1-01 プロローグ
本作は、チートスキル【移動工房】で異世界を攻略する~天才ゲーマー、武器職人になる~と同じゲームをもとにした小説です。
本作はVRMMO小説。移動工房の方はゲーム世界転生小説になります。
移動工房ともども応援よろしくお願いします。
「はあー……」
私は独り自室で溜息をつく。
「疲れたなあ……」
最近、煮詰まっている。
私、高貴友美は、外資系ブラック企業の営業2課の課長に抜擢されたばかりだ。
中間管理職は大変だ。一年のほとんどが仕事。部下のフォローで東奔西走。最近は趣味のパン屋めぐりも行ってない。
「私も昔はこんな感じじゃなかったんだけどねー……」
結構青春していたし、信頼できる親友もいた。
あの子といると、営業スマイルじゃなくて、本当に笑顔になれた。
鈴木凛。私の一番の親友。
中学卒業と同時に大阪に転校してしまったが、それでも連絡を取り合い、お互い就職するまでは二人で大阪・千葉にあるテーマパークに遊びに行ったり、行ったことのない土地を訪れたりしていた。
「リン、どうしてるかな……」
私は、スマホを手に取った。
プルルルル……、プルルルル…………
5年ぶりにかける電話。緊張で人差し指が震える。
「もしもし、カッキ!?」
――つながった。
「もしもし!? カッキ!? 久しぶりやん! どうしたん!?」
看護師の彼女も忙しい日々を送っているはずだ。当然だが、夜勤もある。今、かけても電話に出ないかもしれないとはわかっていた。
それでも、今、声が聞きたかった。私に本当の笑顔をくれる、この声を。
「どうしたん? 何かあったん?」
「特に用があったわけではないです。ただ、ちょっと話を聞いて欲しくて……」
「なるほどな。つまり、カッキはブラック企業の中間管理職になって、もう限界なんやな。そんなん、辞めたらええやん」
一通り、私の近況を聞いたリンがそう結論付けた。
「んー、辞めたくはないんですよねー。やりがいもあるし。ただ、ここのところ煮詰まっているから、ちょっとガス抜きしたかっただけでー」
仕事は辞めたくない。これは本心だ。
ただ、仕事以外の何かも欲しかっただけなのだ。
「最近、リンはどうなんですかー? 相変わらず看護師大変なんですよねー」
「まあなー。でも、前の病院は辞めたよ。別の病院に移ってん。めっちゃ充実してるで。新しい趣味もはじめたし」
「病院変わったんだー。ねぇ、新しい趣味って?」
「日本人なら知らん人はおらんと思うで。『日本人の日本人による日本人のための』……さて、なんでしょう!?」
何か、聞き覚えのあるフレーズ。何だろう。
「降参です。もう私、中国人でもアメリカ人でもいいから、答え教えてください」
「もう、しょうがないなー」
懐かしい。
昔から、リンはこうやって私や周りのみんなを楽しませてくれていた。きっと、スマホの向こう側ではドヤ顔をしているのだろう。
思わず笑みがこぼれる。
「日本人の日本人による日本人のためのVRMMO。Jewel&Arms Onlineや!」
「あー。聞いたことありますねー」
その名前には、聞き覚えがあった。
テレビCMでも見たことがあるし(私自身はテレビを見ないのだが)、スマホやPCにも出てくる。電車の中吊り広告にも出ていたような。
そういえば新聞でも読んだ。今、日本には空前のVRMMOブームが到来している。サービス開始1か月で、フルダイブ型のゲーム機が400万台売れたらしい。日本人のその火付け役が「JAO」というゲームだ。
「なあ、カッキ。一緒にやれへん、JAO? ストレス解消になるで、絶対。それに、オンゲーやったら、夜が遅くなっても遊べるし」
「ふむ。ゲームですかー」
中学のときはリンとはよくゲームをして遊んだ。当時はフルダイブ式のVRゲームはまだなかったが、それでもゲームはよくやった。そこそこ上手だという自負はある。
「私はカッキと一緒に遊びたい。二人で色んな所行きたい。見たことのない場所で遊びたいねん。中学のときみたいに、二人で」
「仕方ないですねー、悩み相談聞いてくれたお礼に、ちょっとだけ、ゲームの世界覗いてみますかー」
「――やったあ!! やった、やった!! カッキと、カッキと遊べるで! 絶対面白くなる!! ありがと、ありがとう!」
スマホの向こうから、歓喜の声が聞こえてくる。
「ふふ、まったく。これでは、どっちが悩み相談していたのか、わからないじゃないですかー」
ありがとうは、こちらの台詞だというのに。
リンと3日後の夕方にJAOを始める約束をした。
平日にゲームを開始しても、中途半端に終わってしまっては勿体ないと思ったからだ。
「なんとか休日を確保できたかー」
私の休日が潰れることは日常茶飯事なのだけど、今日だけは潰されるわけにはいかなかった。危なげな部下の仕事は全部先手を打っておき、クレームの芽を潰しておいた。万一急な仕事が入ったとしても、そのときは無視するつもりだ。
午前中は部屋の掃除。昼はVR機器を買いに出かけた。
クリスマス・イブということもあり、街は慌ただしい。私には関係ないことだ。
それでも少し時間が余った。JAOについてネットで下調べしようと思ったが、辞めておくことにした。お楽しみはとっておけばいい。
リンは昨日も今日も夜勤。朝から夕方まで寝るそうだ。
「合流する前にキャラメイクを済ませて、冒険支援センターに行っておくように」とリンに言われた。
現在、夕方4時。
「そろそろ始めるよ」とRINEを送ったが、リンからの返信はない。
「それじゃあ、先にログインしちゃうかー」
VR機の電源をON。ピピッという音がした。
一瞬、意識が飛ぶ。
気がつくと、真っ暗な世界にいた。
『ユーザー登録を行います。あなたの名前を教えてください。』
の文字だけが光って見える。
『高貴友美』
そう思い浮かべただけで、
『高貴友美様ですね。登録致しました。』
文字が変わった。
『どのゲームにログインされますか?』
生年月日やらメールアドレスなどの登録を一通り済ませた後、いよいよ、本題に入った。
『Jewel&Arms Online』
『接続中 しばらくお待ちください』
これから始まる冒険の予感に、私は自然とテンションが上がるのを感じていた。
『接続 完了』
突然、真っ暗だった世界に光が満ちる。
「ここはー……?」
神殿の中だろうか、エンタシスの柱が周りに並んでいる。
神殿の奥には女神っぽいキャラクターが立っていた。
「ようこそ、Jewel&Arms Onlineの世界へ」
「んー、あなた、ずいぶんアニメっぽい女神様なんですねー」
「高貴友美さんですね。まずは、あなたの使用するキャラクターを設定します」
女神は、私の言葉を華麗にスルー。まあ、当たり前か。
「人差し指を下に向けて、虚空をタップしてください」
言われたとおりに、タップする。
すると、キーボードが現れた。なるほど、これで名前を入力するのか。
「名前を決めるのに、検索エンジンを使用されますか?」
えっ、ゲームの中でネットに繋げるの!?
「え、ええー……、お願いします」
「では、人差し指を前に向けて、虚空をタップしてください」
何もないところをタップすると、今度はスマホの画面を大きくしたようなウインドウが現れた。
装備・アイテム・ログアウトといったRPG風のウインドウに紛れて、インターネットウインドウを開く。その中には、お馴染みの『Gugure kuroumu』のアイコンがあった。さらに、RINEやメールのアプリも入っているようだ。
ほどなくして、私は自分の分身の名前を決めた。
「『Raffine』っと、入力完了です」
「Raffine、様ですね。これで、よろしいですか?」
「はい」
「Raffine」とは、「洗練された」という意味のフランス語だ。
「続いて、キャラメイクを行います」
キャラメイクは、髪型や顔や身体、声(挙句の果ては性別まで!)を変えることができた。
「そのままにしよう」
下手に弄るとバランスがおかしくなってしまいそうだったからだ。それに私は私だ。
といっても、顔はアニメ風にディフォルメされている。これで十分でしょう。
その後、基本的な操作方法を教えてもらった。
「それでは、最後に大事なことを確認しておきます」
女神様が真剣な顔になる。
「このキャラクターは、高貴友美様の大事な分身です。あなたには、あなただけの物語があります。本物の異世界だと思い、良識をもって、かつ、楽しんで冒険してくださいね」
「はい」
「それでも、どうしても活動に不満がある場合は、新しいキャラクターを作ってください。新キャラの作成は、5000円で可能です」
って、課金の話かい!
そういえば、基本無料のこのゲーム。射幸心をあおる課金システムが社会問題になっていたっけ。
「それでは、あなたの冒険の無事を祈っています」
先ほどの課金の話などなかったかのように、女神様が微笑んだ。
そして、光に包まれた。
いよいよ始まる。
私の物語が。
次回は8月10日の12時頃に更新の予定です。
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チートスキル【移動工房】で異世界を攻略する~天才ゲーマー、武器職人になる~
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