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3月の中旬頃、ナルフィで剣の稽古に熱中していたシルヴィを、帝都ローゲに住む友人が訪ねてきた。


彼女はペリーナ。伯爵家の令嬢だ。


ペリーナは開口一番シルヴィにすがるように頼んだ。


「シルヴィ、お願いよ! 来週我が家で開くパーティーにぜひ来てほしいの!!」


「え~!? パーティー? 嫌よ」


シルヴィはにべもなく即答した。


「お願い!! 何人かの男友達に、どうしてもあなたを連れてきてって頼まれてしまったの。ね? だから、私を助けると思って」


「嫌よ。その男友達って、私よりもナルフィ大公家に関心があるろくでもないやつらなんじゃないの!?」


「それは違うわ!! 以前あなたが参加したパーティーであなたと話したり踊ったりして、あなたの人間性に興味を持ったんですって。最近あなたが姿を現さないから、あなたと友達の私が機会をもうけるように頼まれたの」


ペリーナの言葉を、しかしシルヴィは信じなかった。


私の人間性に興味を持ったですって!? そう言っておけば私を落とせるとでも思ったのかしらね。


でも、おあいにくさま。私は騙されたりしないわ。だってニコラスが忠告してくれたもの。


心の中で無意識にそう思い、シルヴィははっとした。


ニコラスのことなんて思い出したくないのに、他の誰でもない自分自身が彼を思い出してしまった。


頭から彼の存在を追い出そうとすればするほど、シルヴィの脳裏にニコラスの姿が思い浮かび、耳の奥で彼の声がよみがえってしまう。


「ねぇ、お願いっ!!」


ペリーナに手をつかまれて、シルヴィは我に返った。


びくっと体を震わせて目を大きく見開いたシルヴィの顔を、ペリーナが怪訝そうに覗き込む。


「シルヴィ? どうかしたの?」


シルヴィは首を横に振った。


「ううん、何でもないわ」


「そう?」


切り替えの早いペリーナはさっさとシルヴィの説得に戻った。


「お願いよ、シルヴィ!! 私の顔を立てると思って、ね? あなたの好きなお菓子をたくさん用意するから!」


シルヴィは何度も何度も断ったが、シルヴィを説得するためにわざわざローゲからナルフィまで直接足を運んだペリーナも決して諦めなかった。


一時間以上不毛なやりとりを繰り返し、先に音を上げたのはシルヴィだった。


「………分かったわよ、一度だけだからね」


ペリーナの根気に負けたシルヴィの返事に、ペリーナは嬉しそうにシルヴィに抱きついた。


「ありがとう、シルヴィ!!」


こうしてシルヴィは非常に不本意ながら、ペリーナの自宅で開かれるパーティーに顔を出すことになってしまった。


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