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ラザールの手紙により、シルヴィの中で何かが吹っきれた。
エルヴィーネ姫が紅ばらなら、自分はさしずめかすみ草か、ひょっとしたらそのへんに生えている雑草かもしれない。
雑草はどうがんばっても紅ばらにはなれない。
雑草にできるのは、自分が雑草であると自覚することだけだろう。
そして、踏まれても抜かれても切られても焼かれてもたくましく生きていかなければならないのだ。
そう悟ってから、シルヴィの心は落ち着いた。
彼女はまず最初に、腰まで伸ばしていた髪を鎖骨にかかるかかからないかというくらいの長さまでばっさりと切った。
元々シルヴィには長い髪に未練はなかった。髪を腰まで伸ばしていたのは、社交場に出る際に結わなければならないからだ。
だが、シルヴィには二度と社交の場に出る気はなかった。だから彼女にはもう髪を長く伸ばす理由がなかったのだ。
剣の稽古をする時に髪を束ねたほうが邪魔にならないので、ぎりぎり束ねることができるような長さまで切りたかった。
髪を切ったことにより、シルヴィは何だかすっきりしたような気がした。強くなったような気もした。きっと髪と一緒に今までの感情を捨てたからだわ、とシルヴィは思った。
胸の奥にとげが刺さったような感覚に時折襲われることはあったものの、前ほど泣きたくなったりいらいらしたりすることはなくなった。
彼女のその変化は剣の扱いにも表れているようで、
「シルヴィ、最近のお前さんの剣には迷いがないな」
と指南役のロイクにも褒めてもらえた。
私は自分の道を見つけた……!!
剣が私の全てだわ!!
シルヴィはますます剣の稽古に取りつかれた。
ロイクがより本格的な剣の指導をしてくれるようになったため、シルヴィは体中に傷を負った。訓練中についたすり傷だけでなく、打ち身や青あざもあちこちにできてしまった。
女官や侍女たち、教師たちはそんなシルヴィを見て嘆いた。
「そんなに生傷だらけになってしまわれて……」
「手だってまめだらけで……。こんな手をした貴族の令嬢なんて、このフェーベ大陸中を探したってシルヴィ様しかいませんよ」
しかし、シルヴィは気にしなかった。
大公女としてのたしなみに時間を割きたくはなかったが、そうしないと周りがいろいろとうるさい。面倒を避けるため、シルヴィは妥協してダンスや作法の授業を続けた。
やることはやっているのだから文句など言わせない。
そんなシルヴィの強い態度に、周りも諦めたようだ。前ほど口うるさく言われなくなった。




