抱きしめないで
灯りをゆらして闇を照らす。
闇から浮かび上がる艶めく石板は夜露で滑りを帯びている。
風が吹けば重々しく枝が揺れ、梢の隙間から月と星、軽やかに踊る雲の競演が見れた。
「滑りますよ」
そう、声をかければ振り返ったあなたが手を差し出してきた。私が転ぶと思われたのだろうか。それとも手を引いて欲しいということだろうか。答えがわからないので見えないふりをした。
簡単に初対面の異性が差し出した手をとるほどにはしたなくはないのだ。なぜか心の奥で騒つくものがある。
未練に思っているようだと気がついて頬が熱く感じた。
彼は通り過ぎてゆく旅人。私はこの土地に生きる里人。簡単に手を伸ばせない。ほんのちょっとだけすれ違っただけの人。
虫の声。風の声。
私はもう会わないであろう人に恋をしたと気がついた。
彼はここではないところへむかう人。
「また来ます」
そう言ったあなたのぬくもりはとても卑怯だと思えた。
ここはあなたにふさわしくない。
私は手を伸ばせない。
だから、私を煩わせないで。
だから、抱きしめないで。
お題は〔抱きしめないで〕です。
〔カタカナ語禁止〕かつ〔「帰り道」の描写必須〕で書いてみましょう。
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お題は〔手を伸ばせない〕です。
〔句読点以外の記号禁止〕かつ〔「夜」の描写必須〕で書いてみましょう。
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