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翌月、シルヴィはニコラスとともに二回目のパーティーに出席することになった。


今回もラザールが手紙をよこし、どのパーティーに出るべきかシルヴィに指示を出した。


ニコラスに負けてしまった罰としてパーティーに出ることだけでも屈辱なのに、父ユーリや兄ラザールや他の兄弟たちだけでなく、ナルフィ城の騎士たちや使用人たちまでもが、シルヴィが社交界に顔を出すようになったことを喜び、ナルフィはまるでお祭り騒ぎだった。


それがシルヴィをますますいらだたせた。


彼女は最初の一曲をニコラスと踊り、その後に声をかけてきた複数の男性と踊った。


シルヴィにとって今回は、初めて出るパーティーではなかったから、どう振る舞うべきか前回経験していた彼女にも少しの精神的余裕があった。


シルヴィは帰ろうと思い、別の場所で数人の男女と談笑していたニコラスに話しかけた。


「ニコラス王子、私、そろそろ失礼しようと思います」


「それでは、馬車までお送りしましょう」


「まぁ、どうもご親切に。では、お願いいたします」


ニコラスは今まで会話していた男女に一礼し、シルヴィも彼らに軽く会釈してから、ダンスホールを後にした。


廊下に出た二人はすぐに紳士淑女の仮面をはずした。二人はシルヴィが乗ってきたナルフィ家の馬車を目指してゆっくりと歩き出した。


「今日はどうだった? 見たところ、ちゃんとお淑やかなお嬢様として振る舞っていたようだが」


シルヴィは行儀悪く背伸びをし、その後で首を回した。


「まぁ……、悪くはなかったわよ」


「そうか」


くすくすと笑っていたニコラスだったが、ふいに顔を引きしめてシルヴィに言う。


「でも、気安く近寄ってくる男には気をつけろよ」


「え?」


シルヴィはニコラスの言葉の意味をはかりかね、自分より背が高い彼を見上げた。


「嫌な話だが、ナルフィ大公女である君を狙って近付いてくる男がいないとも限らない。安易に心を許したりしないほうがいい」


シルヴィはようやくニコラスが言いたいことを理解し、重々しくうなずいた。


「…………分かったわ」


彼の口調にはどこか説得力があったから、彼が彼自身の経験も踏まえた上で自分に忠告してくれたのかと疑問に思ったシルヴィは、


「あなたにはいるの? スコル王国の王子であるあなたを狙っている人が」


と質問してみた。


ニコラスはあっさりうなずいた。


「子供の頃からたくさんいるよ。スコル王子である俺に近付いて、あわよくば妻の座を狙うしたたかで野心溢れる女がね」


「そう……。あなたもなかなか大変なのね」


シルヴィは同情を込めて言った。大公の娘という身分の自分にも起こり得る話だったから、彼に対する共感もあった。


ニコラスは苦笑しながら首を横に軽く振った。


「慣れればそうでもないさ。そういう女は本能的に分かるんだ。だから、そういう女には近付かないし、近付けさせない」


彼の淡々とした口調の裏には、彼が今までに経験してきたであろう苦味のようなものがにじんでいた。慣れたと言う彼の今の境地に至るまでに彼が遭った目を想像すると、何だかシルヴィの胸が少し苦しくなった。


シルヴィは自分の身に置き換えて考えずにはいられなかった。もし今日自分に話しかけてきた男性誰もが、シルヴィがナルフィ大公家の娘だったからという理由で接触を図ったり踊りに誘ったりしたのなら、シルヴィだっていい気はしない。ナルフィ大公女である前に、シルヴィは一人の人間だ。自分の肩書きだけで判断されるのは悔しいし、悲しい。


「ふぅん」


シルヴィは自分の心に広がっていく複雑な感情を何とか隠して、素っ気なくそれだけを言った。


ちょうどナルフィ家の馬車のところに着いたので、ニコラスは


「気をつけて帰るんだぞ」


とシルヴィを御者に引き渡した。


「ええ、ありがとう」


「じゃあな」


ニコラスが礼を言ったシルヴィに背を向けようとしたため、シルヴィははっとして彼を引き留めた。


「待って!!」


ニコラスはすぐに動きを止めた。シルヴィに呼び止められることを予想していたのだろうか、苦笑しながら


「何だ? まさかまた俺と対戦しようとか言うんじゃないだろうな」


と肩をすくめた。


「そうに決まってるでしょ!?」


シルヴィは両手を腰にやって、挑むようにニコラスを見上げた。


「君も懲りないな。いい加減諦めたらどうだ?」


ニコラスはどこか呆れたように、しかし同時にどこか楽しそうに、シルヴィを見下ろした。


二人の視線が絡み合った。


シルヴィは


「絶対に嫌!! 諦めるもんですか!!」


と腕を組み、今度はからかうような視線をニコラスに向けた。


「それとも、何? 次は私に負けるかもしれないから、私とはもう対戦したくないの?」


ニコラスはぷっと噴き出し、先ほどのパーティー会場では誰にも見せなかったどこか親しみやすい笑みを浮かべた。


「あのなぁ、そういうことは一度俺を負かしてから言えよ」


シルヴィはつられて笑いそうになってしまったが、それを何とか我慢し、あえてしかめっ面で


「負かしたいから対戦するのよ!!」


と答えた。


「はいはい。じゃあ明日の午後、また裏山で会おう」


仕方ないと言いたげな顔で笑いながらニコラスが場所と時間を指定したので、彼が自分の要請に応じてくれて嬉しくなったシルヴィは、喜びを抑えきれず、


「やった!!」


とその場でぴょんぴょん飛び跳ねた。


シルヴィはそのままの勢いで馬車に飛び乗り、


「じゃあ、また明日ね!!」


とニコラスに手を振った。


「ああ」


ニコラスは今度こそシルヴィに背を向け、会場へと戻っていった。シルヴィも御者に命じてローゲ市内にあるナルフィ家の屋敷に戻った。


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