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実験少年と鈍感お姉さん

Misskey「ノベルスキー」日替わりお題より「充電」「隕石」「弾丸」

 うちのお隣には、ちょっとヘンテコな少年が住んでいる。

「やあ、お姉さん」

「また充電中?」

「あたり」

 夕暮れの町に全然似合わない、光をギラギラ反射する板を周りに並べて、少年は難しい顔で電磁砲らしいをいじくり回していた。正直、電磁砲じゃなくて装飾過多なドラム缶だと言われたほうがしっくりくる。

 たしかこの板たちは太陽光発電パネルとか言ってなかったっけ。信用はしてないけど、忠告くらいはしてあげよう。

「そろそろ陽が沈むけど」

 少年はパッと空を見上げる。

「おっと! 太陽光モードから地熱モードへ切り替えねば」

「頑張れー」

 自分の家の鍵を開けようとした私に、少年が待った! と叫んだ。

「なに」

「そろそろお目見えできそうなんだ。この電磁砲は――」

「隕石をも砕くんでしょ」

「そのとおり!」

「はいはい、完成するまで気は抜かないようにねー」

「む、ご忠告いたみいる」

「何歳だよ」

 笑って今度こそ自分の家に入った私は、少年がどんな顔をして私を見送っていたか、知らなかったのだ。


 夜になるとうちは戦場になる。ろくでもないおやじが帰ってきて、あたしを殴るわ蹴るわ。

(あー……、しんど)

 少年に聞かせるのはしのびなくて、声はなるべく抑えている。おやじはぎゃんぎゃんうるさいけど。

 ふと、室内の光が揺らいだ気がして窓のほうを見る。揺れるカーテンの向こう。眩しい光。

「お姉さん!」

「少年!?」

 突然大きな声を上げた私に驚いたおやじの手が緩む。私は窓に駆け寄った。

 カーテンを開けるのももどかしく、窓を開け放つと、電磁砲を構えた少年がそこに仁王立ちしていた。

「お姉さんはそのままの位置で」

「少年?」


 なんなんだ、と苛立ったおやじが叫ぶ、


「充電、完了」


 窓へ、駆け寄ってきて、


「弾丸、装填」


 少年につかみかかろうと――


「BAN!!」


 眩い光の玉が発射され、おやじに当たる。吹っ飛ぶかと思わず目を覆ったけど、おやじはうめき声を上げて倒れただけのようだ。

「……少年」

「出力最低なのでしびれるくらいです」

 そこには、無邪気な研究馬鹿はいなかった。「彼」は電磁砲を抱え直す。

「おい、聞こえるかクソ男」

 ぐ、と半身を起き上がらせたおやじに、彼は電磁砲を無造作に向ける。

「この電磁砲の弾丸は隕石をも砕く。今回は手加減したけど今後もそうとは限らない」

一段、声のトーンが低くなった。

「この人をこれ以上傷つけるなら、俺は容赦しないから」

ごくり。つばを呑んだのは、おやじだけではない。おやじが無気力に倒れたのを見守ると、彼はまた少年の顔で私のほうを向いた。


「いかがでしょう、我が発明品は」

「……人を傷つける用途に使うのは、いただけない、かな」

「…………」

「でも、……ありがとう」


 ああ。開け放された窓の外、月が――綺麗だ。

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