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シルヴィは手の中にあった二組の手綱を震える手で木にくくりつけた。


冬の柔らかい日差しの下で四人は一緒に昼食をとり、食事が終わると穏やかな時間を楽しんだ。


ラザールとニコラスは、外ではどうしても手放すことができない大公子と王子という立場を忘れ、まだぎりぎり少年でもあり青年の始めでもある年相応の若い男子として冗談を言ったりふざけ合ったりした。


アデライードも大公女という自分を縛りつける枷を下ろし、いつもよりのびのびとした気分になりながら、ラザールとニコラスがじゃれ合うさまを優しいまなざしで見守っていた。


この上ないくらい平和な時間のはずなのに、シルヴィの心は千々に乱れていた。目の前の三人はとても楽しそうに話したり笑ったりしているから、どう考えたって彼らの輪に入っていけない自分が悪い。


変なのは彼らではなく自分だ。絶対にそうだ。


それが分かっているのに、シルヴィはどうすればいいのか分からなかった。


せめて場の雰囲気を乱さないようにするためにも、嘘でもいいから笑いたいのに、笑い方を忘れてしまったかのようにどうすることもできなかった。


私ったら、一体どうしてしまったの……!?


今は冬だけれど、今日は風もなく十分に日も差しているからとても暖かいはずなのに、シルヴィは風邪でも引いたように寒くて仕方がなかった。体が小刻みに震えている。


柔らかい空気をまとう彼ら三人は、まるで春の陽だまりのようだった。なのに自分一人だけが凍てつく真冬の真夜中に外に放り出された凍死寸前の旅人のように孤独で侘びしかった。


「シルヴィ? どうかしたのか? 今日はずいぶん無口じゃないか」


ニコラスに尋ねられ、シルヴィは我に返った。


「体調でも悪いの?」


アデライードが手を伸ばし、そっとシルヴィの額に触れた。


「あら? 少し熱いかしら?」


アデライードは自身の額にもう片方の手をやり、自分とシルヴィの体温を比べた。


「どれどれ」


ラザールもシルヴィの頬に触れた。


「大丈夫よ」


シルヴィはそう答えたが、ずっと黙っていたせいか、声がかすれてしまった。


それがラザールを余計に心配させたらしく、彼は


「風邪でも引いたんじゃないのか?」


と気遣わしげにシルヴィを見やった。


「大丈夫」


もう一度シルヴィは言ったが、ラザールは立ち上がった。


「いや、風邪は引き始めが肝心なんだ。もう城へ戻ろう」


「そうね、それがいいわ」


アデライードもラザールにならうように立ち上がり、シルヴィに手を差し出した。


シルヴィがアデライードの手につかまって立ち上がっている間に、ラザールがニコラスに


「悪いな、ニコラス」


と詫びた。


「気にするな」


ニコラスは首を横に振った。


自分のせいで城に帰ることになり、シルヴィはうつむきながら


「……ごめんなさい」


と三人に謝罪した。


「いいのよ、シルヴィ」


アデライードがいたわるようにシルヴィの肩を撫でた。


「気にしなくていいよ」


ニコラスがそう言ってくれたから、シルヴィは少しだけ救われたような気持ちになった。


ところが、さらに続いた彼の


「元気がないシルヴィなんて、何だか張り合いがなくてつまらないしな」


という言葉に、シルヴィは鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。


体調を崩した自分になんて、いささかの価値もない。そう言われたような、自分を全否定されたような気になったのだ。


全身が凍りついていくような感覚に染められながら、シルヴィは固まってしまった。


「行こう」


歩き出したラザールにニコラスが続いた。アデライードがシルヴィを支えながら歩き出したため、シルヴィも何とか足を前に出した。


自分のせいで早く帰城することになってしまった罪悪感がシルヴィを苛んだ。


けれど同時に、彼女は心の底から安堵した。


なぜだか、アデライード、ニコラスと同じ空間にいるのがどうしようもなく苦しかったのだ。


美しい幼馴染みの整った顔立ちを見ていると、今までに覚えたことがないどす黒い感情が湧き上がった。大好きなアデライードに対してそんな感情を抱いている自分が情けなくて、シルヴィはいっそう惨めになった。


ニコラスだって、アデライードの微笑みに目を奪われずにはいられないだろう。目だけではなく心も奪われたって不思議ではない。そうなったとしてもそれは自然なことなのだ。


理性はそう判断しているのに、心は底のない絶望にとらわれてしまった。


本当に、自分は一体どうしてしまったんだろう。


シルヴィは自分が自分でなくなってしまうような未知の感覚に恐怖した。


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