1-04 武器ガチャ
今度こそ話が終わったので、所長の部屋に行った。
前の教官曰く「プレゼントがある」らしい。きっと課金させるためにガチャを無料で回させるのだろう。無料より高いものは無い。
「私はここの所長を務めています、レオルと申します。以後お見知りおきを」
冒険支援センターの所長は、線の細そうな糸目の優男だった。
「ラフィネさんのこれからの冒険を祝福して、ささやかながらプレゼントをお渡しいたします。といっても、取引要請でお渡しできるものではございません。ここに倉庫BOXがあります」
目の前に大きな木の箱が現れた。
「倉庫BOXにはご自分の『倉庫フォルダ』とは別に、運営からの『プレゼント』を格納する『プレゼントフォルダ』があります、プレゼントを受け取ってください」
私は倉庫BOXを開けて、「ヴァリュアブルストーン×100」を受け取った。
「ヴァリュアブルストーンは、様々なことに使用します。キャラスロット拡張・基礎ステータスリセット・FP回復・経験値増加・インベントリ拡張・蘇生など、その用途は多岐にわたります。これを適度に使えば、快適に冒険できます」
何が適度。
散々課金を煽っておきながら、よく言うよ。
「そして、ヴァリュアブルストーンを使えばガチャを回すことができます。ヴァリュアブルストーン1つで1回ガチャを回すこともできますが、ヴァリュアブルストーン10個で11連ガチャを回せます。11連ガチャはHS確定です」
HSとは、ガチャで出てくるアイテムのランクのことだ。
最初の教官が教えてくれたのだが、このゲームでは、Mobや、武器・ポーション・料理といった生産品、マップ、魔石、冒険者などには、ゲーム上ランクが設定されている。ランクの意味は対象の属性によって異なるが、名称とランクを表す色は同じだ。
具体的には、
N|(ノーマル、エヌ):黒
HN|(ハイノーマル、ハイエヌ):えんじ色
R|(レア、アール):赤
HR|(ハイレア、ハイアール):オレンジ
S|(エス、スペシャル):黄色
HS|(ハイエス、ハイスペシャル):黄緑色
SS|(エスエス、スーパースペシャル):緑
U|(ユー、ウルトラ):水色
となっている。HSは上から3つ目のレアリティだ。
ガチャの提供割合はこうなっている。
HR 62%
S 22%
HS 10%
SS 5%
U 1%
ガチャで獲得できるアイテムをざっと確認してみた。魔石が中心だが、武器、ポーション、製造アイテムなども出るみたい。しかし、同じレアリティのアイテムの中では武器の出る確率は極端に低い。
理由は簡単。ポーションや魔石は3分で効果が切れる。それに対して、武器には効果が永続する魔石が内蔵されている。しかも12個も組み込まれている。武器の価値は同じレアリティの魔石やポーションなどとは比べものにならないのだろう。
「では、実際にガチャを引いてもらいましょう。ガチャを起動させて『11連を引く』をクリックしてください」
ガチャから出る武器の割合は、せいぜい20%前後だと思う。1本は出てほしいなー。でないと、さっき貰ったNランクのクラブで戦う羽目になる。
11連を引くのアイコンをクリックすると、空中にカラフルな箱が現れた。ひとりでに開くと、中から光を放ちながら、次々とアイテムが現れた。
「触れてみてください」
空中に浮かぶ石に触れると、「命中の魔石HR×1」と表示されて消えた。残り10個のアイテムに触れた後、アイテムウインドウを確認する。
威力の魔石HS×1
防御の魔石HR×1
耐久の魔石HR×1
威力の魔石HR×2
命中の魔石HR×1
回避の魔石HR×2
ヒールの魔石R×1
回復のポーションHR×1
攻撃力低下解除のポーションHR×1
まな板S×1
ヒールの魔石のランクがRになっているのは、ヒールの魔石RにHRランク程度の価値(レアリティ)があるからだ。たしかに魔石が出てきたとき、オレンジ色に光っていた。
「はあ……出なかったなー」
武器が出なかったのは痛い。魔石だけで序盤の戦闘を優位に進めるのは、ちょっと厳しいかもしれない。
「あまりいい結果ではありませんでしたね。でも、大丈夫です。11連ガチャを回すと、確定ガチャチケットが2枚もらえます。スキル確定ガチャは3枚、武器確定ガチャは20枚、課金武器確定ガチャは100枚で1回、回すことができますよ」
「はあ。何ですか、そのぼったくりガチャは。100枚って、5万円課金が前提じゃない」
「現在ラフィネさんは2枚チケットを所持しておられます。そして、私ども冒険支援センターはあなたの冒険を全力で支援させて頂きます。倉庫BOXをご確認ください」
確定ガチャチケットが18枚プレゼントされていた。ガチャを引いて獲得したチケットと合わせて20枚になる。
全力で支援するというのなら20枚くれたらいいのに。運営の微妙なケチ臭さを感じる。
「今回は、武器確定ガチャを回してみましょう」
私は、所長の言葉に頷いた。
武器確定ガチャの提供割合はこうだ。
S 45%
HS 35%
SS 15%
U 5%
普通のガチャより圧倒的に旨い。しかも、すべて武器だ。
ここでUが出たらどうしよう。5%だ。宝くじや福引の一等とは違って、あり得ない数字ではない。出ないだろうとわかってはいても、妙な期待で胸がドキドキしている。人間の欲とは恐ろしいものだ。このスリルを味わうためだけに身を崩す人が多くいるというのも、今ならわかる。
武器確定ガチャを引いた。さっきより豪華の装飾の施された箱が現れる。
――さあ、何色の光を放つ。
箱がまばゆく輝く。トパーズのような黄色の美しい光。
「あー……」
黄色の武器。つまり、S武器だ。
手に入れた武器は、Sダガーだった。
よくわからないが、正直S武器の中でも弱そうだ。
がっくりと肩を落とす。人生そんなに甘くはない。
「ラフィネさんは20歳以上なので、課金額に上限はございません。しかし、課金は計画的に行ってください。それではよき冒険を」
このゲームでは課金は必須だろう。課金はするつもりだ。しかし、不思議と腹が立った。
次回は8月13日の12時頃に更新の予定です。
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