~mental health+er~(シーン8~ラスト)
この作品は自主制作映画化を前提に戯曲形式で書かれています。
この物語はフィクションであり、登場する人物、会社は実在しません。
作中で起こるエピソードの中には過去に起こった出来事や過去に経験したり、人から聞いたりした内容からインスピレーションを受けてデフォルメして描いている場合がありますが、実在する人物を登場させることはありません。
荏原はback beat ZEROのエピソード以来彼女がいません。
彼女欲しくなってくる時期だと思います。
東京暮らしが長い荏原は女の子にモテるため教習所に通い始めます。
これは実際に私が東京暮らしが長かったので普通自動車免許を持っていなくて30過ぎてから教習所に通ったという本当のことも含んでいます。
この作中に登場する「チヒロ」ですが…生々しい話も出てくるかと思います。
このエピソードを書くにあたって、私がまだ22歳位の時に知り合った「ある先輩」からの一言が今でも心に残っていて書いてみようと思いました。
その一言については後書きで書いてみようと思います。
シーン8
レッスン場 昼間
玲奈、ユリ、アヤ、セイヤ、サチコ、拓真、その他沢山の生徒達がいる
その中にチヒロもいる
荏原「じゃあ、今日のレッスンはここまでにします!お疲れ様でした!」
生徒達「お疲れ様でしたー!」
チヒロはお疲れ様でしたと言い終わると同時に荏原の元に歩いていく
チヒロ「今日の演技はどうでしたか?」
荏原「うん、まだオレのレッスンは始めたばかりだけど悪くないと思うよ。」
チヒロ「先生のレッスン楽しいです。」
荏原「楽しみながらやるのが一番だからね…。」
グイグイくるチヒロ
少し困惑気味の荏原
その様子を見ているユリ、アヤ、サチコ、セイヤ、玲奈、拓真
拓真は相変わらずの仕草
ユリ「何あれ?」
玲奈「わかんない…馴れ馴れしくね?」
アヤ「先生もさ、何か気を使ってる感じ…。」
チヒロはその視線に気づいている
わざとらしく
チヒロ「先生のレッスン…もっと受けたい…個人レッスンとかはしてないんですか?」
荏原「してないよ。特定の生徒に対してそういうことは出来ない契約だから。」
チヒロ「残念…。」
チヒロは意味ありげにそしてユリや玲奈に聞こえるように
チヒロ「また先生にお話聞いてもらえるの楽しみにしてます!」
荏原は少し焦った感じ
荏原「いや、普通に相談には誰のでも乗るからさ…。」
チヒロ「先生…お疲れ様でした。」
チヒロはユリや玲奈、アヤ達の傍をわざと通りロッカーへ向かう
通り過ぎる時にはユリや玲奈達へ勝ち誇った視線を送るのも忘れない
ユリ「何あれ?」
玲奈「何かムカつく」
ため息をつきながら書類に目を通す荏原
シーン9
教習所 夜 時計は19:45
待合室 技能講習が始まるのを待っている
技能講習の教本を読む荏原
そこへスマートフォンの呼び出し音が鳴る
荏原はスマートフォンを取り出す
画面にはチヒロから一言
「先生…。」とだけ書いてある
すぐに画像が送られてくる
リストカットして手首から血が流れている画像
荏原はすぐメッセージを送る
既読はつかない
焦った荏原は教習所の外へ飛び出し電話をかける
いくらかけても電話は繋がらない
教習所の中からアナウンスが流れる
アナウンス「20時から技能講習を受講の方は待合室でご準備下さい」
荏原は中に戻っていく
シーン10
同日 教習所 技能講習後
教官と荏原は階段を上がってくる
別れ際
教官「ちゃんと集中して受講しないとダメですよ…。」
荏原「すみません。」
教官「あれじゃ判子押せないですよ。次回はちゃんと集中して受講なさって下さい。」
荏原「はい…気をつけます。」
教習所の外へ出る荏原
すぐスマートフォンを確認するが通知はない
既読もついていない
どうしていいのかわからない荏原
シーン11
荏原の自宅 寝室 深夜
時計は夜中の3時を過ぎている
寝返りを繰り返し眠れない荏原
スマートフォンを確認するが通知はない
荏原「大丈夫なんだろうか?」
スマートフォンを枕元に戻す
外から救急車のサイレンが聞こえる
荏原は起き上がる
~荏原の回想シーン挿入~
チヒロは机の上で手首を見つめている
手にカミソリを持っている
ゆっくりと手首にカミソリをあてて横に刃を走らせる
流れ出す血液
~回想シーンから戻る~
荏原は布団の上で頭を振る
荏原「まさかな…」
再び布団に横になる荏原
寝返りをうつ
シーン12
レッスン場 昼
荏原は昨晩一睡も出来ず疲れた表情
まだ誰もレッスン場には来ていない
荏原はいつものテーブルとイスに座っている
そこへチヒロがレッスン場へ入ってくる
荏原「お前、大丈夫だったの?」
チヒロ「何がですか?」
荏原「何がって…あの画像…。」
チヒロ「あれは前に撮った写メですよ…先生のおかげでこういうことしなくなりましたって、送信したんです。」
荏原「だって、あの後すぐ連絡したけど既読もつかないし電話には出ないし…」
チヒロ「寝落ちしちゃいました。」
あっけらかんとしたチヒロ
そこへユリ、アヤ、セイヤ、サチコがレッスン場に入ってくる
チヒロは横目でそれを見て
チヒロ「いくらオレが心配だからって着信5件も6件もは少し怖かったです。」
えっ!と驚いた表情のユリ達
荏原「いや、それは…」
チヒロ「先生、また教習所に送っていってあげますから車の中でお話しましょう。」
荏原「…。」
会話を聞いたユリは信じられないといった表情で荏原を見る
その視線をそらす荏原
玲奈がレッスン場に入ってくる
玲奈はユリに話しかける
玲奈「どうしたの?」
ユリ「何でもない…」
セイヤを見る玲奈
首を左右に振るセイヤ
シーン13
教習所 昼
待合室に座っている荏原
教官「今日は仮免試験ですがいつも通り緊張しないでリラックスして受けて下さいね。」
荏原「はい。」
スマートフォンが鳴る
画面を見る荏原
以前とは別のリストカットの画像
荏原はため息をつく
シーン14
荏原の自宅 リビング 夜
荏原はテレビを見ている
リラックスしている荏原
スマートフォンが鳴る
荏原「またか…」
画面を見るとメッセージが受信されている
メッセージを開くと
画面「また切りたくなってきちゃった…。」
荏原は慌てて電話をするが出ない
メッセージを送る
暫く経っても返事はない
荏原は落ち着かなくなる
スマートフォンを持ったまま室内をウロウロする
スマートフォンが鳴る
慌ててスマートフォンを開く荏原
画面は「迷惑メールおまかせ設定」
荏原「…………。」
スマートフォンをソファに投げる荏原
シーン15
プロダクションのビル 階段
女性のレッスン生二人が階段で降りてくる
レッスン生達とすれ違う荏原
荏原「おはよう。」
レッスン生A「おはようございます。」
とてもよそよそしいレッスン生達
レッスン生B「あの人生徒に手出すんでしょ?チヒロって子言ってたよ。」
肩を落としゆっくり階段を上がる荏原
下のほうでその姿を見つめる玲奈
シーン16
レッスン場 レッスン中
生徒Aと生徒Bがシーン稽古をしている
荏原は集中していない
生徒Aと生徒Bはシーンが終わってもいつもの終わりの合図(手拍子)がない為、戸惑って荏原を見る
生徒A「あのー、先生。」
荏原「どうした?」
生徒A「シーン終わりました。」
荏原「すまん、合図遅れたな。」
生徒B「きちんと見ててくれましたか?」
荏原「あぁ、もちろん見てたよ。ちゃんと出来てたよ。」
クスクス笑うチヒロ
笑うチヒロを睨みつける玲奈とセイヤ
荏原「じゃあ、今日はここまでにします…お疲れ様でした。」
生徒達は座ったまま
「お疲れ様でしたー。」
何も言わず出ていくユリ
玲奈「ユリ!」
唇を噛む玲奈
シーン17
レッスン場 ロッカー
ユリ、アヤが帰り支度をしている
奥の方にはチヒロがいる
そこへ玲奈が入ってくる
玲奈「ねぇユリ、最近どうしたの?」
ユリ「何でもない…。」
玲奈「何でもなくないじゃん。」
ユリ「本当に何でもないから…。」
出ていくユリ
玲奈「ねぇアヤ、ユリどうしちゃったの?」
アヤはチヒロの方を見る
玲奈もチヒロの方を振り返る
チヒロ「コソコソコソコソ、立ち聞きでもしたんじゃないのかしら?」
玲奈「またお前か…。」
チヒロは笑みを浮かべながら
チヒロ「先生がオレを心配して何度も連絡をよこすの…何回も着信履歴があって困っちゃうって…余程先生をオレに取られたのがショックだったのかな…」
勝ち誇った笑みでロッカーを出ていくチヒロ
玲奈「アヤ、どういうこと?あいつが言ったのは本当なの?」
シーン18
チヒロの車が置いてある駐車場
チヒロは車に向かって歩いてくる
その後ろを玲奈が走って追いかけてくる
玲奈「ちょっと待ちなよ」
チヒロ「なぁに?」
チヒロの車の後ろには白いセダンが駐車してある
車内には社長が乗っていて外の二人の様子をバックミラーで見ている
二人は社長に気づいていない
玲奈「お前一体なんのつもり?」
チヒロ「何の話?」
玲奈「先生がしつこく連絡してくるとか出鱈目言わないでくれない?」
チヒロは手首の傷をさすりながら
チヒロ「ホントのことだよ…先生…オレのこと凄く心配してくれるの…」
玲奈「お前、その傷痕先生に見せたんだろ?」
チヒロは笑いを堪えながら
チヒロ「見えちゃったかも…」
玲奈「お前…卑怯な奴だな…」
チヒロ「卑怯?どうして?」
玲奈「心配する気持ちにつけ込んで…。」
チヒロ「つけ込んだりしてないよ。向こうが勝手に心配してるだけ…他にもね…前にリスカした時の画像も送っちゃった笑」
玲奈は悔しそう
チヒロ「ホントはその後、もうこういうことはしてませんってメッセージ送るはずだったんだけど……寝落ちしちゃって笑」
大笑いするチヒロ
チヒロ「悔しい?」
チヒロは心から嬉しそう
チヒロ「大好きな先生取られちゃって悔しいの?」
玲奈「先生は心配してるだけじゃん。」
チヒロ「初めはみんなそうなの…」
チヒロ笑いを堪えながら
チヒロ「初めはね、みんな心配だ心配だって…でもね…あの人オレのこと抱くよ絶対。」
玲奈「先生はそんな人じゃない。」
チヒロ「そうかなぁ…前の仕事先の上司も、同僚の男の子も、親友の彼氏も、舞台の先生も、みんな初めはそう言ってたのに抱いたよ、オレのこと。」
チヒロは手首の傷痕をボリボリ掻く
玲奈「最低の女だな…」
チヒロ「だって心配させるとオレを大切にしてくれるの。一番に気にかけてくれるの……オレね…上司の奥さんも親友もみんな気に食わなかったの…上司は仕事も出来てとても爽やかで会社でも人気者だった…その奥さんはとても幸せそうだった…親友は昔から勉強も出来て家もお金持ちでとても綺麗で彼氏もかっこよくて…あいつら自分のこと特別だとでも思ってるのかな?オレと何も変わらないくせに。」
玲奈「何言ってるの?」
チヒロは手首の傷痕をボリボリ掻きながら
チヒロ「オレね、あんたの事もユリって女のことも気に食わなかったの…ずっと。」
玲奈「ずっと?」
チヒロ「ユリって女はいつも周りに家来みたいな奴ら侍らかしてるくせに、すました顔して先生、先生って猫なで声出しちゃって…ホントはあいつだって先生とヤリたいんじゃないの?」
玲奈「ユリはそんな人間じゃない!」
チヒロ「あんたもさ、あの変な男といつも一緒にいて弱い者の味方ですみたいな顔してさ…偽善者みたい。そのくせ先生先生って、あんたの方こそ男なら誰でもいいんじゃないの?」
玲奈「お前と一緒にするな!」
玲奈は涙を流す
チヒロ「悔しい?先生取られて…悔しくて泣いてるの?」
玲奈「ち、違う。」
玲奈は必死に涙を堪えようとする
チヒロは手首の傷痕をボリボリ掻きながら
チヒロ「先生今もきっとオレのこと考えてるよ…大丈夫かな?大丈夫かな?って…リスカしないだろうな?って…ずっとオレのことだけ考えてもらえるようにするの…免許なんて絶対取らせない…オレが送り迎えしてあげる…きっと先生も喜ぶよ…」
玲奈「狂ってる…」
チヒロ「負け惜しみ?オレが今先生の胸に飛び込んだら…どうなると思う?きっとね…オレのことを抱くよあの人…今までの男もそうだったもの…特別に先生には何もつけずに抱かせてあげるの…子供が出来たらあんた達にも抱っこさせてあげるね…悔しいでしょ?あんた達が信頼して憧れてる先生がさ…オレなんかに取られちゃって悔しいでしょ?あんた達よりオレが良いんだって…オレが抱きたいんだって…自分のこと特別だと思ってるからだよ、オレと何も変わらないくせに。」
玲奈「………。」
チヒロ「あぁーすごく良い気持ち…自分を特別だと思ってる奴から大事な人を振り向かせた時って一番満たされる……けどさ…今晩も切るよ、オレ。」
チヒロはニヤリと笑い、左手の手首を右手の人差し指で切るポーズ
玲奈はカッとしてチヒロを殴ろうとする
後ろからその手をセイヤが掴む
玲奈「セイヤ!」
セイヤはとても冷静
セイヤ「そんな頭のおかしい奴殴る必要ないよ。」
チヒロ「ユリの家来が来ちゃった。」
セイヤ「好きなように言いなよ。相手にしちゃダメだよ玲奈。」
玲奈「でも、こいつ先生に…。」
セイヤ「こんな女に先生が騙されるわけない。」
チヒロはセイヤに対して挑発的に
チヒロ「そうかなー?」
セイヤ「お前とは話してない。いくよ玲奈、ユリもアヤもサチコも拓真も向こうで待ってる。」
玲奈「ユリも?」
セイヤ「うん、だから行こう。」
チヒロ「負け犬同士で作戦会議?」
セイヤはチヒロに近づいて
とても冷静な口調で
セイヤ「お前とは話してない…オレ達に関わるな。」
立ち去るセイヤと玲奈
チヒロはボリボリと手首を掻きながら立ち去るのを見ている
シーン19
仙台市街地 勾当台公園 夜 ベンチ
22時位 行き交う人は少なく 人通りは疎ら
ベンチに一人座る荏原
ため息をついている
そこへ歩み寄る玲奈
玲奈「先生。」
荏原はそちらを見ずに
荏原「玲奈か…。」
玲奈「もう見ないでも声だけで誰かわかるんだね。」
荏原「そりゃオレの生徒だからね。」
笑みを浮かべる荏原と玲奈
玲奈「先生…あのね。」
荏原「どうした?」
玲奈「先生はお医者さんじゃないでしょ?」
荏原「……。」
玲奈「先生は演技の先生でしょ?」
荏原「……。」
玲奈「いくら先生でも無理なことってあると思う…。」
自嘲気味に笑う荏原
玲奈「ごめん…先生…。」
荏原「いや、いいんだ…。」
玲奈「前の先生に戻ってほしい…レッスンの時は鋭い目をしてて…私達の演技を一瞬たりとも見逃さないみたいな…。」
荏原「うん…。」
玲奈「…いつも自然と周りに人が集まるような…いつでも私達の話を聞いてくれて…私の…私達の大好きな、前の先生に戻ってほしい。」
荏原「………わかった。」
玲奈「…先生…?」
荏原は初めて玲奈の方を見てニコリと笑い
荏原「……わかったよ、玲奈」
玲奈は嬉しくて泣く
荏原「…心配かけて悪かった。」
玲奈は首を左右に振り
玲奈「わからず屋の先生なら殴ってやろうかと思った笑」
荏原「遅いから…早く帰りなさい。」
玲奈「うん…レッスン場で。」
玲奈は駅に向かおうと歩き始める
荏原は玲奈を呼び止める
荏原「おい玲奈!」
振り返る玲奈
荏原「みんなでドライブ行く前に、どの車だとモテるのか車選び付き合ってくれよ。」
玲奈「…いいよ!」
荏原「ユリ達にも言っといてくれよ!」
玲奈「わかった!…けど先に学科試験合格してきてよね!」
荏原「わかった!」
手をあげる荏原とそれに応える玲奈
立ち去る玲奈を見送りながら
荏原「どうやらオレはみんなに心配かけてるみたいだな…。」
後ろを振り返ると弟のヒロが立っている
シーン20
仙台市街地 勾当台公園 夜 ベンチ
終電は過ぎ 殆ど歩いてる人はいない
荏原「どうして?」
ヒロ「セイヤが心配してた。ああいう奴は相手にしちゃダメなんだ…一度でも相手にすると相手にしてもらえるもんだと思って何でもしてくるってブツクサ言ってたよ笑」
荏原「あいつにも心配かけたんだな…。」
ヒロ「おにぃらしいよ笑」
荏原「笑い事じゃないな…でも困っていたり助けを求めてる人を見るとどうしても…」
ヒロ「自分を犠牲にしても助けたくなる?」
荏原「そんなカッコイイもんじゃないよ…」
ヒロ「自分はどうなっても良いから、自分の気持ちを殺してでも助けたい?」
荏原「……。」
ヒロ「東京のリオさん…おにぃ…いや、兄ちゃん達は一緒になるって言ってたのに何で別れたの?」
荏原「…。」
ヒロ「兄ちゃんはなんの為に生きてるの?人の為なら自分はどうなってもいい…それで満足するの?」
荏原「何が言いたい?」
ヒロ「それで兄ちゃんは誰を幸せにできたの?頭のおかしいその生徒の女…そいつの為に動いて兄ちゃんはそいつを幸せに出来たの?兄ちゃんが動いた事で兄ちゃんを慕う生徒達を幸せに出来たの?」
荏原「…。」
ヒロ「リオさんは…何でいなくなったの?リオさんの為に夢を諦めて仕事に着くって決めてたのに、何故いなくなったの?」
荏原「それはあいつが無理矢理──」
ヒロ「違うよ。兄ちゃんがそうやって人の為、人の為と言って自分を殺すからだ。」
荏原「お前に何がわかる!」
ヒロ「わかるよ。リオさんは兄ちゃんの負担になりたくなかったんだ。きっと兄ちゃんはこういうよ…何も気にするな、オレの子として一緒に育てていくから心配するなよって。」
荏原「……。」
ヒロ「リオさんはどう思う?どう思えばいい?また私の為にたっちゃんの心を殺させてしまった…ずっと自分を殺しながら人の為、人の為と言って生きていく…それに耐えられなかったから…その姿を見てられなかったから…自由に生きて欲しかったから兄ちゃんの前から姿を消したんじゃないの?」
荏原「……。」
ヒロ「もう一度聞くよ…兄ちゃんはそのやり方で誰かを幸せにしたことがあるの?そのやり方で幸せにすることは出来るの?」
荏原「……。」
ヒロ「兄ちゃんはそれで幸せなの?」
ヒロの方を見る荏原
ヒロ「自分の為に何か出来ない人間が、人のために何か出来るの?自分を幸せに出来ない人間が、人を幸せに出来るの?」
荏原「……。」
ヒロ「オレは昔兄ちゃんを犠牲にしてぬくぬく育って今の地位がある、オレはそんな兄ちゃんが帰ってくるのをずっと家で待ってる。オレはそんな兄ちゃんの邪魔は絶対誰にもさせない…もっと自分を大切にしてほしい。自分を殺すんじゃなく、自分の幸せを考えてほしい。自分のやりたい事を貫いてほしい。」
荏原「………。」
ヒロ「ごめん、兄ちゃん。」
足早に立ち去るヒロ
シーン21
運転免許センター近くの道路 七北田
スマートフォンで話している荏原
荏原「悪いけど、生徒と講師としての立場で話を聞くことは出来るけど、君のプライベートに足を突っ込むことは出来ない。一人の人間として君の人生を一生支えていくことも出来ない。これからは生徒と講師として責任ある立場で話をさせてもらう。」
ここまでを一息に言う
荏原「君のアドレスも消去するし、個人的なプライベートな連絡も一切受け付ける事は出来ない…ではまた、レッスン場で。」
スマートフォンの電源を切り、運転免許センターへ入っていく荏原
シーン22
チヒロの自宅 自室
一方的に電話を切られたチヒロは激昴する
電話をかけるチヒロ
チヒロ「もしもし、そちらでレッスンを受けてるチヒロです…社長いますか?はい、荏原先生に酷いことをされて…。」
泣くフリをするチヒロ
シーン23
運転免許センター 夕方
免許センターから出てくる荏原
免許を手にしている
歩きながらガッツポーズする荏原
泉中央駅へと歩いていく
シーン24
プロダクション 社長室前
荏原は緊張した面持ちでドアをノックする
荏原「荏原です…失礼します。」
社長室へ入る荏原
閉まるドア
シーン25
レッスン場 入口付近
ホワイトボードがあり、張り紙がしてある
張り紙には
「演技講師変更のお知らせ」
back beat 3 ~mental health+er~ end
読んでくださった皆様方にはいつも感謝しております。
目を通して下さり、有難いことだと常々思っております。
前書きで書いた私が若い時に知り合った先輩からの一言ですが…私が俳優を目指しながら、お付き合いしていた彼女との関係で悩んでいた時に言われた一言です。
「最後までその子の為に生きてあげれるなら良いと思う。だけどお前は俳優目指してるんでしょ?俳優の夢を捨ててまでその子に付き合ってあげれるの?責任、責任っていうけど最後まで付き合ってあげれないのに同情心で手を差し伸べることの方が無責任じゃないの?」
一言じゃなかったですね…笑
作中で玲奈が荏原に対して「先生はお医者さんじゃないよね?」というような話をします。
言い方は違いますが、先輩が私に対して言ったことと同じ意味です。
前作からのテーマを引きづっていますが「その人の見えてる視点によって、その世界が決まってしまう」
チヒロの視点で見る世界では「そう世界が成り立っています」
このエピソードに際して、気分を悪くされる方もいらっしゃるかもしれません。
チヒロが発言したこと…私は実際に言われたことがあります。
チヒロの発言は全て本当のことだと思いますか?
私は時間が過ぎてから「あの話は出鱈目だったんだ」「あの人の話は殆どが嘘だったんだ」ということが実際に過去にありました。
この作品は演じる人がいる前提で書いております。
これを読んだ役者はチヒロに対して「どう役作り」するのか期待してる部分があります。
全て本当のこととして役作りするのか?
全ては出鱈目で役作りするのか?
本当と嘘を散りばめて役作りするのか?
嘘だとしたら「何故そんな嘘をつくのか?」
本当のことだとしたら「何故そんなことをするのか?」
全て自分に当てはめたり、心理学の本を読んだりしながら役にアプローチしていきます。
自分と向き合わなければなりません。
自分の嫌な面と向き合うのは誰でもイヤです。
役者の役作りってそこまでしなきゃならないの?と疑問に思う方もおられるかもしれませんが、私はそこまでやれと私の尊敬する先生に教えられました。
演技してそれを人に見せることで収入を得て、そのお金でご飯を食べ、服を買い、家賃を払い、飲みにいく…私は当たり前にそこまでしないければならない職業だと思います。
有名なエピソードで「タクシードライバー」という作品においてロバート・デ・ニーロが役作りをするにあたり実際に舞台となる場所を何ヶ月間もタクシーの車で運転して、そこからの景色はどう見えているのか?
ロバート・デ・ニーロであることを隠して実際にドライバー達の溜まり場へ足を運び、会話し、彼らはどんな事を考えているのか?どう感じるのか?彼らから見た社会というのはどう見えているのか?を実際に感覚として捉えて役作りした…デ・ニーロアプローチと呼ばれているものです。
これはステラ・アドラーからの教えなのではないかと思います。
書いていると作中の玲奈やユリがこれも言わせろ、あれも言いたいと話してきます…私は危ない人ではないですよ(笑)
まだ大丈夫です(笑)
この作品では玲奈が活躍していますが、私自身が玲奈を気に入ったのかもしれないです。
玲奈、ユリを中心とした作品も描きたいですし、ヒロと荏原の兄弟間の過去の話も書いてみたいと思っていますが、まずはメインとなる話を描きたいと思います。
恐らく次で完結するのではないかと思っています。
重ねてになりますが、私の様な未熟な人間の台本(作品)を読んで頂いて本当ありがとうございます。
この作品が自主制作映画化されて、それが若い役者を目指す人のステップになれば、良い経験になればとの願いで書いています。
これを読んだ役者、又は制作サイドの方が面白いと思い、御協力やアドバイスを頂いたりする中で若者達の育成に繋がることを願って止みません。