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マレーの匣庭  作者: 名取
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六話 争闘

「大地よ」


怪物の拳を止めたのは、セオドリクを脇に抱えたカネルヴァだった。否、正確にいえば"発動させた"のはカネルヴァで、止めたのは"植物"だ。


「え…えぇ!?」


セオドリクは大声を上げる。いつの間にか自分は抱えられていて、怪物と自分を抱える人物の間には折り重なるようにして壁になった幾多の幹。訳が分からず、セオドリクはソロ、と自分を抱えた人物を覗いた。



「あー!!!」


「今度はなんだよ…」


「昼間の!丁字路で!ぶつかった人!!」



間違えるはずもない。編み込まれた黒髪と、自分を睨む翡翠の双眼。何よりこんな破廉恥極まりない服を着た女性はこの人くらいだろう。



「……あん時のガキか」



ほんの少し目を見開いたように見えたが、瞬きをした後にはまた普通の表情に戻っていた。カネルヴァはふむ、と頷くと、脇に抱えたセオドリクを今度は襟の部分だけ掴み、そのまま────スローイングした。



「嘘だろぉぉ!?」


「エレーナ!このガキ諸共全員避難させろ!」



「任せて!」



エレーナはそう言うと、こちらに向かってくるセオドリクを受け止めるような動作をするわけでもなくポケットに手を突っ込んだ。取り出したのはピンクに輝く宝石が散りばめられた杖。



「民を守る風よ 主の意志に従え

安息へと示せ "風上の導き手"!」



途端に強風がセオドリクを襲う。体制はそのままで左に方向転換させられ、叫び声を上げながら地面に着地した。そこには既に何人もの人が目を白黒させていた。とても雑に落とされたセオドリクだったが、風そのものは地面すれすれまでゆっくりとセオドリクの体を下げていた。まるで生きてるようだ、と思わず口にする。



その瞬間、鼓膜を揺さぶる低い轟音が耳に届く。あの怪物が唸り声を上げたのだ。恐らく自分の攻撃を防がれ、挙句獲物に逃げられてしまったという怒りから。


その怒りの矛先は、未だ怪物の目の前に佇むカネルヴァに向かう。



「あの人は!?あの人も避難させなきゃ!」

「大丈夫よ」


割とあっさり否定したエレーナにセオドリクは"はぁ!?"と素っ頓狂な声を出した。

それに対して、エレーナは口の笑みを深くするだけ。



「あの子も強いから」




まるでそれに答えるかのように、カネルヴァの声が響いた。




「恩恵を受ける大地よ 汝が思いて杭となれ

我の意志に従う忠実な下僕となれ "大樹の老鎧"」



辺りを一瞬の静寂が包む。一拍おいて、強い地震が足を震わせた。カネルヴァの後方で起きた地割りから何かが這いずり出てきた。収まりつつある地震に反比例し、出てきたのは巨大な鎧兵。それはよく見てみれば、あの壁のように太い幹が幾つも折り重なりできたものだった。

それはゆっくりと動き、まるでカネルヴァを守るかのように背後に佇立していた。



「やれ」



カネルヴァのその声で、鎧兵は両手で怪物の身体を拘束し始める。手足を蔦に絡め取られた怪物は、もがきはするものの次第に抵抗は弱くなっていった。



「カネルヴァ、そのままにしててね」

「見つけた?」

「ええ、右手中指の指輪。」



それを聞いたカネルヴァは指をクイッと動かす。その動作に応じて、伸びた蔦が怪物の右腕を捻りあげる。中指に嵌る指輪をこちらに向けて。




「洗練たる水よ 我が命ず 我が望む

突き立てろ "水銀の羅針盤"」



シェリーの周りから現れた水がとぷ、と音を立て、すぐさま有尖無刃器のような形に変化した。"いきなさい"というシェリーの声に、水は意志を持ったように怪物に向かって伸びた。


見事指輪に命中し、水は瞬時に消える。音を立てて壊れていく宝石の欠片をエレーナがキャッチし、すぐさま小瓶の中に入れた。


途端に怪物はみるみるその身体を小さくし、元の姿に戻る。光る勲章に似合わぬ顔をした男だった。






「これは一体、どういう……」



呆然とした声色が響く。シェリーが振り返ると、顔色の悪い装飾品だらけの男が立っていた。頭には金に輝く王冠────この国の王が震えながら立っていた。



「そこに捕らわれているのは、ランドルフ公爵か…?何故貴殿はそこに……?」



首を凭れ気を失った男__ランドルフにゆっくりと近付く国王。それを腕で制したのは、エレーナだった。



「どうか冷静に。説明は後回しにし、貴方はこの場を収めて下さい

私達では彼等の信用に値しません。国王陛下、ご判断を。」




深く頭を垂れたシェリーに国王はハッとし、震える声で指揮を取った。カネルヴァはランドルフを拘束したまま地下牢へと案内され、シェリーとエレーナは怪我人や王に寄り添っていた。

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