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「ぐっ……悔しいっ!!」
剣が苦手だと言っていたニコラスに土をつけられ、シルヴィは誰にはばかることなく口惜しさを表現した。
対戦開始の後、ニコラスはシルヴィが何度も繰り出した攻撃を見切ってかわすと、一度だけ反撃した。
彼の攻撃は決して速くはなかったから、自分のほうへ向かってくる彼の剣の軌跡を見ながら、シルヴィは彼の剣を受け止めることにした。
ところが、その判断は間違っていた。
ニコラスの剣さばきは速くはなかったが、代わりにとてつもなく力がこもっていて、剣を握っていたシルヴィの手がびりびりとしびれた。
思わずシルヴィの剣を握る手の力が弱まり、彼女の剣はニコラスの剣に弾かれ、宙をくるくると舞った後で地面に激突した。
そして彼女自身もバランスを崩し、地面に倒れ込んだ。
シルヴィはまず、何が起こったのか理解できなかった。まだしびれが残る両手と飛ばされた自分の剣を交互に見比べ、ようやく状況を把握した時に、彼女の胸に言いようのない悔しさが込み上げてきた。
剣には自信があったのに、たった一撃で剣も自分も飛ばされてしまった。それも、剣が苦手だと言っていた相手に。
「お前は馬鹿力だからな」
スヴェンは素直にニコラスを褒める代わりに笑った。
ラザールは地面に倒れ込んでしまった妹を起こし、彼女を立ち上がらせた。
シルヴィの服についた土を払いながら、ラザールは
「どうであれ負けは負けだ。シルヴィ、今度の皇宮のパーティーでニコラスに踊ってもらえ」
と言った。
シルヴィよりも早く反応したのはニコラスだった。
「はぁ?」
一瞬遅れてシルヴィも面食らった。
「えっ……!?」
ラザールはまずシルヴィに
「お前より強い男となら踊るんだろう?」
と言い放ち、次にニコラスの耳元で囁く。
「頼むよ、ニコラス。シルヴィを社交界に引っ張り出すせっかくの機会なんだ。協力してくれ」
「………ワイン一本で協力してやる」
友人から協力の確約を取りつけたラザールは再びシルヴィに向き直り、
「分かったな、シルヴィ」
と妹の返事を待った。
だが、シルヴィは不満げな顔をして返事をしなかった。実際、不服だった。
「………………………」
すると、ニコラスがからかうように
「おや、君は自分の言葉に責任を持たないのか?」
とシルヴィを見下ろした。
シルヴィは下くちびるをきゅっとかんでから迷いを打ち払うようにすっと背筋を伸ばし、ニコラスに対して騎士の礼をした。
「分かりました。ニコラス王子、次回のパーティーではどうか私と踊って下さい」
自分が負けたことやニコラスと踊ることに納得したわけではなかったシルヴィは屈辱感をかみしめながらも、何とか自分の感情を落ち着かせようとした。
いくら納得がいかなくても、負けは負けだ。
ニコラス相手に油断していたことも事実だし、『自分より強い男としか踊らない』、すわなち、自分より強い男となら踊ると言ったのも、他の誰でもない自分だ。
「ああ、いいだろう」
ふんぞり返りながら言うニコラスに、シルヴィの感情が暴れ回った。
それを爆発させないように自分自身を押さえつけながら、シルヴィは平静を装って
「では、今日はこれで失礼します。ごきげんよう」
と馬に飛び乗り、その場を辞した。
ナルフィ家別邸へ戻る道中、シルヴィは決意した。
絶対ニコラス王子に勝って、スヴェン王子に稽古をつけてもらうんだから!!!




