ある日森の中、気持ち悪い毛玉をちぎって投げた
やってきました街の外。
現在地は南北の二か所に設置されている外門の北側から出て、体感で徒歩30分くらいのリュバリーの生息地である森林、通称『ジャ・クシャムの森』前でございまーす。
森の入口近くには簡素な櫓と小屋が建っており、ハンターや旅人の休憩所に利用されているほか、稀に起きるというモンスター・パレードに備えて、見張りと備蓄をしているらしい。というのは街を出るときに門番の兵士さんに聞いた話だ。
武器も持たずに街を出ようとしていた俺は、その門番さんに引き留められ、軽く説教されてしまった。ここを通りたければ、剣と盾を持ってこい。みたいな感じで。
俺も随分うっかりしていたものだ。魔物と戦いに行くのに武器を持たずに行くなんて、どこの無双格闘系主人公だよ……。もっとも、気づいていたところで、金がないので、ナイフ一本買えないわけだが。
最初は持っていた串焼きに使われていた串を見せて、「俺は……暗器使いだ!」とか言ってみたけど、投げてみろって言われて忍者をイメージして木に放ったら、すごく可哀そうなものを見るような目で見られた。しかも唯一の武器(串)も先端が破損した。
次に、「さっきのは冗談だ。実は俺の仲間が先に行っていて、合流する予定なんだ。武器も預けている」と言ったら、そいつの名前を言ってみろとか言われて、「……ジャ〇さんです」って答えたら、そんな奴は通っていないと、通行者の名簿を見せられて嘘がばれた。
まぁ、そんなこんなで様々な言い訳をしては、論破されるを繰り返したが、結局は無一文のうえ、ギルドカードも持っていないことを泣く泣く白状することになってしまった。
その後、名前を含めたいくつかの質問をされた後、なんとか通してもらえることになったのだが、なんと去り際に訓練でゆがみ、処分予定だった鉄の剣と、亀裂の入った訓練用の盾。さらに、倉庫で埃をかぶっていたという、獲物を入れるための古びたずた袋まで譲ってもらい、肩をたたかれ励まされた。
最後に「名前を教えてくれませんか」と聞くと、「お前が無事に帰ってきたら、教えてやるよ」と言われたのだが、串焼き屋のおっちゃんといい、そういう言い回しが流行っているのだろうか?
というわけで、冒頭に至る。
俺は櫓と小屋では、軽い挨拶だけすると、すぐさま通り抜け、ジャ・クシャムの森の中へ入っていった。
「異世界の森って言ったら、もっとおどろおどろしているものだと思ったけど、意外と普通だな」
木々は生い茂っているが、密集はあまりしておらず、足元はハンター達や魔物が踏みしめているためか、硬い。剣を振るのに問題はなさそうだ。生えている植物に見覚えのあるものは一つもないので、あまり触れないようにいておこうと思った。
狙いは弱い魔物のリュバリー(の幼体)一択だが、森にはほかにも様々な魔物が生息していると聞いている。油断はできない。
湊は鞘に入らないために抜き身のままだった剣と、盾を正面に構え、あまり物音を立てないようにそろそろと進んでいった。
ここで、リュバリーという魔物について説明しておく。
よく知られているのが、繁殖力が高く、森林のみではなく、平原や山、果てには海岸などでも見かけることがあるほどに、生息地は幅広い魔物であるということだ。
一般的には異世界におけるミミズやネズミのような小さい動物をエサにしているが、体長が大きくなり、成体に近づくほど、凶暴性と雑食性が増す。
リュバリーの幼体が他の魔物エサになったり、人間に刈られることが多いために、成体になれる個体は少ないが、幼体の時はおよそ30シン(30㎝)だった全長は、成体だと1~2コール(2m)を超す個体も現れ、成体となったリュバリーは街や村に、多大な被害を出すこともあるために、国ごとに一定の周期での間引きを行うことが義務づけられている。
生息地や個体によって、多少の能力の違いはあるものの、頭の一本角と白と黒の斑模様の体毛に覆われているという特徴は一貫しており、その発見のしやすさから、まるで刈られるために生きているようだと、魔物の研究者たちに囁かれているらしい。
「そして、その斑の体毛の中には薄っすら黄緑色の肉が詰まっている……と。串屋のおっちゃんには悪いけど、やっぱこいつの見た目は気持ち悪いわ。これが原因で刈られまくってるんじゃないのか?」
今、湊の正面には、黄緑色の血をまき散らし、ピクリとも動かない肉塊が横たわっていた。頭から伸びる特徴的な一本角に、無数の細かい傷があるが、流れ出た血液に隠れて見える白と黒の斑模様は、まさしく、狙っていたリュバリーそのものだった。
森に入ってしばらくしてエンカウントしたのだが、聞くのと実際に見るのはやはり、随分と違った。
まずは見た目。角と斑模様の体毛はいいとして、目や耳が体毛に覆われて見えないので、一見毛玉が歩いているとしか思えなかった。
次に凶暴性だが、成体になったら凶暴性が増すとは聞いていたのに、幼体でも十分に凶暴だった。子供でも倒せるとのことだったが、湊の常識でいう子供と異世界でいう子供はたくましさにおいて随分と隔たりがあるように感じる。
「動きは思ったより遅かったのは助かったな。まぁ、剣振るのとか慣れてなかったから、剣筋も乱れまくってて中々殺せなかったけど」
売れるかな、これと思いながら、用意していた袋に詰めていく。
のちに、血抜きをするのを忘れていて、ずた袋からぽたぽたと血が染み出て来るのにびっくりするのは余談である。
その後も湊は次々と現れるリュバリーをちぎっては投げちぎっては投げるかのように、仕留めていき、最終的には12匹のリュバリーを狩ることができたので、今日の狩りはここまでにして切り上げた。。




