014 左之助現代を満喫する!
現実世界に帰ってこれた。
「なんだ、ここは!?」
不思議そうな表情でしゃがみ込み、足元の魔法陣をまじまじと見ている左之助。
「ここは、貴方の住んでた時代からしたら遥か先の未来です」
なんで黒猫の奴、左之助には丁寧語なんだろう。
「ふーん。ここ、なにか面白い事ある?」
「それは、暮らしていくうちに分かりますよ。ゆっくり行きましょう。では、まず、校長に会いに行きましょう」
そう言うと、部屋を出て階段を登る。
眩しい明かりが見えたかと思ったら校長室。
右手の指一本で腕立て伏せをしている校長先生に近付く黒猫。
「戻りました!」
「お、早かったのー。ご苦労なのじゃ。ただ、早すぎて、左之助の迎えがまだ来ていないのじゃ」
「なら、こいつらに街を案内させては?」
こちらを見ながら、そんな言葉を吐く黒猫に冷めた視線を送る。
って、街案内だって!?
面倒くさい……
と思っていたら、嬉しそうな顔で左之助に近付くまなか。
「街案内なら私にお任せ下さい!!」
「なら、お主ら左之助達の服を見繕って貰えぬかのー
」
「お任せ下さい!」
「宜しく頼むのう。左之助とその家族が数日暮らせる家はわしが手配しておく!」
軍資金を受け取ると校長室から出て荷物を取りに行く。
学校内をキョロキョロ見ている左之助一家。
「父上! ここは何なのでしょうか!?」
「はっはは! 未来らしいが俺にも分からねえ! つーか、腹減ったから飯食わしてくんね?」
この状況で食べ物を要求するなんて、なんてお気楽なのだろう。
「ご飯なら今から向かう、デパートにバイキングが有ります!」
「バイキングー? なにそれ、おいしいの?」
「行けば分かりますよ!」
荷物を取り、学校を出ると黒い高級車が止まっている。
きっと、校長が手配してくれたのだろう。
「な、何だ。この鉄の箱は!?」
「自動で動く馬車みたいなものです!」
「なんか、すげー!」
「父上!本当に凄いですね!」
親子で目を輝かせながら、車に乗り込む。
優しい顔ではしゃぐ二人を見守る、奥さんの表情が幸せそうに見える。
だよね。
今で戦争に行った旦那さんを待っていたんだよね。
そう考えたら、こっちの世界に来れたのは幸せなのかも知れない。
「左之助様! ジュースでも飲みます?」
「ジュース? よく分からんが喉が渇いた!!」
嬉しそうな顔で冷蔵庫からジュースを取り出す、まなかを不思議そうな表情で見つめる左之助。
「オレンジジュースで、いいでしょうか?」
「飲める物なら、なんでもいいぜ!」
三人にオレンジジュースを渡したが、不思議そうな表情で缶を見つめたまま動かない。
開け方が分からないのだろう。
子供のジュースを手にすると、説明しながらプルタブを開けた。
「これ、飲んでね!」
恐る恐る缶に口をつけた子供。
ゴクリと喉を鳴らしたかと思えば、一気にそれを飲み干す。
「父上! これ、凄く美味しいです!」
「本当だなあ!!」
そんなやり取りが終わった頃に、辿り着いたデパートを目の前に子供よりはしゃぐ左之助。
店の中に入ると、アイスやシュークリームなどの食べ物が置かれたコーナーをじーっと見つめている。
「なんか、いい匂いがするんだが……」
「あ、帰りにお土産に買いますよ! とりあえず、服を見に行きましょう!」
最初に向かったのは、子供服売り場。
「子供さんに好きな服を選んで下さい!」
「茂好きな服を選んでいいみたいだぞー!」
「父上。選べと言われても、変な服ばかりです……」
戸惑った表情でそう呟く子供に、近付く望。
「茂君は、何色が好きかなー?」
「父上を思い出すから、赤が好きです!」
「赤かぁ!」
そう言うと、赤のTシャツに白いズボン。
黒の羽織りを手に取った望。
「こんな感じなら動きやすいから、試着室に行ってみようか!」
茂の手を握り、試着室に向かった望。
数分後。
試着室のドアが開き、洋服姿の茂が現れた。
「茂君。凄く似合うよ!」
望がそう言うと、顔を赤らめ嬉しそうに笑った茂。
その後、更に何着か選び会計を済ませた。
次は婦人服売り場に向かい奥さんの服を購入する。
女性だから、服に対する興味が違う。
奥さんは、大人しめの服を何種類か購入した。
「なんか、ハイカラな感じがします……」
「服を見るのは楽しいですよね!」
「はい!」
最後に左之助の着る服を買うために紳士服売り場に移動する。
赤が好きなのだろう。
子供みたいに目を輝かせながら赤い服ばっかり手に取って行く。
「俺も、着てみるわ!」
そう言った、左之助を試着室に案内する。
数分後、試着室の扉が開き全身真っ赤の左之助が顔を覗かす。
「なーんか、変じゃないか?」
「流石に、全部赤だと……」
「なら、カッコ良くしてくれ!!」
そう言われた望が、手に取ったのはタボっとしたジーンズに、白のTシャツ。
「これで、上にそのシャツを羽織れば良くなるかと」
「ありがとよ!」
ご機嫌な様子で服を受け取ると、ドアを閉めた左之助。
数分後に、着替えたようだがいまいち気に入らない様子だ。
「まあ、これでいいか。とりあえず、飯だ!! 飯!!」
そう言われ、最上階にあるご飯屋さんが集まった場所に向かう。
左之助が大食いな為、当初の予定通りバイキングに向かい、説明をする。
「まじに、好きなだけ食べていいのか?」
「ええ」
「見た事の無い食べ物だらけだ!」
そう言うと、嬉しそうな表情でプレートに食べ物を盛り始める左之助。
本当にその量を食べれるのかと問い正したくなるくらい皿に肉を入れて行く。
「あ、あの……。
食べ切れる量を皿に盛って下さいね……」
「おお! 分かってる! 食べ物は大事な物だから、残したりしねえよ。安心しな!」
その後の光景は凄かった。
有り得ないスピードで肉を焼き、頬張る左之助。
最初のうちだけだと思っていたが、1時間後になってもそのペースで肉を食らい続けているから凄い。
「肉を焼いて食うなんて、新鮮だなあ。この時代の奴は、肉ばっかり食うんか?」
「そういう訳じゃないですけど……」
「俺らの居た時代は、肉を食べる習慣は余り無かったぞ!」
食べ続ける左之助を横に、箸を置いて手を合わせる茂。
「ご馳走。凄く美味しかったです!」
「お。茂君良く食べたね。そんな、偉い子にはデザートが待ってるよ!」
「デザート?」
「うん!!」
不思議そうな表情を浮かべた茂を、アイスが置かれたコーナに連れてゆく。
「甘くて美味しいよ!」
トングを手にして、バニラとチョコ味を容器に入れてゆく。
その様子をワクワクした表情で見つめる茂。
アイスを入れた器を茂に手渡し、席に戻った。
戸惑いながらもスプーンを使い、アイスを口に運んだ茂は幸せそうな表情を浮かべる。
その様子を、嬉しそうな顔で見る守る左之助。
「これ、凄く美味しいです!!」
「そうなのか?」
「父上も食べてみるべきです!」
茂がそう言うと、容器に入ったアイスを一口で食べてしまった左之助。
「うわ! 口の中が冷え! かき氷みたいだな!!」
「かき氷より甘いです!」
「これも、沢山食べていいのか!?」
「勿論!」
「まじか! 現代は良い所だな! 俺にピッタリな場所だ!!」
そう言うと、再び肉を口に運ぶ左之助。
結局、時間いっぱい何かを食べ続けていた。




