011 授業外の訓練
昨日の夜、とことん付き合ってくれたこのみ。
七瀬は、悪い魔女にでも呪われていたのだろう。
本を見ると眠くなる呪縛は、未だに解けないまま身体を蝕み続けているが、少しだけ楽になった。
「わぁ!! 七瀬が本を読んでいる!!」
学校の休憩時間は本。
七瀬の見慣れない光景に目を点にした、まなか。
余程の動物好きなのか、魔力の部屋以来は常に魔法で出した犬を連れ歩いている。
「まなか!」
「んん?」
「本読んだら眠くならない?」
「なんで、眠くなるの?」
「僕は眠くなる……」
会話に入って来たのは、脳筋の華。
これは、本を読んだら想像力がアップして魔法力にも影響するのは本当なのかも知れない。
「華さん」
「なんだよー! 急に他人行儀になって気持ち悪いなぁ!!」
「華さんも、本を読む事をオススメしますよ。物語とは様々な方の知識が詰まっていますから!」
「七瀬……。望のフリしてるんだろうけど、七瀬が読んでる本って小学生向けの児童書だろ……。それで、その台詞とか笑うんだけど!!」
ちっ。
決まったと思ったのに。
近いうちにブックカバーの購入を視野にいれよう。
しかし、銃で戦う魔法少女かぁ。
拳や剣で戦うのは無理そうだが、飛び道具なら行けるかも知れない。
「ちょっと、魔力の部屋に行ってくるー!!」
「僕も、一緒に行こうか?」
「一人で大丈夫!!」
不気味な雰囲気だった魔力の部屋。
しかし、今は怖がってる時間すら惜しく感じる。
走りながら変身を済ませて、身長程の長さがあるロッドを持ちながら走る。
魔力の部屋に入ると、銃を意識ながらロッドを持つ手をギュッと握り締めた。
なにも、起こらないかな。
まあ、無理なら次を考えよう。
そう思い、瞼を開けるとロッドが眩しいばかりの光を放っていて、苦しがっているように見えた。
そっと、ロッドから手を離すとふわふわ空中に浮いている。
今だよ__
誰かがそう呟いた気がしたから、離れている場所から攻撃している自分をイメージする。
ロッドが眩しいくらいに光を放ったかと思うと、ピンクに白い羽がついた弓になってしまった。
喜んだのは、束の間。
「なんで、この弓……。弦も矢も無いの!?」
唖然として床にペタンと座り込む。
思い出したのは、さっき読んでいた銃を使う魔法少女のストーリー。
銃の弾は魔法力から作られるという設定だった。
「もしかして!」
弓を手に取るとエアー弓道のノリで、弓を引く動作を行なってみる。
なんとなく、弦のイメージが出来たと同時に透明の線が現れた。あとは、矢が有れば完璧だ。
弦をグイッと引くと弓矢が欲しいと願ってみる。
「で、できたぁ!!」
弦と弓がキラキラ光って、物凄く綺麗。はっきり言って、自分の武器に見惚れてしまう。
ウットリしながら、色んなポーズをとってみた。
想像力が、魔法に有効なのは間違いない。
きっと、このみも皆も喜んでくれる。それを楽しみにしながら、皆の元に走った。
「七瀬。変身したまま廊下をダッシュするのは、よくないですよ……」
呆れた表情で注意を促す、望。
「はーい! でも、嬉しいすぎて! それを皆に伝えたくって!!」
「何かあったのですか?」
「じゃーん!!」
弓を望の目の前に差し出して、ニヤリと笑う。
「弓が使えるようになりました!」
「まあ。それは、素晴らしい!!」
「ありがとう。きっと、皆喜んでくれると思う!」
「素敵ですね。でも、危ないから廊下は歩いて下さいね!」
「うん!」
このみの姿を見付けて、近付くと弓を見せた。
「じゃーん!!」
「新しい武器なの? 上手く行ったのですね!!」
「このみの考え出した特訓のお陰だよ!」
嬉しそうに微笑むこのみ。
「いえいえ。私はヒントを与えただけで、頑張ったのは七瀬なの!」
「あ、ありがとう」
「こちらこそ。嬉しい報告をありがとうなの。私も放課後の訓練で、成果を出したいのです!」
✤✤✤
あっという間に放課後になって、寮に戻る。
Tシャツとジャージに着替え、このみの部屋に向かうと扉をノックした。
ゆっくりと扉が開くと、緑色のダサいジャージを着たこのみが顔を出す。
「特訓何からする?」
「とりあえず、体力を付ける為にランニングから始めるのです!」
「ラジャー!」
早足で寮を出ると走り出す。
走り出して五分しないうちに呼吸が乱れる、このみ。
次第に手を振らなくなり、足が動かなくなった。
「もう、だめなの……」
「とりあえず、歩いて呼吸を整えよう!」
「座りたいのですー!!」
本を読んでる時、寝たらこのみはくすぐって起こして来た。
意地悪だと思ったけど__
きっと、それは、本当に七瀬の事を考えていたからこそ厳しくしたんだ。
嫌われる覚悟で相手を甘やかさない。
「とりあえず、疲れたら歩く! 座っていいのはまだまだ先!!」
「えぇ!ちょっとだけなの……」
「だめっ!」
座ろうとするこのみを引っ張り歩かせる。
「み、ミルクティーが飲みたいの……」
「帰ってから飲みなさい!」
「ベッドの上に転がりながら、本を読みたいの……」
「これが終わったら一緒に本を読もう!」
「はいなの……」
ほとんど歩いていたが、目的地の大きな公園に辿り着いた。
所用時間は一時間掛からないくらいだろうか。
少し休むと反復横跳びを一分行う。
私も反復横跳びは得意ではないが、このみの数字は異常に少なくて小学一年生の平均にも少し届かない。
「やっぱり、無理なの。私はトロイの……」
「大丈夫!やれば、やる程慣れていくから!」
「本当に?」
「うん! 努力したら結果にでるから!」
「わ、分かったのです!」
どれくらいの時間反復横跳びを繰り返していただろう。
最終的に小学一年生の平均値を、少しだけ超えたくるみは心底嬉しそうな笑みを浮かべていた。
頑張りがほんの少しでも結果に出ると、嬉しい。
くるみはそれを良く理解しているのだろう。
帰り道に座りたいと弱音を吐く数がグッと少なくなった。
寮に辿り着いた頃には二人ともボロボロったが、満足感に満ちている。
頑張っていれば、モヤモヤした気持ちに悩まされる事は無い。
本を読んでいる途中で眠りについていた。




