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皇宮の大広間に入ると、すでに音楽が流れていた。


「ニコラス王子、踊って下さいますか?」


シルヴィはさっさと義務を終わらせたくて、ニコラスを誘った。


「喜んで」


ニコラスは慣れた足取りで踊っている男女の輪の中へシルヴィを導いた。


そして二人は手を取り合い、踊り始めた。


シルヴィは踊るよりも剣の練習を好むような少女だったので、ダンスが苦手だった。


それでも最近の特訓と家族の協力のおかげで、ダンスの教師からも合格点をもらえるほど踊れるようになった。


加えて、ニコラスがしっかりとリードしてくれたから、自分が想像していた以上に踊りやすかった。


敵を褒めるのは気が進まないが、それでもシルヴィは心の中でそっとニコラスに感謝した。


あっという間に曲が終わった。


それはつまり、今日彼女がこの場で最低限しなければならないことも無事に終わったということを意味している。


ほっと小さく息を吐いたシルヴィは、ニコラスに


「もう一曲いかがですか?」


と誘われた。シルヴィの返事を見越しているのか、その目は笑いをこらえるように細められている。


シルヴィはむっとしかけたが慌てて笑みを顔に貼りつけ、扇を広げて口元を隠した。


「あまりの華やかな雰囲気に酔ってしまったようです。失礼して休ませていただいてもいいでしょうか?」


「構いませんよ。だが、あなたと踊りたいと思っている者がたくさんいるようですが……」


「何だかふらふらしますの。他の方と踊る余裕なんて……」


「おや、それは大変ですね。ですが、私とだけ踊って他の男と踊らないのは、あなたが私に負けたと宣言しているようなものですが、それでいいのですか?」


「っ……!!」


今まで『自分より弱い男とは踊らない』と宣言していたシルヴィである。ニコラスだけと踊れば、彼が自分より強い、つまりシルヴィを負かしたから踊っているのだ、と周りから思われるだろう。


逆に、彼に限らず他の男性とも踊るなら、周りにはシルヴィが意見を変えたと映るだろう。


自分がニコラスに負けたと思われるほうがましなのか、はたまた、自分が頑なに貫いてきたポリシーを改めたと思われるほうがましなのか。


眉根を寄せて迷っているシルヴィに、ニコラスは涼しい顔をして言う。


「私はどちらでも構いませんがね。あなたが私に負けたのは事実なので」


飄々とした彼の表情が腹立たしい。


シルヴィは二つの選択肢を天秤にかけ、結局後者を選んだ。


「ニコラス王子、おっしゃるとおりですわね。せっかくの機会ですから、他の方とも踊ることにします」


少々顔を引きつらせながら、それでも必死に笑みを浮かべ、シルヴィはニコラスにお辞儀した。


回れ右をして歩き出したシルヴィの耳にニコラスの愉快そうな声が届いた。


「それもいいでしょう」


彼は笑いをこらえているようだった。彼の声はわずかにだったが震えていた。


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