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シルヴィは馬を繋いでおいた木のところまで全速力で走った。


走ったせいなのか、それとも動揺しているのか、心臓の鼓動が体中に鳴り響き、息苦しくて仕方なかった。


わなわなと震える手で必死に手綱を握り、シルヴィは馬に飛び乗って屋敷へ戻った。


屋敷の玄関口で使用人に馬を預けた彼女は、自室へと駆け込んだ。


動揺で震え続ける手でドアに鍵をかけてから、シルヴィはベッドに倒れ込んだ。


ああ、何てこと……!! 


どうしよう……!?


何であんなことを言ってしまったんだろう……!?


シルヴィは頭を抱えた。


ニコラスが私のことを女として見ていないことなんて分かっていたはずなのに……!!


何で私はあんなことを言ってしまったの!?


恥ずかしくて情けなくてたまらない!!


シルヴィはブランケットの下にもぐり込み、声を押し殺して泣いた。


彼に露ほども女として見られていなかった自分が惨めで、この世から消えてしまいたかった。


早くローゲから立ち去りたくて、シルヴィは翌日の朝一番にローゲを出た。


ナルフィに戻ってからも、彼女は自分の部屋に閉じこもって泣いた。家族が心配して何度もシルヴィの部屋を訪ねてきたが、今度ばかりはごまかす自信もなかったので、体調不良を理由に誰とも顔を合わせなかった。


三日ほど泣いたら、ようやく少し冷静になってきた。


『行動を起こさないで後悔するより、行動を起こして後悔するほうがいい』


シルヴィはアデライードから借りた恋愛小説の台詞を思い出し、心の中で激しく否定した。


そんなのは嘘だ!! 私は後悔でいっぱい!! 


あんな馬鹿なこと、訊かなければよかった……!!


シルヴィが失恋して得た教訓は、心に傷を負ってもお腹はすく、ということくらいだった。


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