2-11 vsアンドレアス4
「ラフィネ!」
リンが手を挙げた。
「リン!」
私も手を挙げる。
「イエーイ!」
「やった!」
互いの手を合わせて、ハイタッチ。
相手のU武器を折ったということは――事実上の勝利。
「私たちが狙っていたのは、相手のHPを削ることではありません。最初から武器破壊を狙っていました」
私はカメラに向かって解説を入れた。
あれほど執拗にデュエリングシールドでのブロックにこだわっていたのはなぜか。危険を冒しながらもわざと攻撃を受けたのはなぜか。
すべては武器を破壊するためだ。
ブロックすればDRA(耐久値)は減少するし、高DEFの相手に攻撃しても、DRAは大きく減少する。
どんなに高いATKを誇ろうとも、相手の武器さえ壊せば戦闘は終わりだ。
アンドレアスと戦うためにはその圧倒的な火力を封じることが一番。だから、アンドレアスと戦うときは武器破壊を狙うつもりだった。私みたいな初心者にとっては信じられないが、この作戦――【防御は最大の攻撃】は、JAOの基本戦術らしい。
とはいえ、ATKが高すぎるアンドレアス相手に【防御は最大の攻撃】を実行したものはいなかった。デュエリングシールドだからこそ実行できたことだ。
リンがアンドレアスの方に向き直った。
「さあ、チャンスタイムや! 5分間でどれだけ削れるか!?」
Mobはすべての武器が折られても、5分後にはすべての武器が復活する。そうしないと、ゲームバランスが取れなくなってしまうからだ。
「私の獲物、絶対に逃がさへんでぇ」
リンのマジックアタックが命中した。
「火力上がっていますね」
「そりゃそうや。【防御は最大の攻撃】やもんな」
【防御は最大の攻撃】とは、防御を固めて相手の武器を破壊すれば、相手の防御ステータスが減少し、味方のDPS(秒間火力)が上がるという考え方だ。
後の攻撃を通しやすくするために防御を固めるなんて……JAOはやっぱり変わっている。
アンドレアスはそれほどHPの高いボスではない。しかし、リン1人でHPを削るには難しい。そこでこの方針を取ることにした。
「5分もいりませんよ、3分で終わらせましょう」
私は盾を外し、フレンド武器であるステッキを装備した。リンと同じ装備。つまり、これで私はリンとほぼ変わらないステータスとなった。
私たちはアンドレアスの1本目のHPバーが折れるまで、ただ逃げ回るしかない豚を魔法で追い回し、殴り続けた。
ピギィィィ!!
アンドレアスのHPバーが折れた。右手に再び燃えるロッドが出現する。
「チャンスタイム、終ぅぅ了ぉぉっ!」
「タイム計っていたんですけど、Uロッドが折れてからきっかり3分後でしたね」
ボスにはHPバーが3本ある。5分経たずとも、ボスはHPバーが1本折れれば、次のフェイズに移行し、新しい武器で戦うことができる。
「えっ、ほんま!? なんで当たったん!?」
「勘ですよ……って、それより引き締めないと」
アンドレアスがリンに向かおうとしたが、プロボックで阻止した。
チャンスタイムは終了。戦いは始まっているのだ。
ブヒィ!
アンドレアスのロッドから炎が噴き出す。ストライクだ。アンドレアスがいきなり切り札を繰り出してきた。
「もう、普通に受けるだけで十分ですよね」
盾がアンドレアスの攻撃をあっさり阻んだ。
「あっさりブロックッ! アンドレアス、めっっちゃ、弱すぎぃ!」
最強だったのは昔の話。
見た目は同じ火ロッドだが、アンドレアスが持っているのは同じ武器ではない。「SSロッド」だ。攻撃力は半減している。
普通のボスはHPバーを折られるたび、攻撃が強力になったり、攻撃のバリエーションが豊富になったりする。
しかし、ボスの中には最初から最後まで武器が変わらないボスや、段々弱くなっていくボスもいる。通称、「出落ちボス」と呼ばれているそうだ。
アンドレアスはフェイズ1にUロッドを使用する代わりに、フェイズ2ではSSロッドしか使用できない。フェイズ3に至っては魔法しか撃たなくなる。
アンドレアス最大の弱点、それはフェイズが進むと急激に弱体化することだ。
続けて繰り出してきたアンドレアスの通常攻撃を、私はアームズブロックでブロック。アンドレアスはあっさりダウンした。
この2回の攻防でDRAの6分の1ほど削れたはずだ。ダウンした時にデバフをたっぷりとおみまいした。
「それでも無対策で被弾すれば、低HPの私たちにとっては脅威です。気を引き締めてくださいね」
「はいはーい」
その後、1分も経たないうちにSSロッドは折れた。再びチャンスタイム。
2本目のバーが折れようとしたとき、
「第3フェイズの魔法は、第2フェイズの魔法よりもATKが高いからがんばってな!」
と言った。
おっと、小芝居のこと忘れていた。
「リン、ごめん。もう、デュエリングシールドのDRAがほぼ残ってない」
と、ここで打ち合わせ通りの台詞。実際、DRAは心もとない。
「ええええええっっ!」
わざとらしく驚いてみせるリン。
「オッケー、リンダちゃんに任せとき!」
リンはでかい胸をカメラにアピールした後、アンドレアスにラッシュをかける。2本目のバーが折れた。
ピ、ピギィィィ……
弱々しい鳴き声。数分前までの猛々しい様はどこへやら。
這う這うの体で距離を取ろうとする。しかし、リンがダッシュを使用。
「あかん、あかん。絶対に逃がさへんで~♪」
物理打撃が使えれば迎撃もできるのだろうが、アンドレアスが装備しているのはワンド。魔法攻撃しかできない武器だ。
「魔法しか撃たんってことは、これで完封や。えいっ、シーリング♡」
カメラ目線でばっちりアピール。
それとは何の関係も無いけど、アンドレアスはスキルが使用できなくなった。
あとは、ただ殴るだけ。第3フェイズは武器があってもなくてもDEFが8しかない。封印さえすれば武器を壊す必要もないのだ。
ピギィィィィ!!!
そして、戦闘開始から19分26秒。最強のボス「ハイオークキング(アンドレアス)」が倒れた。
「終わった……」
余りに情けない最期だったが、それでも途中までは本当に強かった。正直、運に助けられたところもあった。
それでも、私たちは勝った。初心者とか関係ない。運命的に巡り合った武器デュエリングシールドの可能性を示すことができた。
そして何より、私たちの物語はまだ続く。そのことがたまらなく嬉しかった。
「そういえば、聞きたいことあったんや」
ボスドロップお披露目終了後、リンが話しかけてきた。まだカメラは回っている。
「EXPを被弾した時あったやろ? あれ、なんやったん?」
「あー、あれは『回避』に失敗したんですよ」
「ええっ! 回避!? いや、どう見てもブロックしてたやん」
「んー、伊澤星夜の動画でも盾で火炎をブロックしているように見えましたよね?」
「そうや」
「でも、あれも『回避』なんです」
「え? え?」
混乱するリン。当然だ。私もその事実に気づいた時は愕然としたからね。
「説明しましょうか」
ステッキをデュエリングシールドに持ち替えて、カメラに向かって構える。
「EXPは炸裂すると衝撃波が発生しますよね」
「そうや、その衝撃波を盾で防ぐんやろ?」
「そうです。でも、この構えだと盾で防ぎ切っていない部分がありますよね?」
「えっ、頭や胴体とか守るべきところは全部……あっ、ああっ!!!」
演技でない本当に驚いている顔。そう、それが見たかった。
「そうです。デュエリングシールドの盾部分では、足首を隠せないんです」
「つまり、足首が当たっていたってことかあ!」
「そうです。伊澤星夜の動画ではDOGが十分に足りていたから問題なかったんです」
「あのボスはHITが低いからなあ……。なるほどなぁ……」
「そういうことです」
「あの地面にスパイクを刺したのは、何でなん?」
「アンドレアスはHITが高いですからね。それに回避の魔石は1つも用意していませんでした。そこで、デュエリングシールドの隙間を塞ごうと思ったんですよ」
あれは一か八かの賭けだった。もしスパイクが地面に突き刺さらなかったら終わっていた。
それにあんなことで、完全に隙間を塞げたとは思っていない。現実なら熱風が漏れていたと思う。でも、これは遊戯。きっと一定時間か一定量当たり続けなければいけないとか、ゲーム独自の仕様があるのだろう。とにかく助かった。
「なるほど!! さすが、私の見込んだ相棒や!! JAOの天才、現る!!」
「いやいや、私なんてまだまだ初心者ですよー」
「アンドレアスを石蘇生なしで撃破したから、初心者卒業やな!」
「それもそうかもしれません、これからもお手柔らかにお願いします」
私たちはカメラの方に向き直った。
「「それでは、ご視聴、ありがとうございました」」
笑顔のまま、深々と頭を下げる。
少しでもデュエリングシールドの可能性が、JAOの可能性が広がることを信じて。
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