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シルヴィはアデライードが貸してくれた本を読むことにした。


内容は恋愛話で、基本的に読書がそう好きではなく、読んだとしてもいつも冒険小説ばかりを選んでいたシルヴィには何だかとっつきにくいものだった。


話の筋は貴族令嬢が騎士に恋をするというもので、読み始めた時はシルヴィは体中がむずがゆくなるような気がしたのだが、とある場面を読んだ時にはっとさせられた。


主人公の貴族令嬢が、騎士が主人公の知らない女性と話しているのを目撃してしまった時に心乱されるというシーンだった。そこで主人公は自分が騎士に恋をしていることに気づき、同時に彼が話していた女性に対して嫉妬してしまうのだ。


そのシーンを読んだ時、シルヴィは雷に打たれたような衝撃を受けた。主人公の心理描写が、自分が昨日抱いた感情と同じだったからだ。


シルヴィは食い入るように読んでいた本から目を離し、しおりを挟んでから、震える手で自分の頬を押さえた。


恋……? 好き……?


私が……!? ニコラスを!?


だからアデライードに対して嫉妬したというの……!?


シルヴィは混乱した。


だが、もしそうなら、昨日自分の胸に湧き上がったあの得体の知れない感情も説明がつく。


私が、ニコラスを、好き……!?


自覚した途端、シルヴィの心臓の動きが早くなり、自分でも分かるくらいに体が一瞬で熱を持った。顔も耳も首も手も、体中全ての部分が火照ってしまい、シルヴィは苦しくて仕方がなかった。


シルヴィは本をいったんベッドわきのサイドテーブルの上に置き、急いでベッドへ飛び乗り、昨日と同じようにブランケットを頭からかぶった。ブランケットの下の自分だけの空間で、シルヴィは頭を抱えた。


どうしよう……!!


どうやら自分はニコラスのことが好きらしい。


けれど、だからどうすればいいのだろう。


そう疑問に思い、本の中に答えが書いてあるのではないかと思い至ったシルヴィは、がばっと起き上がった。


彼女は先ほどサイドテーブルに置いた本を再び手に取り、しおりを挟んだ箇所を探して本を開き、どきどきしながら続きを読んだ。


本の中で主人公は親友に自分の悩みを打ち明ける。自分の意中の騎士は、ひょっとしたらあの話していた女の子のことが好きなのかもしれない。そうこぼしながら主人公は親友の前で泣く。


親友は主人公を励ます。


『行動を起こさないで後悔するより、行動を起こして後悔するほうがいい』


そう言って、とにかく主人公に行動を起こすよう促すのだ。


主人公は親友の言葉に励まされ、思いきって騎士に彼が話していた女の子が一体誰なのかを尋ねる。騎士は『彼女は私のいとこです』と答える。


主人公は安堵し、勇気を出して自分の想いを騎士に告げる。そして騎士は、自分も主人公のことが好きだったけれど身分差があるから自分からは想いを告げることはできなかったと主人公に本心をさらけ出す。


自分たちが両想いだと知った二人は、主人公の父に自分たちの仲を認めてもらうようにかけあう。主人公の父親も二人の仲を認めてくれ、そして二人は無事に結婚するのだ。


誰もが笑顔で二人を祝福した。


そんなふうに物語は結ばれていた。


『行動を起こさないで後悔するより、行動を起こして後悔するほうがいい』……か……。


シルヴィは作中の主人公の親友の台詞を頭の中で反芻した。


この物語を自分に当てはめてみるとしたら、シルヴィはニコラスに想いを告げなければならない。


しかし、シルヴィは首を横に振った。自分がそんなことをするなんて考えただけでも恥ずかしくて死んでしまいそうだった。


それに、この物語の中では相手の騎士も主人公の貴族令嬢を好ましく想っていたわけだが、ニコラスが自分を好きだなんてシルヴィには到底思えなかった。


自分は女らしくないと周りから散々言われてきたし、自分でもそう思う。きっとニコラスはシルヴィを妹のように、どころか、弟のようにしか思っていないだろう。


それが分かっているのにニコラスに気持ちを伝えるなんて、絶対にできないとシルヴィは思った。彼女にとってそれはあり得ない選択肢だった。


シルヴィができるのは、彼にも、そして他の誰にもこの想いを知られないように、ただひたすらに隠しておくことだけだろう。


シルヴィは目を伏せ、この想いを断ち切ることを決意した。


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