1-08 伊澤星夜
「ども、JAOプロデューサーの伊澤星夜です! みんな、いつもJAOを応援してくれてありがとう!」
リンが見せてくれた動画には、一人の男が映っている。
スッと通った鼻に、たれぎみの目は大きくくりっとしている。少し伸ばした色の薄い茶髪はゆるふわ系に整えられている。服装は白スーツ。
ゲームプロデューサーではなく、完全にホストの顔だ。しかも、かわいい。
「星夜は、いつ見てもカワイイいいわぁ……ラフィネもそう思うやろ!?」
やっぱり。
リンのストライクゾーンだ。完全にど真ん中。
「遊び人のリンさんが、無様に振られて私に泣きついてくる姿が目に浮かぶほどカッコいいですねー」
「ぶっ、ぶーっ。そんなことあれへんよー。私にとって、星夜は夜空に輝く高嶺の星やからなー」
なぜか誇らしげに胸を張る。
「あー、これ見よがしに胸を張らないでください。巨乳アピってもウザいだけですからー。それに高嶺の花でしょ。それより、先に進めてくれません?」
「しばらくは、デュエリングシールドの性能について説明してるだけやから、星夜について簡単に説明したるわ」
「別にいらないんですけどー」
「伊澤星夜。――突如ゲーム界に現れた彗星」
ダメだ。完全に自分の世界に入ってしまった。
「元々は歌舞伎町の普通のホストだった星夜。ある日、書店で何気なく手に取った一冊のライトノベル。人生初のファンタジー世界に衝撃を受ける。これこそ、自分が無意識に追い求めていた世界に違いない。そのとき、VMMOゲームを作るという夢を持ったのであった」
「星夜について説明するのはいいけど、お願いだから普通にしゃべってください」
リンは構わず、『熱情大陸』のナレーション風な説明を続けた。
リンの話によると、伊澤星夜の大まかなプロフィールはこんな感じだ。
まずは活動資金を貯めるべく、本業のホストクラブで頭角を現すようになり、歌舞伎町で5本の指に入るほどの人気を集めた。一方では、広告代理店とのコネクションを作ったり、なぜか独学で武術の修行にも打ち込んだり……。その後、持ち込み企画が通って、ゲーム会社に転職。プロデューサー業の傍ら、芸能事務所と契約。JAOの広告塔としてTVに自らを売り込みにかけた。持ち前のルックス、ホストクラブで鍛えた話術、アスリートや武術家もビックリの身体能力、そして芸能事務所や広告代理店の大プッシュ。おかげで、TVでも引っ張りダコとのことだ。
「すごく濃いキャラですねー……」
ただのゲームのプロデューサーとは思えない。
「やろ。JAOってゲームもすごいんやけど、星夜がいなかったらこのゲームは文字通りありえへんかった。あの愛され弄られ系のキャラとのギャップが、またええねん。去年の正月に跳び箱跳ぶ姿、カッコよかったわぁ……」
あの跳び箱を跳んだんだ。何段跳べたのだろう。今年も跳ぶんだったら、ちょっと見て見ようかな。
「おっ、そろそろやで」
どうでもいいことに気を取られているうちに、いつの間にか星夜がJAOにログインしている。アバターは白銀の騎士鎧に身を固めているが、顔はほとんど変わらない。
いよいよ本番。あの盾をどうやって使うのか、楽しみだ。
星夜は、両側が岩壁で挟まれた峡谷に転移した。風が強いためか、植物はほぼ生えておらず、黒い岩肌が剥き出しになっている。
「既存のプレーヤーは御存知の場所だとは思うけど、このマップは『竜へと続く道』――SSシナリオの最終ダンジョン直前のフィールドマップだね。フィールドなので敵の数は少ないけど、ポイズンリザードマンをはじめ、強力なMobが出現するよ」
星夜が解説を加える。
つい数日前まではUランクが存在しなかったということは、実質ここはラストダンジョン直前のMAPということになる。相当難しいはずだ。
「今回の動画、外付けの魔石は、耐久の魔石HRと、ボス戦で使う滅竜の魔石R以外使わないよ。盾の硬さをわかってもらうために、他の武器紹介動画では使っている耐魔石も、封印。完全に無茶な縛りプレイ。流石に大丈夫かな……」
少し困ったように、はにかんでみせる星夜。
どうせ失敗しても撮りなおすんだから、何の問題もないはず。要はただのファンへのアピール。この動画を見た人の中には、きっと目をハートにしている人がいるに違いない。
「そういえば、この盾ってどんな魔石が組み込まれてるんですかー?」
目をハートにしている人に聞いてみた。
「星夜……カワイイわぁ……」
ダメだ、聞いちゃいない。
確かリンと話をしていた時に説明していたはず。仕方がない、あとでもう一度見るとしますか。
「おっ、早速、ポイズンリザードマンが出たね。ATK14000近くあるうえに、HITも高い。攻撃だけなら新しく実装されたUMob以上じゃないかな。さあ、盾の強さを見せるにはもってこいの強敵だ」
毒々しい紫色の皮膚。一本の剣を右手に持ち、右肩で担ぐように構えている。のそりとした動きだが、その構えに隙はない。盾を構えた星夜を威嚇しているのか、シュー、シューと暗い緑色の息を吐いている。
それに対して、星夜はそれほど力んでいる様子はない。右手で盾を持ち、左側をやや空けている。隙ができる代わりに視界を確保しようとしているのかもしれない。
デュエリングシールドは星夜よりも大きい。両側のスパイクを合わせると、2mくらいありそうだ。一方、ポイズンリザードマンが持つ剣は、普通のサイズだ。
星夜は先にしかけなかった。相手に近づかれたら、アドバンテージを取られるはずなのに。
お互い睨み合ったまま、じりじりと距離を詰めていく。
「シャー!!」
先に動いたのはポイズンリザードマンだった。
手首を返し、星夜の左肩を斬りつけた。赤いエフェクトが弾ける。ダメージエフェクトだ。星夜は直撃を避けたかに見えたが、被弾していたようだ。
「うわっ、あぶな!」
攻撃したリザードマンが硬直している隙に、星夜は右に体を捻り、体勢を入れ替える。リザードマンから見ると、盾によって星夜の体が完全に隠されてしまった。
「5000以上のダメージって、やっぱポイズンリザードマンは怖いよね。U盾でもHPの半分持っていかれたよー」
その割には、表情と声に随分と余裕がある。
「でも、U盾には防御の魔石Uが1つ組み込まれている。だから、耐竜の魔石なしでもこの程度のダメージ。驚いた? もう1回言うけど、マジで耐竜填めてないからね」
「えっ、この程度って……。HP半分も減ったんですよ!?」
「ん? このゲームは即死級のダメージを叩き出すMobも多いからなー。ポイリザに斬られたらagi型の私なんて即死やったよ」
リンは恐ろしいことをさらっと言ってのけた。大丈夫か、このゲームのバランス……。
「けど、決して防御力が極端に高いわけじゃない。過信しないでね。それよりも、この武器の売りは別のところにあるんだ」
星夜はそう言いながら、持ち手の棒を両手で持ち、前方に押し出す。
盾を押し付けられたリザードマンは、満足に身動きが取れなくなった。
「嫌がってる、嫌がってるねー。盾の重量なら、ポイズンリザードマンの怪力でも、重量のある盾を跳ね除けるのは難しいんだ」
ポイズンリザードマンが何とか体から盾を引きはがす。しかし、星夜は再び盾を前にかざし、前進を続けようとする。
リザードマンが星夜の前進を阻止しようと、剣を振るう。だが、その先には盾がある――
ガギィン!!
金属と金属がぶつかり合う。甲高い音と共に火花が飛び散る。
打ち負けたのはポイズンリザードマンだった。紫色の体が大きくよろめく。しかし、星夜は攻撃後の硬直のせいで動けない。
フシャー!
先に動いたのはリザードマン。
体勢をあえて立て直さず、のけ反った体勢のまま、剣を斜め横に薙ぎ払う。狙うは星夜の左脇。この1撃で決めるつもりだ。
「――ここだ!!」
星夜の硬直が解けた。
相手の体勢が整わないその一瞬、星夜は体を反時計回りに90度ターン。そして、その勢いで相手の腕と体の隙間に盾を巻き込むように割り込ませる。それをそのまま前方に傾けた。
グェ!?
リザードマンはバランスを崩し、あっけなく倒れ込む。
自慢の横薙ぎの一撃も星夜に届く前に無残に崩れてしまっては意味がない。
「さあ、フィニッシュだ!!」
星夜は、地面に倒れ込んだ相手に目がけてスパイクを突き刺した。
デュエリングシールドの重量がのった強烈な一撃。ポイズンリザードマンの体が砕け散った。
リンは映像を一時停止して一言、
「どう? 参考になった?」
これって、これって……
「盾、関係ないじゃないですかー!?」
次回は8月18日の12時頃に更新の予定です。
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