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1-07 盾

 アクアマリンの輝きと共に、1本の槍が飛び出してきた。

 この槍が何なのかはまだわからない。ただ、わかっていることは、私がU武器を引き当てたということ。


「え、嘘、嘘ぉ! 一発でU槍ゲットぉ!? やった、やった! リセマラなんて、いらんわ! すごい、すごいで!」


 リンは私の手を取って、自分のことのように騒いでいる。


「ちょっと、リンー……」


 はしゃいでいるリンを注意しようと思ったが、サンドさんはともかく他の客たちも、私の方を、いやU武器の方を見ていた。完全に私たちは注目の的だった。



「ちょっとー、リン。わかったから、手を離してください。でないと、タップできませんよー」


「あ、そうやった! ごめん、ごめん」


 やっと解放してもらった。

 この騒ぎのせいで、他の10個のアイテムのレアリティを確認しそびれた。まあいいや、確認すればすぐわかる。


「すごいね、U武器の排出率って0.08%だったような……ぼくなんて、何百回もガチャを回してもUまな板がでないのに」


 サンドさんは夢でも見ているような呆けた顔で言った。私だって同じ気分。



「えー、まずは、他のアイテムから調べますねー」


「U武器からにしてよー、じらさんといてぇな」


 やかましいギャラリーは無視。私は、大好物を最後に取っておきたいタイプなのだ。



 獲得したアイテムは次の通り。


 耐久の魔石SS×1

 筋力増加のポーションS×1

 命中の魔石HR×1

 回避の魔石HR×2

 ダッシュの魔石HR×1

 プロボックの魔石R×1

 耐不死の魔石HN×1

 カタールHR×1

 仕込み杖HR×1


 今度はSS魔石が出た。これだけでも、前回の渋い結果とは大違いだ。


「せっかく出たSS魔石が耐久か。U武器以外は正直微妙やなー」


「えー、そうなんですかー? 耐久の魔石も大事だと支援センターで習ったんだけどー」


「もちろん大事やで。でも、耐久の魔石に関して言えば、どっちかというとちょっと低めのランクの魔石をたくさん集めるほうが大事や」


「なるほど、つまりこのSS魔石は売却したほうがいいということね」


「でも、U武器を作るときまで取っておいたらええんちゃう。U武器にはSSランクの魔石を内蔵できるからなー」


「え、でも。ラフィネさんは初心者ですよね? 序盤は武器なんて1本でいいわけだし、資金繰りのために売却したほうがいいと思うんですけど」


 サンドさんまで会話に参加してきた。

 二人が会話しているのを横目に、私は仕込み杖を装備して武器情報を確認する。



 種類:仕込み杖

 ランク:HR

 内蔵魔石:威力の魔石R×3

 防御の魔石R×3

 耐久の魔石R×2

 回避の魔石R×1

 ヒールの魔石HN×1

 キュアコンディションの魔石HN×1

 マジックアタックの魔石HN×1



 確かにRランクの魔石が組み込まれている。他のスキルもきっとR相当のレアリティなんだろう。


「まあ、売却しようかなー。私にはこれもありますしー」


 U武器を指差す。二人は頷いた。


「でも、仕込み杖は魔法が使えるから、まだ売らんほうがええと思う。槍は魔法使われへんし」


「んー。私、魔法使いより戦士がやりたいんですよねー」


「このゲームは、int1の戦士でも魔法を使う局面は多いですよ。回復魔法は、回復量がATK依存ですからね。バフ(強化)魔法スキルやデバフ(弱体化)魔法スキルを使うというのなら話は別ですが」


 なるほど、魔法戦士というのもありかもしれない。



「じゃあ、こっちのカタールは売っていいんですかー?」


 カタールとは短剣である。せっかくなので装備してみた。両刃の刀身に「H」型の握りがついている。同じ短剣でも、ありがちな形をしたダガーとは全くイメージが違う。


「これまた残念やなー! せっかくのカタールが、HR武器じゃ意味あれへんわー」


「カタールは強い武器なんですか?」


「カタールは青パッチで新しく実装された武器やな。タンク、つまり壁役の前衛が持つと強いって言われてる。けど、HR武器じゃあ、まったく役に立たんなあ……」


 じゃあ、これは売ろう。


「そんなことより、お店中の人たちが待ちくたびれとるで、早くそのU武器が何か教えてー!!」



 辺りを見回す。みんな、いつまでじらせるんだという顔をしていた。

 そろそろ頃合いだろう。


「行きますよー」


 私は、水色に光る槍に触れた。




『デュエリングシールドU×1』


 と文字が浮かび上がった後、


『所持重量が足りません。プレゼントフォルダに送られました。』


 という文字が目の前に現れた。







 まさかのお預け。

 あまりの展開に頭がついていかず、呆然と立ち尽くす。


「ええええええ、嘘ぉっ!!?」


 突然、リンが奇声を発した。思わず、びくっとなる。


「せっかくU武器でたのに、よりによって盾(かっこわらい)やなんて、ありえへんわぁー! 神様、そりゃあんまりやで。あ。でも、逆に考えるんや。これ店売りすれば、SS武器が何本か買えるわ。よかった、よかったぁ!! これでいいスタダ切れるで!! あ、でも、所持するにはstr上げなあかんわ」


 あまりに落胆したのか、リンは私の両手を固く握りしめ、腕をぶんぶん降り出した。やけっぱちな喜びを体全体で表現している。


 店内で盛り上がっているのは、リンだけだ。

 サンドさんは憐れむような目で私たちを見ながら、お皿を拭き始めた。お祭り状態だった店内の空気も一気にしぼんでいる。所詮これが現実だ、と言わんばかりに。





 しかし、デュエリングシールドとは、そんなにゴミなのだろうか。


 リンの手をほどき、所持重量を確認。まだ半分以上余裕がある。重すぎて使えない武器なのかもしれない。

 それにデュエリングシールドという武器名も気になる。決闘用盾? 鈍器ではないのか? どうして槍で出てきた? そもそも盾は武器なのか? 


「リン、デュエリングシールドってどんな武器なんですかー? それとも防具?」


 考えていてもわからない。目の前いる経験者に聞いてみることにしよう。


「あれでも一応武器やで。でも(笑)や。攻撃性能低過ぎやねん。防具といえば防具かもしれんなー」


「どういうこと? ちゃんと説明してください」


「あー……、わかった。ちゃんと説明するわ」


 そう言って、彼女は残っていたコーヒーを飲み干した。



「はじめに、私のことはリンダ先生ちゃんと呼びなさい」


「石くれるんだったら、呼んであげてもいいですけどー。まず、盾って防具なの、武器なのー?」


「あのな、ラフィネ。JAOには防具は無いねん」


「それは知っています。防御の魔石や回避の魔石で身を護るんですよねー」


 冒険支援センターで習った。


「うん。それともう1つ、身を護る方法があるねん」


 リンは左手をグーに、右手をパーにして、左手で右手を軽く殴った。


「なるほどー、受け止めるってことですかー」


「そうや、武器を武器で受け止める。『ブロック』っていうんや。それに特化したのが、デュエリングシールドや」


「攻撃はできないんだよねー?」


「ううん、できるよ。と言っても、ラフィネが考えてるような盾で殴りつけるってことじゃことじゃないねん。盾の両端に槍がついててな……って言ってもわからんやろうなー」


 腕組みをしたまま、目をつぶり難しい顔をしている。よっぽど説明しにくいのだろう。


 少し考えたあと、


「そうや、JAOのサイトを見たほうが早いわ」


 と言って、リンはJAOの公式サイトを開いた。





「……何ですか、これ? たしかに盾ではあるんですけど……」


 ホームページには、珍妙な形をした物体が載っていた。

 大きさは2メートル。現代の機動隊が持つような盾よりもさらに大きい。縦に細長いが、人をすっぽり隠すことはできるだろう。外側の中心部は少し膨らんでおり、攻撃をブロックするだけでなく、受け流すことにも使えそうだ。


 さらに上下の両端に鋭いスパイクがついている。

 サイトの説明によると、敵にダメージを与えるときはこのスパイクで突く必要があるらしい。シールド部分で殴ってもダメージが入らないということだ。


 そして、何より特長的なのは、裏に長い棒がついていることだ。

 盾には持ち手がついている。デュエリングシールドはそれが縦に長い。盾に持ち手がついているというより、棒術の棒にシールドがくっついているようなデザインである。たしかにこれは鈍器ではなく槍だよね。


「はっきり言って、めっちゃ、ダサいやろ」


「いやー……。もうちょっと何とかならなかったんですかねぇー……」


 しかし、武器にとって大事なのは外見ではない。問題は中身だ。


 大きな長所はいくつもある。

 まず、耐久の魔石を組み込まなくてもDRAが高いこと。

 それに、普通の武器より1ランク上の威力の魔石1個と防御の魔石1個が無条件で組み込まれる。ブロックは当然だけど、スパイクの威力も低くはない。


「アームズブロックっていうスキルも強力やで。その名の通りブロック専門のスキルや。これも1ランク上の魔石が組み込まれてる」


「まさにブロックに特化していますねー」


「でもな。重すぎるし遅すぎるわ。これ持ってたら、所持量に大幅な制限がかかる。何本も武器を持たなければいけないJAOで、それはキツイ。短剣とかならいけると言われてるけどな。それに重いのは通常ダッシュの速度や攻撃スピードにも影響するで。遅すぎるっていうのはそういうこと」


 確かにこれらの欠点は大きいだろう。だけど……



「それでも強そうに見えるやろ? じゃあ、強そうに見える動画を見よか」


「え……どういうこと?」


「デュエリングシールドは、カタール同様、青パッチで実装された武器やねん。だから、みんなにデュエリングシールドを使ってもらおうと公式が紹介動画をアップしてるんよ。どうやって使えばええか、それ見たらわかるんちゃう?」


 わかるんちゃう……? 疑問形なのが引っかかる。


「待ってな、デュエリングシールドの紹介動画……っと、あった、あった」


 しかし、リンは動画をそのまま再生せずに、


「今から見せる動画やけど、――全く参考にならんで」

次回は8月16日の12時頃に更新の予定です。




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