その気持ち悪い肉がおいしいのが納得いかない
前略。私こと黒樹湊は異世界に数人の見知らぬ他人と一緒に呼び出され、勇者ではなく一般人でお払い箱だったのをいいことに、適当な理由をつけて、城を抜け出してきました。
……え? 召喚される前後の説明とかいる? きっと激しくテンプレ的で、おかしくも面白くもないことをつらつら述べるだけになっちゃうよ?
とりあえず、『勇者』を呼んだ理由は、ありきたりな魔族との抗争とか? 魔王が暴れているからとかではないっぽい。
王様っぽい人は人類の守護者がどうたら、魔物の脅威がこうたら言ってたけど、要は人柱だよね?どうせ裏では、うちにはこんなに強い勇者様(笑)がいるから、世界征服とか余裕だぜ! とか思っているに違いない。てか、あの王様はもう少しポーカーフェイスをしたほうがいい。悪質な感情が駄々洩れだったぞ?
ということで、湊は異世界パールヴァルのアルテリア国、その城下町を歩いていた。なう、である。
さっきまで居たバカでかいお城は、この町の中心地にあり、ドーナッツ状に平民街と貴族街に分かれているらしいのだが……ぶっちゃけ早く別の町に行きたい……。監視とかされてそうだし。一応は転移者の一人だから。
「……とはいうものの、やっべ旅費とかもらうの忘れてた。てか、絶賛無一文だわ。売れそうな物も持ってねーし」
ところで、この世界ではお金の稼ぎ方は多々あろうとも、すべての人々は皆ギルドに登録して、仕事をしているらしい。というか、ギルド証を持っていないと一般的な仕事はできないうえに、宿にも止まれないとか、何それ身分証の一種なの?
さらに、ギルド証の発行手数料には金貨一枚(日本円だと10万円くらい)かかるらしい。おい、高いよ。そんな金あるわけないじゃん。
「ならおっちゃん、ギルド証なしで金を稼げる方法とかなんかない? 多少の危険なら我慢する」
「……頼むからそろそろ帰ってくれないか? お前さんがいるから、さっきから客が寄り付かないんだが。せめて一本くらい串焼き買え。」
とまあ現在俺は、さっきから屋台のおっちゃん相手に、この世界の一般常識を聞いている。まずは串焼き(全体的に薄っすら黄緑色の肉!! マジで何の肉!?)を買えとか言われたけど、フル無視して空気を読まづに話しかけまくってたら、折れて色々教えてくれている。
「だから言ってんだろ? 田舎からここまで旅してきたときに、事故って金も常識も落っことしちまったんだだよ。いわゆる記憶喪失のかわいそうな無一文だぞ? 逆に一本くらい奢ってくれてもいいじゃねーか。そんな気色悪い色の肉使ってんだから、どうせ売れ残って腐らすのがオチだろ? てかはっきりというが……朝から何も食べていなかったので腹ペコなんだ……この際、その気色の悪い肉で我慢するから、分けてくんね?」
「いや、嘘ならもっとましなのを吐けよ。それに、こいつを気色悪いって二回も言うな!確かに色が悪いのは俺も認めるが、ここらじゃ一般的に食べられてるリュバリーって魔物の肉だ。ちょっとそこいらの定食屋をのぞけば、普通に使ってる。それに今日はお前さんがこなけりゃ売り切れる予定だったんだよ……」
そう言いながら、串焼きを二本も渡してくれるツンデレ店主。
深い感謝を胸に、軽くお礼を言いながら、すぐさまかぶりつく。
うわ、なにこれ見かけのわりにマジで旨い。柔らかく程よくジューシーで、口の中でとろけそう……!? って、えっ!? マジで溶けたんですけど!? これがデフォ!?
持っている串から肉が消えるのにそう時間はかからず、腹いっぱいとはいかないまでも、今日一日を生きていく気力くらいは回復できた気がする。
「ふう、ごちそうさん。いやマジで助かったし、旨かったわ。気色悪い肉とか言って悪かったよ、この変な肉。今度金が入ったらお詫びもかねて大量に買いに来るから、さっきの質問の答えを教えてくんない?」
「絶対だぞ?……で、さっきの話の続きだが、ギルド証を持ってないってのは所謂『訳あり』に多いわけだが、そんな奴らの稼ぎ方といえば、表沙汰にできないような裏の仕事か、魔物を退治して得られる素材を売るぐらいしかないな。」
「え、もっと簡単な奴ない? 薬草採取とか」
ファンタジー世界での薬草採取は基本だろ!?
「薬草採取だぁ? おまえさん、そこらへんに生えてる雑草と薬草の区別がつくのか? それに、俺も詳しく知っているわけじゃないが、薬草を取るにも手順があるらしくてな。下手な採取をした場合、効能が落ちたり、最悪採取者が死ぬらしいぞ」
薬草採取怖っっ!?
「この世界の……ごほん。このあたりの薬草ってそんな物騒な物なのか?」
「ちゃんと手順や、薬草の種類、魔物対策さえしていれば問題はないはずだ。言っただろ、俺も詳しくは知らん。」
そのあたりもおいおい調べていくしかないか。今はちょっと保留で。俺は薬草採取系スローライフをあきらめたわけでは断じてない!
「わかった。なら、魔物退治しかないか。俺でも狩れそうな魔物、なんかいないかな?」
「それなら、お勧めはこいつだ」
そう言って、止めていた手を動かし、傍らに置いていた生肉を串に刺していくおっちゃん。
「リュバリーなら、そこら辺の子供でも狩れるくらいには弱い。正確にはこいつの子供だが、繁殖力も高く、ちょっと街から離れりゃすぐに見つかる。注意する点は、稀に姿を現す親の気性が荒く、ある程度経験を積んだ『ハンター』じゃないと倒すのは厳しいっていうのと、簡単に取れるから、買取金額が安いところだな。」
串に刺した肉にはすでに下ごしらえは終えているらしく、すぐさま鉄板にのせ、焼いていく。香ばしい匂いが漂い、食欲を刺激してくる。
「まぁ、だいたい三匹も狩れば一食分にはなるだろう。話はここまでだ。要らん時間を食っちまった。後のことは自分でどうにかしな。」
こいつは選別だ、と今しがた焼きあがった串焼きを、涎をたらしそうな勢いで見ていた俺に渡すと、シッシッとするように手を振ってきた。
「おっちゃん、最後に一ついいか?」
「……なんだ。まだ俺の邪魔をする気か?」
自覚はあるが、随分仕事の邪魔をしてしまったようで、おっちゃんは作業の手は止めず、こちらに見向きもしない。
「おっちゃんの名前を教えてくれ」
「……次にちゃんと金を持って買いに来た時に教えてやるよ」
俺は短い間だったが、このおっちゃんのことが気に入り、また来ようという思いを胸に、街の外を目指した。




