閑話 ベイン用の弓は造れないのか?
あれから、俺は更なる改良の為にベインに乗って出来ることを試していた。
パンの実収穫機も傾斜した地形に適合できるようにさらに足首関節部の改良を行い、足裏の作り方も工夫を加えている。
人が歩くイメージで山を移動させる事を考え、より洗練された動きになる様に足首を中心に、足の指とかまで試行錯誤してみた。
「結局、腰や股関節まで弄る事になったな」
完成した新型収穫機を前にそんな感想を漏らした。
「おう、その甲斐があったじゃねぇか。木の植え替えや伐採にも使えるようになったぞ。ベインの腕や手を応用して器用に剪定も出来るしな。これで高所作業を完全に機械化出来るだろうぜ」
鍛冶師のオヤジもそう納得顔である。
収穫機の製造数が増えるにつれ、農家向けの教習は完全に山の人たちに任せることが出来るようになり、メンテナンスを鍛冶師たちが行うだけになっている。
その上、他領からも収穫機の引き合いが来ているので、そちらへの引き渡しや教習の話しも出ているが、そう言うのは領主である義父にお任せしている。騎士家が勝手にやって良い話ではないしね。
「それでおい、ペトロスコイから来てるアレ、どうするんだ?」
実は、ちょっと厄介な話が一つ存在している。
先のスタンピードの際に自走式バリスタが運用できない場所があったのだが、その対策に頭を悩ませている。
あの時は俺たち5機のベインが大活躍したのだが、それですべてが問題解決とはいかなかった。
地形の問題で自走式バリスタが入り込めないが、四足歩行のドラゴン、どう見てもトリケラトプスなソイツなどは沼地から易々とやって来る。
だが、そうした沼があるような場所は、今のバリスタでは進出が難しい。
特にそれが顕著なのが、名前の挙がったペトロスコイ周辺で、ガネオから分離した小さな湖や沼が点在し、バリスタの移動が難しい。
幸運な事に、今回は気候が良かったのでベインは難なくそいつらを倒す事が出来ていたので、ベインの量産と配備を要望されている。
だが、ベインばかりでもいけない。ベインは近接用なので、防ぎきれずに逃したドラゴンが後方へ進出してしまう。
じゃあ、そこでバリスタやクロスボウ隊を待機させればよいではないかという話になるが、問題はそう簡単にはいかない。
「ベインを数機ずつ、騎士家に配備していけば良いのはそうなんだけど、ベインは単独では動けないし、ベインばかりを配備すると、じゃあ、誰がバリスタ隊を率いるのかって問題が出てきてしまう」
そこが大きな問題だった。騎士家はどこでもベインは欲しいだろう。が、ベインを持つとその維持や指揮などに多くの費用と人手を持っていかれるので、そう簡単にはいかない。
しかも、これまでも騎士家がすべて最前線で槍を振るうだけだったかというと、それぞれの役割があり、弓を主とした家もあった。
では、ベインは近接用だから弓を主とする騎士家にはバリスタだけ与えれば良いのだろうか?
そうした、役割分担という話だけでは済まない部分がどうしても出てきてしまう。
これが単に領主の率いる軍であったならば、士官はただそれぞれの専門とする兵科の技術を磨いてその部隊を率いれば良い。戦車隊が榴弾砲を欲しがることは無いし、砲兵隊に戦車は必要ない。
しかし、騎士というのはそうではない。軍隊でいえば、諸兵科連合の独立部隊を率いているのが、騎士家である。
なので、同じ様に機動力が欲しい、火力が欲しいという話になる。その上、個々の独立性が高い騎士という連中は、何かにつけて上か下かという話をしがちだ。
そんな所へ向かって、「ああ、貴方の家は弓が主体なのでベインは手配しません。バリスタで頑張ってください」が通用するだろうか?
中央集権の国ならいざ知らず、王家、貴族家、騎士家とそれぞれに何らかの権力がある。ドラゴンの脅威を直接に受けるこの地域はまだ良いが、脅威度が低い地域だと、日本の昔にあったような国司や守護に突っかかる武士の様な騎士家だって存在する。ドラゴンの脅威があるから戦国時代に至っていないだけかもしれない。
そんな訳で、政治的な理由から、配備する数こそ差を付けるが、配備ゼロで良い訳ではないという話になっている。
が、現実の運用面から言って、皆で最前線に立てばそれで万事解決でもない。前線と後衛が必要になる。
かと言って、せっかくのベインを将官の名馬よろしく、後方で遊ばせる訳にはいかない。
「ベイン用クロスボウをバリスタで造れば良いかもしれない」
俺はそう提案してみたが
「それ、どうやって矢を再装填すんだ?魔導シリンダー式の連射式にしたって、あの矢箱を交換するにゃあ、一々下ろすんだろ?」
うん、問題はそこだ。
意外と簡単ではないし、自走式と同じ大きさを持たせるのはキツイ。大きさが。その為、クロスボウとか小銃のような存在ではなく、肩部分に器具を固定して発射する事になる。
ロボットと聞いて、やはり未来ロボや宇宙ロボのように飛び道具が欲しかった。で、槍や剣だけでなく、弓やクロスボウを持たせて、ベインで前線と後衛を担うという考えを実現しようとしたのだが、弓を射るのは難しかった。
一射だけなら出来るけど、番えるのが難しい。
で、クロスボウが、大型のバリスタを持たせようとしたら、固定が難しいので、肩に器具を着ける必要に迫られた。
そんな事を2人で話していると、リンがやって来た。
「そんな難しい顔して、何してんの?」
と、聞いて来たのでこれまでの話を聞かせる。
「あ~、それは・・・・・・」
できれば触れたくなかったんだろう。領主の娘だけに、そう言う所はよく分かっているはずだ。
それでもしばらく俺たちとアレだコレだと考えてくれていた。
が、俺が考える火薬の代わりに空気圧や蒸気圧、はては鉱石の熱や未知のナニカを利用した銃やレーザー、レールガン的なものやらロケットパンチなどの飛び道具系、鍛冶師が考えた投げ槍や砲丸投げ、スリングなど投擲系の提案に対して、呆れたり苦笑いする事が大半であった。
「う~ん、何かを飛ばすにはそういう今までにない方式や投げるのはありだと思うんだけど、その弓に代わる装置って、簡単に作れるの?魔導シリンダーで簡単に実現は出来ないんでしょ?投擲にしても、人が投げるよりも当てるのが難しいなんて、せっかくバリスタが当たるのに、ベインで邪魔するのは違うと思うよ」
と、困り顔である。やはり、深く男の子のロマンに嵌り込んだ俺たちとは考え方が違うらしい。
「そんなに難しく考えずに、弓とクロスボウの良いとこどりでも考えてみたら?」
結局、熱くロマンを語り合う俺たちに呆れてそう捨て台詞を吐いて来る。が、それでピンときた。同じことを鍛冶師もひらめいたらしい。
「「それだ!」」
ハモった。
それからしばらくの事。
「まさか、冗談で言った事を実現するなんて・・・・・・」
リンのベインには新開発のベイン用の弓が握られていた。リンが言ったように、基本は弓である。しかし、ベインが苦手とする矢の保持であるとか、二の矢を番える動作とかを連射式バリスタの機構を用いて機械的に可能にしている。
呆れ顔でベインに乗り込んだリンが弓を構え、弦を引くと連弩の要領で側方のマガジンから矢が押し出されてセットされる機構を備えている。あとはベインが弦を弾けば、大きな音と共に矢が飛んで行く。
「どうだ、スゲェだろ」
と、弓の出来に胸を張る鍛冶師。
「ああ、さすがリンだな。いきなり的に当てて来た」
リンの自慢をする俺。
「まあ、ちゃんと改良したら使えるようになるかなぁ」
というリンの冷静な声が魔道具から流れてきたが、もう、今の姿を見ただけで俺は満足だった。