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翌日、シルヴィは昨日よりは柔らかい気持ちで目覚めた。


いつも元気なシルヴィが体調を崩したと聞きつけ、昨日の夜から兄弟姉妹たちが入れ替わり立ち替わり彼女の部屋を訪れたおかげで、シルヴィの気もいくらかまぎれた。


だが、アデライード、ニコラスと顔を合わせるのは何となく怖かったから、シルヴィは朝食を自室で一人でとった。


昼前にアデライードがシルヴィの部屋にやって来た。


「シルヴィ、体調はどう?」


「うん、昨日よりはよくなったわ」


シルヴィの返事に、アデライードはほっと胸を撫で下ろした。


「よかった。でも、無理をしてはだめよ?」


どこまでも自分の心配をしてくれるアデライードの純粋な瞳が、シルヴィには少し痛かった。何の非もない彼女に対して昨日自分は表現しようのない感情を抱いてしまったのだ。そんな自分には、彼女の気持ちはもったいないとシルヴィは思った。


アデライードはシルヴィに


「ラザール様がローゲからお戻りになって、せっかくの家族水入らずの時間でしょうから、わたくしはスルトに帰ることにするわね」


と告げた。


シルヴィはとっさにどういう反応をすればいいのか分からなかった。


元々家族の人数が多いナルフィ大公家である。遠縁のアデライードが一人増えたところでたいした違いはない。だから、大好きな彼女にもっとナルフィに滞在してほしいという気持ちももちろんあったが、今の自分がどこか変なことは自覚していたから、彼女が帰ることがありがたくもあった。


アデライードは手に持っていた一冊の本をシルヴィに渡した。


「これ、父がくれたのだけれど……」


シルヴィは両手で本を受け取った。


「おじ様が?」


「ええ。今ローゲでとても人気があって、広く読まれている本なのですって。わたくしも読んだのだけれど、とてもおもしろかったの。もしよかったら、シルヴィも読まない?」


流行に鈍感な父ユーリとは違い、アデライードの父は流行にとても敏感な人であることをシルヴィも知っていた。


「……ありがとう」


「これでも読んで、しばらくは安静にしていてね」


アデライードは姉イヴェットのような気安さでシルヴィのこめかみにキスをした。


シルヴィはくすぐったい気持ちになった。母マリエルはシルヴィが幼い頃に亡くなったので、彼女にははっきりとした母の記憶がない。けれどアデライードの慈愛のこもったキスは、まるで母から贈られたもののように感じられた。


自分の目の前にある絹糸のような輝く黄金の髪からはとてもいい香りがした。


女神のようでもあり、天使のようでもある幼馴染みの気遣いに、シルヴィの心が落ち着いていく。


同時に、昨日アデライードに醜い感情を抱いてしまったことを、シルヴィは改めて心の底から詫びた。


こんなに素敵な人に対して、私はどうしてあんなふうに感じてしまったのかしら……?


罪人が神に許しを請うように、シルヴィは心の中でアデライードに謝罪した。


「じゃあ、お大事にね」


「うん、ありがとう、アデライード」


ようやくシルヴィはアデライードの顔を正面から見ることができた。


シルヴィの心にも言葉にも、アデライードに対する純粋な感謝しかなかった。


そのことにほっとしながら、シルヴィはアデライードを見送った。


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