花火にたくして
「ねぇ、祭り誰と行くの?」
地元の夏祭りが今日開かれる。
教室では、その話で持ち切りだ。
興味のないふりをしていた
僕は、イヤホンを片一方外し、
こっそり耳を傾ける。
「わたしね、彼氏と行くの」
頬を紅く染めながら、照れくさそうに
彼女は言った。
ああ。そうなのか。
彼女は僕の幼馴染。
小学校から仲が良く高校になってからも
毎朝、一緒に登校していた。
「わたし、彼氏が出来たの。
だから、ごめん。一緒には行けない。」
走り出した背中がやけに小さくて
遠く見えた。
いやだと言いたかったけど、言えなかった。
それから1ヶ月が経とうとしている。
僕は意図的に彼女を避けていた。
なぜだかは分からない。
「ねぇ。」
不意に彼女に話しかけられた。
「なに」
怪訝な顔で答える。
「夏祭り来ないの?」
前と変わらぬ様子で話しかけられた。
それだけで純粋に嬉しい。
「行かないよ。一緒に行く人いないし。」
嬉しい気持ちを押し殺して答えた。
「そっか。会えたらいいなって思ってたのに。」
無情にも次の授業の始まりを告げるチャイムがなる。
お神輿を担ぐ声が聞こえた気がした。
僕は扇風機を回し、ベットに寝そべった。
「お兄ちゃん」
弟が部屋に飛び込んできた。
「お祭り行こうよ。」
「なんで」
「わたあめ食べたい。」
「嫌だよ。」
「やーだー行きたい行きたい。」
重い腰を上げ、弟に連れられ
結局、花火大会に行くこととなった。
ずらりと並んだ屋台は
普段の寂れた商店街とは打って変わった賑わいであった。
わたあめを見つけた弟は、
嬉しそうに僕を引っ張っていった。
「ふわふわだ。」
顔よりも大きいわたあめを大きく口を開けて頬張る。
「あっお姉ちゃんだ。おーい!」
見るとそこには、浴衣姿の彼女だった。
彼女は、知らない誰かと歩いていた。
花火が上がる。
「わあ綺麗だね。」とでも言ったのだろうか。
彼女は知らない誰かを笑顔で見つめる。
あ。好きだ。
僕は、何も言えず
ただ彼女を見つめるだけだった。