2-03 じゃじゃ馬
前回は感想をいただきました。
私たちには考えもつかない捉え方、アイデアなどを知るのは楽しいです。
これからも応援よろしくお願いします。
耳を澄ますと、ブヒブヒという鳴き声が聞こえる。やがて、前方の曲がり角からオークの集団がやって来るのが見えた。1、2、3、4……。だめだ、暗くてはっきりしない。
幸い向こうはまだ気づいていない。
「まだ、気づいてないな。私が奇襲かけてこよか?」
基本的に、指揮は私が担当することになった。私は防御を中心にPT全体の動きを統括する。リンは攻撃に専念する。
私たちは低レベルでHPが低い。それゆえ持久戦は選択しない。盾の硬さに対応される前に、リンの火力で一気に殲滅するという作戦を採っている。
私は周囲を見渡した。通路の幅は、ショッピングモールほどある。戦闘を行う分には問題ない。
「ううん、正面突破で行きます」
そうこう話しているうちに、やつらも気づいたようだ。目だし帽をかぶったオークが2体、剣を持った鈍色のオークが2体。それに真っ黒いフルプレートを着込んだMobが1体。
もう少し情報が欲しい。オークの一団を凝視する。
目だし帽の名前は、オークアーソニスト。SSランク85レベル。
アーソニストといわれてもよく分からない。ロッドを持っている。魔法を使うのだろう。
剣を持ったオークは、オークバニッシャー。Uランク93レベル。
消し去る物か。火力の高いMobは盾の性能を試すのに絶好の相手だ。
のっそりと近づいてくる黒鎧は、オークウンターリッター。Uランク93レベル。
見た目の通り、硬いMobかもしれない。
お互いに、じわりじわりと距離を詰める。
もう少しで魔法の届く10メートル。外付けの魔石は填め終えている。そろそろ仕掛けようとしたその時、
ブヒ!ブヒ!
先に動いたのは何と一番遠いところにいるウンターリッターだった。短い鳴き声を挙げたと同時に視界に怒りマークのアイコンが現れた。このアイコンは当然知っている。
「――挑発された!」
「何や、こいつ!? タンクか!?」
どうやらリンも知らないMobのようだ。
狼狽する私たちを横眼に、アーソニストは呪文の詠唱を開始。
まずい……先制された。
攻撃対象が私ならまだいい。盾を持って耐えるだけだ。しかし、リンが持つステッキには防御系魔石が何一つ組み込まれていない。魔法で狙われたら終わりだ。
しかし、挑発してきたウンターリッターを倒さない限り、アーソニストに攻撃することはできない。
このピンチ、どう凌ぐ。
「リン、後ろに!」
リンは私の指示に従い、後ろに背を向けて魔法の射程10メートルより遠くまで後退した。アーソニストの手前に出現していた魔法陣は、まだ展開されたままだ。
狙われているのは、私。
その事実が分かって少しだけ安堵する。
「リン、黒豚の相手お願いできる?」
後ろは振り返らない。私は4体のMobを相手にしなければならないから。
「硬そうやなぁ、でも、了解!」
ウンターリッターは足が遅いから、なんとか逃げ回りながら倒せるだろうと判断した。
ピギィィ! ピギィィ!
アーソニストのロッドの先端から、肩幅ほどある火球が放たれる。この魔法は見たことがない。
さらに、自己バフをかけていないバニッシャーが私の右斜めに陣取った。この距離なら剣が届く。
ブヒィ!
バニッシャーが腰を捻り、そのまま横薙ぎの一撃を繰り出した。前方からはアーソニストたちが放った燃え盛る火球が迫る。正面から来る魔法を受けるか、横からくるバニッシャーの剣を受けるか。
――チャンスかも。
私は息を吐き、狙いを定める。
抹殺者の一撃は、初心者を殺すには十分すぎるほどの威力に違いない。被弾は死に直結する恐れがある。これをもらうわけにはいかない。私は左斜めに後退した。
もちろん、逃げるためではない。まして、オークの一撃に怯んだわけではない。
自分のポジションを確認する。
「――完璧」
移動したことで火球に対して正面を向いていたまま、剣を盾の右端で受けることができるようになった。
「アームズブロック」
アームズブロックは威力の高いブロックスキルである。
オークの全力を込めた一撃は、私の何の力も籠められていないスキルに弾き飛ばされた。
よろめくオーク。私もWDLで動けない。
ドゴォン!
私の近くに二つの火球が着弾し、爆炎が私たちを包んだ。
爆炎が収まった時には、バニッシャーは消滅していた。
アームズブロックでバニッシャーにディレイを与えて、アーソニストの魔法に巻き込ませる作戦だった。まさか倒せるとは思わなかったが。
当然、私は無傷。せいぜい足に熱風が当てられただけだ。それはなぜか?
ガキィン!
2体目のバニッシャーの突きスキル攻撃をブロックした。
「いやー、デュエリングシールド硬過ぎでしょー」
Mobの攻撃がまるで通らないし、DRA(耐久値)もほとんど減らない。どんな攻撃でもブロックできそうだ。
けれど、デュエリングシールドには弱点もある。
アーソニストたちが近づいてくる。今度は直接武器で殴るつもりのようだ。デュエリングシールドは複数の敵を相手にするのは向いていない。
一方、バニッシャーは私から離れようとしている。スキル攻撃が通らなかったことによって、ヘイトが大きく減少したようだ。
だが、お前は逃がさない。
「そろそろまとめちゃいますかー、スレットオーラ」
私の体から暗い紫色のオーラが放たれる。Mobたちは一瞬動きを止めたが、私に向かって攻撃を始める。スレットオーラは周囲のMobのヘイトを上昇させるスキル。その効果てきめんだ。
バニッシャーの攻撃はブロック。その硬直時間にアーソニストたちには殴られた。盾は硬直時間が長く、取り回しも難しい。複数の敵には弱い。こればかりは仕方ない。
そして、JAOでは、どれだけDEFが高くても最低ダメージが入る仕様になっている。低レベルなので元々のHPが低い。結果、HPの半分ほどが削れてしまった。
そろそろ限界かなと思って、ふとアーソニストの方を見た。
「あー……」
呆然と立ち尽くすアーソニストたち。彼らはもはや戦意を失っていた。なぜなら、手にしていたはずのロッドを失っていたからだ。
あ、そういえばリンが言ってたっけ。
「あまりにDEFが高い相手を攻撃すると、DRAが大きく減少する」と。
魔法1発と攻撃1発。たったそれだけのことで、ロッドのDRAは0になった。
つまり、私よりも先にアーソニストが限界を迎えてしまったということだ。
「ははっ、意味分かりません」
可笑し過ぎる。笑いが込み上げてきた。
私は確信した。デュエリングシールドはゴミじゃない――じゃじゃ馬だと。
デメリットも大きすぎるが、メリットも大きすぎる。
「いいねー。ますますこのじゃじゃ馬を手なずけたくなりました」
「ラフィネ、豚料理一品できたで!」
事実上の勝利宣言。
「遅すぎですよー、死ぬほど待ちくたびれましたー。では、バニ……」
その瞬間、私は一切の自由を失った。
私の視界に突然現れた、見覚えのあるウインドウ。
FPが上限値に達しました。ヴァリュアブルストーンを1個消費しますか?
このタイミングで、かぁ~~~!!!
Yesを選択したそのとき、見慣れてきた豚と目が合った。勝ち誇ったような笑顔に見えるのは気のせいだろうか。
バニッシャーの剣が私の左肩を斬りつけた。
一気にHPバーが減少する。当たり前だ。
HPが0になりました。10秒以内に蘇生すれば装備武器・アイテムのドロップ、マネのロストはありません。ヴァリュアブルストーンを1個消費しますか?
のウインドウが現れた。
あーもー、最悪。
「もちろん、Yes!」
何事も無かったように蘇生できた。
横にいたバニッシャーはすでにいなかった。あとは無抵抗の雑魚だけだ。
「……リン。私、strをボーナス6まで上げます」
やれやれ。この最硬のじゃじゃ馬を乗りこなすのは、そう簡単ではなさそうだ。
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