1-05 プラチーヌサンド
さあ、こんな課金の話しかしない場所に用はない。さあ、冒険に出かけよう。
私は冒険支援センターを後にしたのだった。
さて、リンが来るまで何をしようかな。ぶらぶらとプラチナムストリートを歩く。
ふと、一件のカフェに目が留まった。「Cafe de PlatineSand」。
安直なネーミングだが、サンドウィッチのお店と一目でわかるのはありがたい。趣味のカフェめぐりも最近仕事が忙しくてやっていなかったなー。
冒険よりも興味がわいたので、入ることにした。
「いらっしゃいませ。お持ち帰りでしょうか。それとも店内でお召し上がりでしょうか」
栗色の髪をした店員が応対してくれた。左右に×型の髪留めをつけている。NPCのようだが、なぜか日本人の名前だった。何かのアニメのキャラかもしれない。
「んー……そうですねー。中で食べたいと思いますー」
渡されたカタログを開き、メニューを選ぶ。
「おぉー、美味しそうー」
どうやらここは、サンドイッチ専門店のようだ。メニューには20種類以上のサンドイッチが並ぶ。メニューの写真を拡大する。色とりどりのサンドイッチが美味しそうに映っている。値段は現実と違って様々だった。
とりあえず、カボチャとヨーグルトのサンドとミックスフルーツサンドをチョイス。ドリンクはエスプレッソでいいか。
会計を済まし、カウンター席に座る。
店内は白煉瓦を基調とした内装に、シックなテーブルとチェア。美しい欅製の天板に鉄製の脚という組み合わせ。渋みのある男前なカフェだ。
「お待たせしました。カボチャとミックスフルーツ、エスプレッソです」
カウンターで応対してくれた店員さんはプレーヤーかもしれない。NPCと違ってプレーヤーは名前が見えないからだ。
「いただきます」
まずはミックスフルーツサンドを口にする。
はち切れそうな生クリームの間に、挟まる果物たちの存在感。イチゴ・バナナ・キウイの定番の組み合わせだ。イチゴは酸味が弱く、甘みの強い品種。ゲームの世界に存在するかどうかは分からないが、味や食感はイチゴの女王、あまおうを思わせる。スイーツにするのがもったいないくらい。バナナのねっとりした甘味も嬉しいし、キウイと生クリームの組み合わせもGOOD。一度食べたら女子ならリピしたくなること、間違いない。
エスプレッソで味をリセットしてから、カボチャサンドの方にも手を伸ばす。
これまた美味しい。カボチャとレーズンの素朴な甘味。それにヨーグルトのやさしい甘酸っぱさが口に広がる。この甘くてツンとした香りはシナモンかな。ミックスサンドのような派手さはないが、このメニューには作り手のこだわりを感じる。、この奥深い味、私は好きだなー。
「RINE鳴ってますよ、お客さん」
カウンターの向こうから、声をかけられた。
リンからの着信だろう。サンドイッチに夢中で気づかなかった。というか、完全に忘れていた。軽く頭を下げ、通話ボタンを押した。
「もしもし、リン。一体、何時まで寝てるつもりだったんですか―?」
「ごめん、ごめんな。てか、カ、えっと……このキャラ何て読むん? 今どこにおるん? 支援センターで待ち合わせるって話やったん」
そんな約束はしていない。彼女は先に冒険支援センターに行ってくれとしか言っていないはず。
「キャラ名? ああ、ラフィネって言いますよー。今、プラチナムストリートのサンドイッチ専門店でお茶してますよー」
「サンドイッチ専門店……ああ、プラチーヌサンドやな。OK、わかった。すぐ行くわ」
そう言って、リンはRINEを切った。
そうだ、店員さんにお礼言ってない。
「ありがとうございましたー。私、全然気づかなくてー」
「いえいえ。僕のサンドイッチ、頬が緩むほど気に入ってもらってたようで」
なっ! 私、そんなだらしない顔してたのか。気付かなかった。
「いやー、それは恥ずかしいところを見られてしまったようですねー……。しかし、美味しいですねー。まるでプロみたいですよー」
「僕はプロではありませんが……趣味でこういうことをやっているんです」
名刺を受取った。というか、名刺作れるんですか、このゲーム。
「えー……、『塩バターパンサンド』さん、ですか。結構個性的なキャラネームですねー」
私もサンドイッチは好きだが、名前にしようとまでは思わない。この人はまるでサンドイッチを作るために生まれてきたようなキャラクターだ。
「僕のことはJAO内ではサンドと呼んでください。それとよかったら、名刺の裏のURLをタップしてもらえませんか? ぼくのブログを見ることができますよ。変なサイトではないのでご安心を」
ブログにはJAOのことだけでなく、リアルのお店についてのレビューがたくさん載っていた。なるほど、サンドさんはブロガーか。
「どうりで美味しいサンドイッチをお作りになられるんですねー……。特にカボチャサンド、感動いたしました」
「いやー、そこまで褒められると照れますね。しかし、カボチャサンドの方ですか。なかなかいい趣味をしていますね。リアルのお店に近い味をJAOで再現しようと、頭を捻った甲斐がありますよ」
「サンドさんって、先ほどブログを拝見したところ、東京のサンドイッチのレビューをいくつもあげていらっしゃったようで。最近できたお店でお勧めのお店ってありますかー? ぜひ、お聞きしたいです」
ここで出会ったのも何かの縁。サンドさんから最新の情報を詳しく話を聞きたい。
「そうですね……最近なら、駒沢に新しいパン屋ができたのは御存知ですか?」
「あ、おった! おった~!」
レジ前から騒がしい関西弁が聞こえてきた。もう少しサンドイッチ話に花を咲かせてもよかったんだけど。
「いやー、リンのおかげでここのマスターと随分話し込むことができました。本当にありがとうございます」
「5年ぶりの再会やのに、サンドイッチ片手に嫌味なん? 相変わらずやなー。京都人でも、もうちょっとましやと思うけど」
5年ぶりの軽口。懐かしさに思わず口角が上がってしまう。
「けど、元気そうで何よりやわ。ここ、座るで」
リンが隣に座る。並んで座ってときに気がついた。
「背、低っ!」
アバターの身長は150センチないかもしれない。
リンは、中学生にも間違えられそうな童顔に似合わず、身長が174センチもある。そのギャップにコンプレックスを持っていた。
私もリンほどではないが、163センチと身長はやや高め。ゲームでは彼女を逆に見下ろすこととなるのだろう。
リンのアバターを改めて眺めてみる。
丸みのある愛らしい顔。くりくりとした大きな目はより強調され、まぶたが二重に変わっていた。紫色の髪をサイドテールにまとめてある。手足はほっそりとしており、スートをあしらったマジシャン風の衣装は、アニメ顔のアバターだと違和感がない。そして何より、やたらデカい胸は健在だ。
「何のことかわからへんなあ。それより、ラフィネのアバター……、リアルと全然変わらへんやん。髪型も相変わらずの黒髪ショートボブやし……。もう少し違う自分になりたいとか思わへんの?」
違う自分になりたいなんてとんでもない。自慢じゃないが、このショートボブは私のトレードマーク。自分でも気に入っていて、中学生のころから全く変えていない。密かな私の自慢でもある。あ、自慢だった。
「……そんな、笑顔でドヤ顔されてもリアクションに困るんやけど」
リンダは呆れたように溜息をついたあと、コーヒーを口にした。
次回は8月14日の12時頃に更新の予定です。
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