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もうすぐ5月になろうとしていたある日、ローゲにいる兄ラザールからシルヴィに手紙が届いた。


兄が手紙をよこすことは滅多にない。


だから無意識のうちに身構えてしまい、何か悪いことが書かれているのではないかとシルヴィは勘ぐった。


手紙にはまず、4月の初めに士官学校で催された学祭のことが書かれていた。


去年はシルヴィも行ったし(行った先は士官学校校内ではなく裏山だったのだが)、今年もできることなら行きたかった。だが、ニコラスと顔を合わせるのが怖くて、結局行かなかった。


ラザールによると、今年はスヴェンの妹のエルヴィーネ姫がアンテ王国からローゲ見物を兼ねてやって来たらしい。


エルヴィーネはスヴェンに瓜二つの美しい少女で、すれ違う人たち誰もが振り返るほどだったそうだ。


シルヴィはエルヴィーネに会ったことはなかったが、彼女がとてつもなく美しい姫だということは疑いなく信じられる。


あのスヴェン王子と同じ顔なら、それは美しいでしょうね……。


シルヴィはほうっとため息をつき、目を手紙に戻した。


シルヴィが定期的にローゲに上京していることを兄スヴェンから聞いていたエルヴィーネは、シルヴィに会えるのではないかと期待していたため、実際にはシルヴィが来なかったので非常に落胆していたと書かれていた。


「行かなくてよかった」


シルヴィは思わず本音をもらした。


エルヴィーネ姫に興味がないわけではないが、もしシルヴィがその場にいたら、きっと誰もがナルフィ大公女である自分とアンテ王女のエルヴィーネを比較するだろう。美しい姫と比較されるのはたまらないし、何より惨めだ。


手紙はまだ終わらなかった。


次にラザールは、親友のニコラスについて書いていた。


『最近ニコラスに元気がないからどうかしたのかと訊いてみたんだが、彼は「最近友人の妹が気になってしまって心がどうも落ち着かない」と言っていたんだ。エルヴィーネ姫に恋でもしたのかね。彼女のあの美しさではそれも無理ないけれど』


ラザールはシルヴィの想いを知らない。だからこそこんなことが書けるのだろう。ラザールにとってはただの世間話なのだろう。


シルヴィは兄からの手紙をいったんテーブルの上に置き、座っていたソファにもたれかかった。


泣いてしまうのではないかと思ったのだが、自分でも意外なことに、涙は一滴も出なかった。


「そりゃそうよね……」


誰もいない一人きりの部屋で、シルヴィはぼそっと呟く。


エルヴィーネは『アンテの紅ばら』と呼ばれている。このティティス帝国にさえその美しさが伝わっているのだ。


鮮やかな紅ばらが咲いていれば、誰もが目を奪われるだろう。誰もが見とれるだろう。誰もが手に入れたいと思うだろう。


「そりゃ、そうよね」


もう一度繰り返してから、シルヴィは大きく息を吐いた。


一瞬、それではペリーナの家のパーティーで連れていたあの未亡人とはどうなったのだろうと疑問に思ったが、シルヴィはすぐに考えるのをやめた。


彼が好きなのはあの未亡人やエルヴィーネ姫のように美しい人で、自分ではない。だから彼があの未亡人とどうなろうと、エルヴィーネとどうなろうと、自分には全く関係がない話だ。考えるだけ無駄というものだ。


シルヴィはかぶりを振って、兄からの手紙の続きを読んだ。


手紙には最後に、6月から一カ月の休みに入るため、ナルフィに帰る予定の日が記されていた。


シルヴィは最後の部分にだけもう一度目を通し、兄からの手紙を折りたたんだ。


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