2-04 PK対策
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その後、私たちは裏オークで3時間ほど狩りを続けた。
蘇生やFP回復、経験値アップに石を40個ほど使ったが、存分に狩りをすることができた。レベルも2レベル上がったし、デュエリングシールドの使用感を十分に確かめることができた。石はガチャを回すためだけにあるのではない。
早めの夕食を済ませ、再びJAOにログイン。時刻は18時35分。まだ十分に遊べる。
リンは自炊をしているので、合流するのはもう少しかかる。夕食を食べた直後なので、プラチーヌサンドに行く気分ではない。RINEで、ククリクの森でエイムの練習をするというメッセージを送った。
デュエリングシールドの練習はハードだったが、エイムの練習は楽しい。対象の動きを予測し、魔法を放つ。狙い通りに魔法がヒットした時の快感は、必殺の一撃をデュエリングシールドで完全に受け止めた時に匹敵する。いやー、楽しい。サブアカを作るのなら、リンと同じ魔法系アタッカーも悪くないかもしれない。
前方から二人の男が近づいてくる。青い鎧を着た剣士風の男と、Tシャツと短パンのチャラ男。下卑た笑いを浮かべている。
リアルで繁華街を歩いている時に見かける、風俗のスカウトに似ている。隙のない女に見られるのか、この手の奴に声をかけられることはほとんどないのだけど……。
「おい、初心者」
ほら、来た。髑髏のアイコンが浮かんでいる。いわゆるPKerを示すアイコンだ。きっと私が格好の餌に見えているのだろう。
「U武器持ってるんだろう? 大人しくU武器を渡せば痛い目に遭わずにすむぜ~」
私は溜息をついた。……やっぱり、こういう奴らか。キャバクラのスカウトより見る目が無い。
装備ウインドウを開いた。
「えー、申し訳ないのですが、私は現在HR武器しか持っておりません」
このセリフと同時に装備を解除。
「はぁ? HR武器ぃ? 最低でもS武器だろ!?」
武器確定ガチャのことを言っているのだろう。単細胞過ぎる。
「もちろんそれ以上の武器は持っています、しかし私はエイムの練習をしに来たのです。だから、HR武器しか持ち合わせていません」
「ちっ、ハズレか。しけてんなあ。だったら、その武器を奪ってやるよ」
Tシャツが薙刀を構えた。やる気になったようだ。
だが、こんな奴らごときにペースは握らせない。
「えー、運が良ければ可能ですけど、難しいと思いますよ」
「どういうこと?」
しめた。話に喰いついた。もうここまでいけば、勝ったも同然。
「PKをするのなら、PK対策――知っておいた方がお得ですよ。お聞きになられますか?」
彼らの目は真剣だ。やることも忘れて、私の話に耳を傾けている。
「簡単なことです」
そう言いながら、アイテムウインドウを操作し、石を5~6個取り出す。これは、森に入った時拾ったものだ。当然、何の価値もない。
「装備している武器以外のアイテムは、所持数の半分をドロップします。私はHRロッドと最低限の魔石を除いて、石や枝を重量ぎりぎりまで持っています。お気づきだとは思いますが、私の移動速度、ちょっと遅いでしょう?」
「お、おう。たしかにククリクの狩りを重量ぎりぎりまでやる奴はいねえな。なあ?」
「あー……。どうりで遅かったわけだ、うん。俺は気づいてたぜ!」
気づいていなかったことを隠そうとしているけど、全然隠せていない。幼稚な反応。こいつら、中高生かもしれない。
「だから、私をPKしても石や枝ばかりで、少しも美味しくありません」
「情報ありがとよ……で、見逃してもらえると思ったかあ?」
予想通りの反応。見逃してもらったら、それこそ神の奇跡だ。
こいつらは、PKをやりたいわけじゃない。ただ、弱い者いじめがしたいだけだ。このあたりはPKスレでもその雰囲気を感じなかったわけじゃない。だが、本物のPKerは偽物と決定的に違うことがある。
「あらら、見逃してもらえませんか。まぁでも、もう少しおしゃべりしませんか。JAOって、広告を大体的に打っていますよね?それっていつまで続くと思います?」
JAOを始める前はそれほど意識していなかったが、始めてみるとJAOの広告の多さに気づいた。リンが言うには、JAOの広告は年中やっているらしいが、今は青パッチ実装に合わせて、伊澤星夜がTVで宣伝していたり、TVCMを増やしたりしているようだ。
「知らねえよ、なあ?」
「馬鹿じゃねえの!? 興味ねえよー!」
なぜか馬鹿笑いを始める二人。……こりゃ、小学生かな。
「そうですか。そのうち広告が減って新規ユーザー……初心者も減ります。U武器の値段が安くなったら、PKする意味がなくなります。そのとき、お二人はPK続けるんですか?」
「え……初心者いなくなるの? そんなの動画配信でも言ってなかったよ、なあ?」
「え~。でも、U武器手に入んなかったらPKする意味ねえし……」
「そうなると、お二人はカルマを浄化して、普通のプレイヤーに戻るつもりなんですね?」
「そりゃ、戻るよ。なあ?」
「初心者いなかったら、やる意味ねーし!」
「なら、知っておくといいですよ。今、街ではエメラルドサーバーから来た『エメラルド鯖PK反対運動』というギルドがPK反対活動をいっぱいやっています」
驚愕の表情を浮かべる二人。
本当は大体的な活動ではないと思う。しかし、PKerである二人は街に入ることができないので、それを確かめるすべがない。
「彼らはPKerを絶対に許さない。だから、PKerのプレイヤーネームを晒して、真っ当なプレイヤーに戻れないようにしているそうですよ」
「えー……なんだよ、そんなのやだよー!」
「そ、そいつら、37564が動画で言ってた奴らだよ。やべーよ、どうすんだよー!?」
「そう言えば、私、そのギルドのギルマスの尾田さんと知り合いなんですよねー」
この言葉を聞いた彼らの顔は、みるみる青くなった。
アバターの顔も青くなるんだ。そんなどうでもいいことを考える余裕さえ私にはある。
もちろん知人ではない。ギルマスの名前がビラに書いてあっただけだ。
鎧が、歯をがたがたさせて震え始めた。こいつはもう終わった。
「プレイヤーネーム、普通のプレイヤーは公開されませんが、あなたたちは一定の条件を満たせば名前を知られてしまう。知っていますよねー、条件」
「だ、だ、ダメージを、PTメンバー以外のプレイヤーから受ける……」
無抵抗のまま倒されても彼らの名前は判明しない。こちらがダメージを与える必要がある。開いたままにしておいた装備ウインドウを操作する。
「見逃してもらえないというのなら、仕方ありません。あなたたちの名前を知るために――抵抗させてもらいます」
私はスタッフを構えた。
「だ、だ、だ、だっ、だけど!! お前みたいな、雑魚初心者にやられるわけねーよ!! HR武器だろ!? 俺はU武器だぞー!!」
おっ、Tシャツはやる気になったようだ。
Tシャツの顔をじっと見つめる。アバターだからリアルとまではいかないが、晒されるかもしれないという恐怖で顔がこわばっている。どうやら、やる気にはなれても、殺る気にまではなれないようだ。このあたりが小学生の限界だろう。
「HRスタッフでも、1ダメージくらいなら与えることはできませんかねー。たとえば……」
そう言いながら、外付けの魔石を填める。
「お、お、おい、ポイズン撃ってくるんじゃね? なあ? ペネトレイションとか、DEF無視スキルもあるし……」
鎧の言葉に、Tシャツは言葉を失った。
「殺し合うんですよねー? もちろん私は殺されます。でも、諦めませんよ。石何百個使ってでも、名前を調べあげます。ただでは殺られません。HR武器を得るために――」
とびきりの笑顔で言ってやった。
「さあ、どうぞ、殺しに来てください」
「「た、たしゅけて~~!!」」
子供たちは、恐ろしい怪物にでも出会ったかのような勢いで逃げ出した。
彼らは猛スピードで逆方向へと駆け出した。
「助けてって、何なんですかね? 私は初心者だというのに」
彼らの言動に、私は少し肩をすくめた。
私が彼らに語ったPK対策は、『エメラルド鯖PK反対運動』のHPに載っていた内容だ。
だが、それは知識であって知恵ではない。PKの被害に対抗することはできても、被害をゼロに抑えることはできない。そこで私は、虚実を混ぜた話をすることで撃退した。
「まったく、こんな嘘さえ見抜けないとは……」
石を拾って、インベントリに収納する。
この石は嘘。インベントリには、これ以上石は入っていない。重量ぎりぎりなのは、デュエリングシールドを持っていたからだ。
デュエリングシールドを持っているのは、本物のPKerと出会った時に戦うため。どうしても勝てない場合は、石も本当の意味で役に立つだろう。アイテムロストから守ってくれるはず。
外付けの魔石も填めていない。填める振りをしただけだ。
これで被害はゼロ。あんな奴らを撃退するのに1マネだってもったいない。
そもそも、私のインベントリには、フレンド武器「移動用ジャンビーヤ」が収納されている。あいつらから逃げるのは簡単だった。
私は彼らをPKerとは認めない。
本物のPKerには、「殺す覚悟」と「殺される覚悟」があるはずだ。
本物のPKerなら、「殺されたくなければアイテムを出せ」なんて言わないし、初心者が少なくなっただけでPKerを辞めることはない。名前を晒すと言われただけで逃げ帰るような真似など、絶対にしない。
あの子供たちのような「にわか」は、PK「初心者」ですらない。だから、ほんのちょっとだけ、怖がらせてやろうと思っただけだ。
リンからRINEが届いた。
「到着」のスタンプと「早くあなたに逢いたい」のスタンプ。
「さあ、行きますか」
雑魚と遊んでいる暇はない。今年中にECのボスを倒さなければいけないのだから。
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