田がが問題なんだよ!」
問題ってなんだろう。
私からしたら左之助もかなりの問題だったが。
「そうですねえ。確かに、沖田様は左之助様みたいに一筋縄じゃいかなそうですね……」
「なんだ! 人間!! お前、話が分かるな!」
沖田総司が一筋縄じゃ行かない。
「私の沖田様に対する情熱を甘く見ないで欲しいの!!」
「ふーん!じゃあ、沖田総司の事を勉強しろよ!」
「しているの! でも、謎が多すぎるのです!」
「じゃあ、俺が見せてやるから皆を呼んで来い!」
偉そうなくろたんに怖気付くことなく、瞳をキラキラ輝かせるこのみ。
このみの沖田総司に対する情熱はマジ物だ。
「読んで来るの!」




