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1-06 リセマラ

前回は評価をいただきました。そして、VRゲームの日間ランキング88位に載ることができました!

拙作を応援していただいて、本当にありがとうございます!


ここが面白かったとか、ゲームとして楽しそうとか、キャラが好きとか、ちょっとしたことでも何でも構いません。後書きの下にある「感想を書く」という場所から感想をいただけると嬉しいです。


感想って恥ずかしいなっていう人は、★★★★★のところを押して評価をしていただいてもとても嬉しいです。


皆様の応援が私たちの創作活動のモチベーションになります。

これからも移動工房ともども、応援よろしくお願いいたします。

「んで、メインシナリオはどこまで進んだん? ここで食事してるってことは冒険支援センターは終わったってことやんな。ククリクの森もクリアしたん?」


 リンはBLTサンドを食べ終わると、私に尋ねてきた。

 現在、リンのプレイしているキャラは「*Linda*」というのだが、リアル同様、私はリンと呼び続けることにした。


「いやー……、支援センター終わった後、なんかクエストが面倒そうだったので逃げてきたんですよ、もっと自由にやりたくて。ほら、支援センターの話が課金の煽りばかりでつまらなかったから、ついー……」


「自由に……か。確かにラフィネらしいわ。最近やりたいようにやれんで、ストレス溜まってたんやろ?」


「そう、そう。だから、やりたいことをしに、ここに来たんです」


「ここに来た目的、カフェ巡りになってるやん。あかん、こうしてしゃべってると、何時間でも話せそうや。冒険しに来たんやろ。まずはメインシナリオ進めたら?」


「メインシナリオをやるメリットは?」


「メインシナリオのクエスト報酬は、確実に『石』が手に入るねん」


「石? 魔石のこと?」


「ちっ、ちっ、ちっ。魔石よりもっと重要なアイテムや。『石』っていうのは、『ヴァリュアブルストーン』の通称や」


「なるほどー、無課金でも手に入るんですか。それは重要です」


「クエストによっては、魔石も手に入るんも多いよ。序盤はRくらいやけど」


 R魔石か。……微妙。


「あと、メテオジャムで行ける都市が増える。それと、クエスト全般に言えることやけど、経験値が大きい。Mob倒すよりもずっとや」


「やるしかないってことですねー」


「とにかく、メインクエストはやっといたほうがいいで、メテオジャムで移動できる場所も増えるし」


 こほんと、わざとらしく咳払いをしたあと、リンはそう結論付けた。

 仕方ない、気が向いたときにこなそう。




「メインシナリオ、ほとんど進んでなかったんやな。よかったー……」


 なぜか、安堵の表情を浮かべるリン。


「どういうことですかー?」


「どうせ『リセマラ』するんやから、シナリオ進めても無駄になるし」


「リセマラ? 何のことです?」


「リセマラ知らんねんなー。……ってことは、JAOについてほとんど調べてへんねんな?」


「ええ、余計な予備知識は入れたくなかったからねー」


 こくりと頷く。


「じゃあ、今のJAOがどんな阿鼻叫喚の地獄絵図になってるか、説明する必要あるなー」


 あ、阿鼻叫喚……。

 ふと、サンドさんの方を見た。全力で頷いている。そんなにひどい状況なの?



「ふっふっふ……じゃあ、始めちゃうよ!! リンダ先生ちゃんの教えてJAO!!」


 静かな店内で、突然叫びだすリン。しかも、先生ちゃんって何だ、先生ちゃんって。

 NPCの店員が注意をしようとしたのか、近づいてきた。しかし、それを手で制止するサンドさん。いいのか、マスター。私たち以外にも客がいるのに……


「実はな、つい4日前までは、Uランクなんてもんは存在せんかってん」


「えっ!? どういうこと……」


「4日前までの最高ランクはSSやってん。4日前にUランクが追加実装されたんよ。Uランクの実装、通称『青パッチ』って言うんやけど、青パッチの実装が発表されたんが1ヶ月前や」


「1ヶ月後にリリースですか……? それはまた急ですねー」


「このゲームが始まったのは半月前。いきなり大型パッチが実装することになったから、さあ大変! 今まで使ってた武器が全部、雑魚武器になるってことで、みんなU武器作るために魔石を買い集めようとしたんや。ところが、各鯖に転売厨が現れてマーケットからレア魔石がなくなってもうてん。あまりの手際の良さに、青パッチ実装の情報を知ってた社員が転売に加担してるって噂もあったくらいや」


 生々しい。まるで株の売買のようだ。


「そして、今から4日前に青パッチがアップデートされた。実装されたUダンジョンはSSダンジョンよりドロップが美味い。単純計算すると、金銭効率が5倍以上に跳ね上がる。今までの狩りがなんやったんってくらい、マネ稼ぐようになってん」


 マネとはこのゲームでの通貨単位のことだ。


「なるほど、転売厨の暴走とUダンジョン実装のダブルパンチで、今JAOではハイパーインフレが起こっているんですねー。どこの世紀末ですか」


「さすがに、しばらくしたら相場も落ち着くとは思う。とはいえ、落ち着く前にみんないいスタートダッシュを切りたいわけで、そのためにUダンジョンに挑もうとしてるんや。だから、みんなもっと強い武器を持とうと、今必死になってるところや。以上、最近のJAOが地獄絵図ってこと、みんなわかったかなー?」


「先生。聞いてる人、私だけじゃないですかー?」


 一体コイツは誰に向かって説明してるんだ。あ、サンドさんも聞いてるか。


 それはともかく、このゲームが地獄だということはよくわかった。



「現在のJAOを生き抜くにはU武器が必要だということ、よ~くわかりました」


「とにかく、今はU武器……最低でもSS武器が1本。無かったら狩りにならんって言われてる。私みたいな廃人ならともかく、初心者には辛いわな。でも、そんな状況で初心者にとって有効な手段だと言われているのが、リセマラや」


「リセマラとかいうのをすれば、ひょっとして課金しなくてもU武器が手に入るんですかー? リセマラって一体……」


「さすが、ラフィネ。察しがええな。その通り、無課金で確実にU武器1本ゲットや」


「うそっ!! それはすごいですねー。1万円課金しても、武器ガチャからは5%しか手に入らな……」


 いや、待て。

 どこの業界でもそうだが、美味しい話には必ず裏がある。そんな楽々U武器がゲットできるというのなら、誰も課金はしないはずだ。


「ひょっとすると、リセマラというものは、お金はかからないけど……」


「そんな青くなるほどのことちゃうよ。ただ、アカウントをリセットするだけや。武器確定ガチャからU武器が出るまで、アカウントを何度もリセットする。リセットマラソン、略してリセマラや」


「え……? さっきアバターを作成して、あのダルい支援センターの研修を終えたところなんですけど……」


 ゲーム開始から、支援センターのチュートリアル終了まで30分くらいかかった。それをU武器が出るまで繰り返すとなると、今日1日では終わらないかもしれない。


「でも、リセマラせんかったら、ほんまに辛いで? パワーレべリング、他人にレベルを引き上げてもらうこともできるけど……、ラフィネ嫌いやん、そういうの」


「まあ、確かに……」


「ラフィネは、やると決めたらとことん自分でやるタイプやろ? だから、やると決めた時に悔いがないように、スタートダッシュかけたほうがいいと思うんよ。今の環境は、私らにとっては地獄やけど、新規ユーザーにとっては廃人との差を埋める絶好のチャンスでもある」


 私は言葉に詰まった。やるしか……ないのか。

 思わず、顔がこわばる。


 そんな私を見たリンが、


「――あ、ごめん。リセマラするんも、パワレべするんもまったりプレイも、その人の自由やんな。そもそもどのくらいJAOやるかも、決めてないんやっけ。私の廃人基準で語ってもうたなあ」


 済まなそうに謝った。


 リンは普段は騒がしいが、実は結構気を使うタイプである。リンは、私になんとかJAOを楽しんでもらおうと色々考えているのだろう。親友の心遣いを無下に扱いたくはない。

 そして何より、私はリンと一緒に遊びたい。

 きっと彼女はこのゲームに相当の時間――は無理でも、労力とお金をつぎ込んでいる。本気で遊んでいる。隣に物見遊山の雑魚がいても、お互いがつまらない想いをするだけだ。


 それなら、私がやるべきことは……。



「ひょっとしてー、リンは今日私と遊ぶつもりなかったんじゃない?」


 私は、わざと意地の悪い(と人によく言われる)笑みを浮かべて問い詰める。


「え、いや……。そ、そんなことないよ、リセマラが案外あっさり終わるかもしれんし。最悪、S武器でも狩りには行けるしな」


 私の言葉に慌てふためくリン。図星だったようだ。


「リセマラは、しません」


「――うん。そうやな、それがいいわ! 時間の無駄や、そんなん……」


 嘘つき。

 完全に眼が泳いでいるのを、私が見抜けないとでも思ったか。



「――リン。最初に女神に言われました。『私には私だけの物語がある』んです。あなたはこの世界を本気で遊んでいるでしょ? 一緒に遊ぶのなら、私も本気で遊ばなければ意味がない。そうは思いませんか?」


 リンは黙っている。私の言葉を聞きながら、大きな目で私を真っ直ぐ見つめている。

 いい眼だ。それでこそ、私の相棒。


「私はJAOでも、あなたと肩を並べたい。だからこそ、気に入らなかったら私の物語を簡単にリセットするなんて、つまらないことはしたくない」


 そう言いながら、ウインドウを操作する。


「私の物語は――、私が決めます」


 私とリンの前にガチャが現れた。


 リセマラしなくても、ガチャは引けるのだ。

 石は40個残っている。いや、石なんて、いくらでも継ぎ足せる。私は20歳以上だ、課金額は私が決める。親友と肩を並べるための金だ。出せるのなら、1000万円だって惜しくはない。


 ――ガチャを引いた。

 そのとき、箱から私たちの物語を祝福する水色の光が放たれた。


次回は8月15日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある★★★★★のところを押して評価をしていただければ、非常に励みとなります。




こちらも応援よろしくお願いします。


チートスキル【移動工房】で異世界を攻略する~天才ゲーマー、武器職人になる~


本作の目次上部にあるJewel&Arms Onlineシリーズという文字をクリックしていただければ、飛ぶことができます。

参考までにURLも張っておきます。 https://ncode.syosetu.com/n9133fx/

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― 新着の感想 ―
[一言] >青パッチの実装が発表されたんが1ヶ月前や >このゲームが始まったのは半月前。 ゲーム開始前にパッチ実装予告?
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