1-14 カタール
本来なら夕食もとっくに過ぎているような時間だが、私は本日3つ目のサンドウィッチを食べている。ゲームの中だからリアルの時間は関係ない。しばしの休息。さしずめアフタヌーンティータイムといったところか。
リンはプラチーヌサンドで食べず、サンドウィッチをくわえてどこかへ行ってしまった。
プラチーヌサンドの看板メニュー「特製クリームバナナサンド」には、FPを大きく回復させる効果があるらしい。
しかし、そんなことは私にとって重要ではない。バナナのまったりとした甘味が口いっぱいに広がる。コーヒーとの相性もいい。だが、何だろう……少し物足りない気がする。バナナの甘味が強すぎる? ……いや、そうじゃない。
「サンドさん。この特製サンド、ホイップクリーム使ってるんですか―?」
「……ああ、やっぱり分かります?」
はにかんだ笑顔が、少し困っているようにもみえる。
「ええ。サンドウィッチのクリームにしては軽すぎるというか……」
「僕もね、フルーツサンドにホイップクリームを使わないのは当たり前だと思うんです。でも、これはゲーム。そしてこのメニューは僕のお店を支える看板メニュー。美味しさを妥協してでも、ホイップを使わざるを得なかったんです」
「妥協……ですか。苦労されているんですね」
ゲームの中とはいえ、サンドさんは経営者、一国一城の主だ。人には言えない苦労もあるんだろうなー。
「そんなラフィネさんには、普通の『バナナ&生クリームサンド』をお勧めしますよ。もう一ついかがですか?」
「いやいや、商売上手ですねー。じゃあ、頂きましょうかー」
追加メニューを注文しようと、席を立とうとした時、
「おーい、ただいまっていってるやろー」
いつの間にかリンが戻って来ていたようだ。
「おかえりなさい。イートインもせず、どこ行ってたんですかー?」
「ん、タンク用の武器を調達に行っててん。盾はまだ装備でけへんやろ、その代わりや」
渡されたのは1本のカタールだった。
「私、カタール持っていますよー?」
ガチャを回した時、デュエリングシールドと一緒に手に入れた。新しく青パッチで実装された武器だが、ランクが低いから店売りしろと言われた。
「ガチャから出たSカタールやろ? あんなん強すぎて練習になれへん。これくらいでちょうどいいわ」
HRカタールのレシピは以下の通り。
種類:カタール
ランク:HR(ランカー武器 製造者:通ならわかるこの逸品)
内蔵魔石:防御の魔石R×6
プロボックの魔石HN×1
アーマーボディの魔石HN×1
ファイティングオーラの魔石N×1
ハイスピードボルテージの魔石N×1
「なるほどー、タンク用のレシピですねー」
防御の魔石が半分も占めている。さながら、仮想デュエリングシールドといったところか。
自己バフのスキルや挑発スキルもある。ナイトフォースやスレットオーラのようなヘイトを稼ぐスキルはない。自己バフと殴りでヘイトを稼ぐ練習というわけだ。
「そうや、ボスを除けば次のダンジョンでは十分固いで。ATKいくらくらいになる? ちょっと装備してみて」
現在のステータスはこうなっている。
名前:Raffine
レベル:17
FP:110
HP:1440(vit:11)
str:32
dex:1
agi:1
int:1
res:1
装備;HRカタール(ランカー武器 製造者:通ならわかるこの逸品)
ATK:701(str:32)
HIT:10(dex:1)
DOG:10(agi:1)
DEF:310(res:1)
内蔵魔石:防御の魔石R×6
プロボックの魔石HN×1
アーマーボディの魔石HN×1
ファイティングオーラの魔石N×1
ハイスピードボルテージの魔石N×1
装備;HRスタッフ(ランカー武器 製造者:通ならわかるこの逸品)
MATK:175(int:11)
HIT:10(dex:1)
DOG:10(agi:1)
DEF:210(res:1)
内蔵魔石:防御の魔石R×4
威力の魔石R×3
マジックアタックの魔石HN×1
フォトンアローの魔石HN×1
サイコバレットの魔石HN×1
ヒールの魔石HN×1
マジックバリアの魔石HN×1
残りステータスポイント:2
デュエリングシールドを装備するにはもっとstrを上げなければいけない。冒険を始めてからひたすらstrを上げ続けていた。そのせいでカタールのATKがずいぶん高くなっている。
「ちなみに、カタールの売りは『驚異のファンブル率』や」
リンは腰に手を当て、ドヤ顔で言った。
「でも……カタールのファンブル率って『5%』だって聞きますよ?」
カウンターの向こうからサンドさんが口を挟んだ。
「5%ってデカいやん、今まで槍とかでファンブルってめったにせえへんかったし」
「槍師としては、5%もファンブルしたらやってられませんよ、でも……」
「ファンブル?」
初心者の私を置いてけぼりにして話を進められても困る。
サンドさんは、ごめんなさいと謝り、調理を再開した。
「ファンブルというのは、武器が突き刺さることや。突き刺さると、相手に引き抜かれるまでにダメージを与え続けることができる」
「おー、便利ですけど、それってアタッカー用では?」
「ううん、ファンブル中はダメージの大小にかかわらず、ヘイトを大きく稼げるからタンクにとってチャンスなんよ。カタールは短剣だから重量や容量を食わへん。ラフィネのサブ武器としてはありやと思う」
「どういうことです?」
「あと、ファンブル中は、刺してる側も刺されている側もお互いに動かれへんようになる」
「それってメリットにもデメリットにもなりますよねー?」
お互いに動けない間は、動ける相手に対して無防備となる。盾同様、雑魚戦よりボス戦に活躍しそうな気がする。
「そうやな。でも、ファンブルは武器盗られる場合もあるから、デメリットが大きいんやけど」
「えっ!? それって最悪なんじゃ」
このゲームでは武器がなければ戦えない。武器がMobに盗られでもしたら、今度はその武器でMobに狩られることになる。そんな恐ろしいことになったらおしまいだろう。
「けど、カタールはファンブルしても、『絶対に相手に奪われない』んや。しかも、運営の煽り文句が『驚異のファンブル率』や。JAOでは頻繁には起こらへんファンブルが、デメリットは小さく高確率で起こるって話なんよ」
「デメリットが小さいねぇー……」
言いたいことはわかった。盾は硬直が長いがのけぞらせる力も大きい。ファンブルをそれに見立てるわけだ。小さいデメリットには思えないが、
「ま、そこはラフィネの腕次第やな」
相棒が小悪魔な笑みを浮かべている。このカタールは仮想デュエリングシールドなのだ。
「上等じゃない、やってやりますよ」
「参考までにリンのステータスを見せてもらえませんか―?」
「え、私の……見たいの? やだ……こんな人前で、恥ずかしい。でもラフィネになら、いいよ。私の大事なところを……」
「えー。変態さんはお店に迷惑ですから、退店してもらえませんかねー」
リンの小芝居は置いておいて、ステータスはシンプルだった。
名前:*Linda*
レベル:17
FP:100
HP:1090(vit:1)
str:1
dex:1
agi:1
int:36
res:1
装備;HRスタッフ(ランカー武器 製造者:通ならわかるこの逸品)
ATK:396(str:1)
MATK:719(int:36)
HIT:10(dex:1)
DOG:10(agi:1)
DEF:10(res:1)
内蔵魔石:威力の魔石R×8
マジックアタックの魔石HN×1
サイコバレットの魔石HN×1
エナジードレインの魔石N×1
ヒールの魔石HN×1
残りステータスポイント:2
経験者であるリンのレベルが低いのは、私と遊ぶために用意した2キャラ目だからだ。
「星夜のカタールのPVも見たいところやけど、もうそろそろ時間ないな。行こうか」
リンダが立ち上がる。時間は9時13分、終わりの時間は近い。
「ええ、行きましょう」
カップの中に残っていたコーヒーを一気に飲み干し、私も席を立った。
次回は8月25日の12時頃に更新の予定です。
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