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士官学校が冬の長期休暇に入るため、12月中旬にラザールがナルフィに戻ってきた。


ラザールがニコラスとスヴェンを誘ったので、シルヴィは家族とともに兄と兄の親友二人をナルフィ城の玄関口で出迎えた。


スヴェンは姉イヴェットの婚約者でもある。久しぶりに婚約者に会えるせいだろうか、普段は落ち着きを忘れないイヴェットがどことなくそわそわしている様子が目に入り、シルヴィはくすっと笑みをもらした。


姉上も人間なのね。


そりゃそうよね、婚約者に会えるんだもの。


しかも相手はあの美男子のスヴェン王子だものね。


シルヴィから見て、イヴェットはいつだって完璧な女性だった。そんな姉をシルヴィは尊敬している。


けれど今のイヴェットは一人の恋する女性だった。姉が見せた新たな一面に、シルヴィは姉に対して今までにない親近感のようなものを抱いた。


ちょうどナルフィの北西の隣国スルト大公国からアデライード大公女が遊びにきていたから、シルヴィの家族であるナルフィ大公一家の他に、彼女もラザールたちを出迎える人の輪に加わっていた。


アデライードは16歳で、ゆるく波打つ金髪にエメラルド色の瞳を持つ、おっとりした美人だった。その美しさからありとあらゆる方面からの縁談話を持ちかけられるのだが、本人はその状況から逃げたいらしく、イヴェットを慕っていることもあって、よくこのナルフィ城にやって来る。


このティティス帝国には、帝国の真ん中に位置する皇帝領と、皇帝領を取り囲むように東西南北に四つの大公国がある。ナルフィは皇帝領の南に横たわっているが、アデライードの実家スルト大公家が治めるスルト大公国は、皇帝領の西にある。


四つの大公家は皇帝に忠誠を誓い、そのために皇帝からそれぞれの領地を治めることを許されている。


四大公家は、時に水面下では互いに牽制しながらも、表向きは皇帝を守るために協力してきた。直接的な争いを避けるため、帝国成立後から積極的に各大公家の子女たちの政略結婚による縁組みを進めてきた。


シルヴィの長兄ラザールと、皇帝領の東のフォルニート大公国の末の大公女アリーヌとの婚約も、その例の一つである。


勢力の均衡を目指した婚姻を繰り返した結果、四つの大公家の家計図は、必ず他の三家との関係にぶち当たる。


そんなわけで、シルヴィにとって、アデライードは幼い頃から見知った友人でもあり、遠い親戚でもあった。


イヴェットを目指しているアデライードと、姉のことは尊敬しつつも別の生き方を模索しているシルヴィは、性格や考え方がかなり違うにもかかわらず、不思議と馬が合った。


残念なことに母は亡くなってしまったが、父ユーリ、姉イヴェットと一つ上の次兄ビセンテ、二人の妹たちと一緒に暮らしているから、普段からシルヴィの生活は静寂とは無縁だったが、アデライードの来訪と二人の親友をともなった長兄ラザールの帰還により、シルヴィの周りが輪をかけてにぎやかになり、彼女はそのことを心の底から喜んだ。


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