四話 誤解
「何故あの場に?」
「偶然です 通りかかったところ悲鳴が聞こえたので向かいました」
引きずられるようにして馬車に乗らされ移動すること一時間。強引に下ろされ案内された部屋に放り投げられ、説明もなしに放置させられた。エレーナもカネルヴァもばらばらの部屋に案内され、二人がどうなっているのかはわからない。
「あそこで何をしていた?」
「買い物の帰り道でしたので、特に何かをしたわけではありません」
少し草臥れたイスとテーブル、そして小さなベッドといった質素な空間でシェリーは尋問されていた。内容は先程の騒動について。
「…お前は頭がきれるとみえる そんな奴が策もなしにあんな所に居るとは思えん」
「まぁ、買い被りでは」
「何かをしようとしたんではないか?そうでなければ貴様は騒ぎの中心になんの疑問も持たずに歩む馬鹿になるが」
「貴方のお好きなように推察して構いませんが、あれを起こしたのは私たちではありませんよ」
微笑むシェリーに、問い詰めていた男は口を噤む。連れてはきたものの、現在この三人があの騒動を起こした張本人と決めつける証拠が何も無いのだ。
舌打ちをした男は、扉の傍にいた男に合図して扉を開けさせ、去り際に大きな音を立てて閉めた。
「だから何度も言ってるじゃん、私たちは買い物をしていたときに悲鳴を聞いて駆け付け、アレに襲われたんだって!」
エレーナはバン!と机を叩く。目の前に座っていた男はそれに冷ややかに視線を送り"座れ"と命令する。
何故あそこにいたのか、とかなにをするつもりだった、とかまるでエレーナたちがあの騒動の犯人だと決めつけるかのように問われた質問に、エレーナは痺れを切らしたのだ。
「こちらも何度も言ってるが、発火も含めあれを抑える術を貴様らは持っていなかった にも関わらずあの場にいたのは貴様らがあれを起こした首謀者だからだろう」
「話が通じないわね!私たちは悲鳴を聞いて、向かう最中に炎を見た!だから消火をしようとしたけど着いたと同時に襲われたのよ!あれを起こしたのは操られた居住者なの!」
「操られた…?」
気になる単語を呟いた瞬間に扉が開かれる。扉から顔を出した男は"時間だとよ"とだけ言って引っ込む。追いかけるようにして席をたった男は、エレーナを一瞥してから出ていった。
「本当にお前たちではないのか」
「違う」
「なら何故あの場にいた?」
「買い物の帰り道」
先程から変わらない答えに、男は溜息を吐く。必要最低限な言葉しか喋らないカネルヴァの前に座る男は嫌々しく鼻を鳴らした。
「いつになったら帰らせてくれる」
「お前が真実を話せばな」
「ならもういいだろ、私は本当の事を話した」
「悪いがそうはいかねぇな、偶然にしちゃタイミングが良くねぇか?」
それまで自分の爪を弄っていたカネルヴァが顔を上げる。背もたれから背中を離し、右肘をテーブルにつけて男を見上げた。
「憲兵のクセに お前らは自警団じゃないだろ?仕事を間違えるなよ、お前らの仕事は疑うことじゃなく守ること」
そう言ったカネルヴァの表情は人を小馬鹿にした、所謂嘲笑の笑みを貼り付けていた。その眼も口も楽しそうに歪んでいる。
「もっとも、その守るべき国民を無惨にも切り捨てた駒に疑われる筋合いもないけど」
「ッ、貴様───!!」
カネルヴァの言葉で顔青筋をたてた男が手を振り上げる。それがカネルヴァに当たる直前、その手を掴んで止めたのは違う兵士だった。小さく首を振る兵士に対して、男は自分の座っていたイスを蹴飛ばす。
カネルヴァは既に興味なさそうにまた爪を弄っていた。