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十月欠片  作者: とにあ
4/9

一目惚れ

 


 たったひとつ欲しいものがあるの。一目見て、気に入ったそれは古びたおうち。人目から隠れるような小径の先にあるお店にできそうなおうち。

 幼いあの頃迷って見つけた憧れの場所。

 見つけてくれたのは忙しい父のかわりにいろんなところへ連れて行ってくれた伯父だった。

 人に馴染めず、孤立していた私を見捨てずにいてくれた伯父。両親は忙しくて私はその手を煩わせてはいけないと知っていたから。

 気がつけば心に体が引かれて熱を出すようになっていた。

 弱くてはいけない。心配させてはいけないと思う私に両親はいろんな治療を試みてくれた。心因性の体調不良なんて怠けだ。甘えだと思われるんじゃないかとこわかった。

 伯父は笑って「そんなわけあるか。それがお前の個性なんだよ。向いた場所は絶対にある」そう言い切ってくれた。

 隣家まで車を走らせる必要がある土地に住んだ伯父の家に下宿して人の少なさにはじめて息ができた。

 静養という名目の自由な時間。

 熱を出さなくなった体はゆっくりと体力を蓄えていく。

 量を食べることができなかった食事が伯父が満足するほどに美味しく食べることができる。

 ごはんがおいしいと実感したのはいつぶりだったのかと思うとふいにおかしい気分になった。

 枝毛も増えてがたがただった髪もなめらかに太さが均一になってきた気がする。

 ぼろぼろな部分を切ってしまおうか?

 伯父が美容室に行くために車を出してくれて、私は人の多い場所に体調が悪くなるんじゃないかと不安になる。

 疎らにそれでも行き交う人影に私はわくわくと伯父についていく。

「帰りに遊園地でも行くか」

 携帯灰皿にタバコを押し潰した伯父が笑った。

 そうだ。

 人混みは大丈夫なんだ。

 私は何がダメだったの?

 私はわからなくなる。

 キラキラしたものが視界の端に滑り込んで振り返ったショーウィンドウには木製の箱。箱の蓋にプリントされたキラキラのユニコーン。一目惚れして店のドアをあけた。

 驚いた伯父に怒られたのはしかたない。

 傷んだ髪を切り揃え、今までにない頭の軽さ晒されるうなじが恥ずかしくて照れくさい。

 秋冬のタートルネック、フード付きのジャケット。帽子にマフラー。新しい家に足りないものを買い足していたら遊びに行く時間はなくなった。

 車の中で憧れた家の話をした。

「ああ、あそこか」と伯父がハンドルを叩いた。

 もし、もう一度あの家を見れたら嬉しいと思う。そんな私に伯父は笑うだけ。

 髪型も変え、体調も整ったなら私はまた息苦しい場所に行かないといけない。新しい場所で私は息ができるのだろうか?

 不安で熱が出そうだった。

 お互いが距離をはかりあう環境は意外にも息がつけた。そこは誰もがお互いに深く関わることを怖れていた。

 お互いに怖がっているとわかった。

 だから、友達もできた。

 言葉を交わすわけでなく、同じ部屋で本を読むだけの関係。

 会話はなかった。でも、私には友達だと思えた。

 また指先に髪を絡めるようになった卒業の時、メールアドレスのカードをくれたことがとても嬉しかった。

 私はやっぱりだれかと同じ空間で過ごすのが苦手で集団生活にむかないと孤立して過ごした。

 特に嫌いなわけではなく聞くともなしに聞く彼らの話は楽しいものでもあるのだ。その彼らの関心が私にむかないかぎりは。

 無関心を装った。それ以外に道はなかったのだから。

 無関心の仮面に慣れてしまえば必要な学業にむかえた。

 遠くはなれた友人とのたまのメールが息をつけた。

 その後の人生に仕事をと思ってもそれはあまりにもハードルが高かった。

 そんな時、伯父は笑って手を差し出してくれた。

「卒業祝いだ。また伯父さんと暮らそう。内装は選んでくれよ」

 信じられないような買い物に対しての言葉はちょっぴり恥ずかしいフレーズ。

 憧れた古びたおうち。

 得意げな伯父さん。

「これはもう風が僕の背中を押した」


「一目見て、気に入った」または「それ以外に道は無かったのだから」という台詞が入っています。

#このお話にはこんな台詞が入っています

https://shindanmaker.com/831006

「たったひとつ欲しいものがあるの」で始まり、「風が僕の背中を押した」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば10ツイート(1400字)以内でお願いします。

#書き出しと終わり

https://shindanmaker.com/801664

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