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3・収穫機を完成させた

 そこから試行錯誤して脚は完成したのだが問題があった。


「これでは大きすぎる」


 そう、パンの実収穫に使うには大きすぎる。このまま胴や腕を付けたのでは全高8mなどという事になるだろうが、パンの実を収穫するにはその半分もあれば良い。


「なら、小さく作ろう」


 なんで鍛冶師の人等は嬉しそうなんだ?


「他にも作って欲しいものがある」


 そう言って果樹園用モノレールの概要を説明した。


「なるほど、ソイツは良いや。トロッコが引けない場所でもソイツなら上り下りできそうだ」


 車両やトロッコがすでにあるので製造自体は全く問題ない。あんな山地で食料生産がされている事が俺にはビックリだったが、モノレールがあれば輸送問題も解決可能だ。


 そんなわけで、パンの実収穫に適した機械の開発のために幾度か山地へ出向きながら考えた。


 パンの実は椰子の実のような繊維質の殻で出来ている。そのことでパンの糸が作られるわけだが、コレがこの世界の繊維として広く流通している素材な訳だ。木綿や麻、絹がないのに服が作れる理由もそう言う事なんだろう。


 収穫は木を揺らして落ちたモノを獲るのが一般的だが、果物の様に一つづつもぎ取る事もするらしく、本来ならばその方がより食べごろの実を収穫できるらしい。


「という事は台の上で人が作業した方が良いのか?」


「人が木を揺らすのは小粒の奴でして、一つづつ採るのは完熟した大粒です。大粒は粒とは言いますが、一抱えもある大きなものなので専門の木登りが行っています」


 それは職を失う事にならないか心配ではあったが、木登りが得意な若者が行い、結構事故も多いとの事なので、機械化出来るならそれに越したことは無いらしい。


 一般的に食べられている実は小粒と呼ばれる未成熟の物を収穫し、倉庫で完熟させる。大粒という完熟したモノは数が少なく高級な事もあってほぼ貴族向けなんだそうだ。


 新たな機械作業を導入するならば、より収益があり、危険性が高い方を優先するのも当然か。


「そうすると、実をもぎ取る手を持った機械が必要という事か。木を揺らすのは人でも出来ているし、腕を持つ機械なら容易だ」


 という事で方向性が纏まったが、これまでよりさらに器用な手を持った機械の制作が必要になりそうだ。


「そいつは腕がなる!」


 困るかと思ったが鍛冶師たちは喜んでいた。


 そうか、剣や槍を持たせたりバリスタを撃たせるならば器用さは当然の事だったか。


 そうした熱気の中でパンの木畑用のサイズで制作した脚部が完成し現地で試験を行ってみることになった。


 そうすると問題が浮き彫りになってきた。一番の問題はパンの木の間隔がそのような機械の通行を想定していない事だった。単に傾斜地を歩かせるなら出来るようになっても、木と木の間隔が狭いのではそもそも進入出来ない。

 そして、人間が歩く前提の傾斜地なので、幅のある機械では足の踏み場が無い斜面すらあった。


 こればかりはすぐにどうこう出来ない問題だ。機械化に合わせて木の間隔を拡げたり機械の進入が出来る道の整備もしていく必要があるだろう。


「コイツは万能な機械が必要だな。土を掘って、木を切り倒して、更には実をもぎ取る。やりがいがあるぜ!」


 詳細な検討が進むごとに難度が上がる要求仕様に鍛冶師たちは喜々としている。


 そうそう、すでに車やトロッコで経験のあるモノレール軌道車は気が付いた時には完成していた。


 そして、やはりと言うかオッサンたちは暴走しだした。


「こいつは良いな。鉱石運ぶには向かないが人なら運べる。ちょっと作るか」


 などと言いながら収穫機械の合間でモノレールを造り、パンの実畑に設置するに留まらず、なぜか鉱山間を結んでしまっていた。当然、トロッコにもラックピニオン式が出現したのは言うまでもない。そのうち改良されてアプト式になるのかな。


 そんな暴走もありながら、とうとう全体試作が完成した。


 最も問題だったのは操縦者の位置だった。トロッコ用作業機であればトロッコ後方に座席を設ければ良かったのだが、コイツは脚が付き腕も生えていることからその場所に困った。


 一番初めに出たのは、「人は目で見るんだから、乗るのは頭の部分だろ」という至極真っ当な意見だった。

 が、それには大きな問題があった。


 頭は付いていないが、肩車の様に乗るのは腕を振り回す場合に邪魔でもあるし操縦者に当たると危険だ。


 ならばと、背負われるような形で乗れば良いという意見も出た。


 が、これはこれで歩行中に前方視界が悪いので傾斜地で使うには向いていなかった。


 当然、前世のロボと言えば胴に乗るものだから俺はそう提案したのだが、それはそれで後方視界が無いという問題があった。


「そうは言っても、人間だって真後ろはほとんど見えないじゃないか」


 どうもこれは意外な盲点だったらしい。


「そういやそうだよな。機械を動かす時は後ろを見られる位置に座るからあんまり意識してなかったな」


 などと言い出すほどだ。


 ただし、人間は後ろが全く見えない訳ではない。


 そんなわけで、機械の顔に当たる部分にちょうど顔を出して周囲が見渡せる配置へと落ち着くことになった。


 枝避けや転倒時の乗員保護用にフレームこそついているが、屋根はない。そう言えばマンガで見た土木作業ロボにこんなのあったなとちょっと笑ってしまうシルエットになっている。


「大きな騎士が出来るのかと思ったけど、イメージと違う」


 リンがそんな事を言い、オッサンたちもどこか不満そうではあるが仕方が無いではないか。




  

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